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AI時代の業務基盤を再定義する Miroが示したコラボレーションの新しい可能性

2026.07.24
奥山晶子
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ミロ・ジャパン合同会社 日本法人代表執行役社長 向山泰貴氏

2026年7月8日、デジタルホワイトボード基盤「Miro」を提供するミロ・ジャパン合同会社が、基幹イベント「Canvas ’26 Tokyo」に先立ち、記者向け発表会を開催した。本発表会では、日本市場における事業戦略と今後の展望、さらに米国で発表された「Miro AIプラットフォーム」の最新アップデートが紹介された。加えて、ファストドクター株式会社およびNTTドコモビジネス株式会社が登壇し、Miroを活用した業務改革の実例と導入効果について、具体的な知見が共有された。

背景と課題:「個人のアウトプット10倍、組織の成果1倍」の壁

ミロ・ジャパン合同会社は、業務プロセスの整理、会議運営、情報共有をオンライン上で効率化するためのデジタルホワイトボード基盤を提供している「Miro」の日本法人だ。最近では、ホワイトボードやアイデア出しツールだけでなく、業務基盤として活用され、製造業、小売、金融など幅広い業界で利用されている。

まずはミロ・ジャパンの代表執行役社長 向山泰貴氏から、AI時代を迎えた組織のあり方と、Miroの新しい役割について展望が語られた。

向山氏は「AIによって個人のアウトプットは 10倍になった。しかし、組織の成果はまだ1倍のままです」とし、AIが戦略に活かされていないことが現在のビジネスにおける最大の経営課題であり、同時に大きなチャンスでもあると分析した。

AI時代の働き方の根本的な変化が、この問題を生み出しているという。従来は人と人のコラボレーションが中心であったが、今は人と人、人と AIエージェント、AIエージェント同士の 3つのモードが存在する。しかし、それぞれが別々の場所で進行するため、組織全体で思考や情報を共有する場がなく、大きな分断が生まれている。

同時に、知的労働の本質も変わった。これまで実行作業が 80%、思考が 20% であったが、AIがタスク実行を担うようになると、この比率は逆転する。人間に求められるのは、問いを立てる、文脈を設計する、合意形成することなど、より高度な思考の領域だ。しかしコラボレーションの分断は、合意形成を困難にさせる。

そこでMiroは、業務プロセス再設計やビジネス変革を支えるイノベーションスペースとして進化する。向山氏は「Miroが目指すのは、人とコンテキスト、エージェントが同じ場所に集まり、組織として考え、決断し、実行する世界です。個人のアウトプット能力を10倍にするだけでなく、その力を組織全体の成果につなげます」と強調した。

思考を共有する「AI時代の業務基盤」へ進化

思考を共有する「AI時代の業務基盤」へ進化
ミロ・ジャパン合同会社 スタッフソリューションズエンジニア 髙木智範氏

続いて行われたデモンストレーションでは、同社エンジニアの髙木智範氏が登壇し、Miroの3つの新機能について解説を行った。

①ボイス機能(サイドキック)
プロンプト不要で、自然な会話を通して業務を進められる。声でアイデアを伝えるだけで、AIが情報の整理やメモ作成を実行する。

②エージェント型Sidekick
ユーザーが簡潔な指示を出すと、必要な情報を自動収集し、不足している詳細についてAIが逆に質問しながら数分で議論用のボードを生成する。さらに客観的な分析を加えることで、チームの深い議論を促進し、合意形成を加速させる。最終的にサマリーを自動生成し、Slackなどへ投稿することで、停滞していた議論を実行へと導いてくれる。

③プロトタイプ機能の拡充
プロトタイプの機能を拡充し、編集モードでカンバス上の直接編集を可能にした。マージンを調整したり、レイアウトを大きく変えてみたりと、チームのメンバーとディスカッションをしながら、より良いものをその場で作り上げていくことができる。課題解決に最適化したバリエーション作成も可能だ。

チームはこれらを比較し、一つを選ぶのではなく、各バリエーションの良い点・悪い点を洗い出し、その中から最善のものを作り出していく。その後、サイドキックやフロー機能を使ってフィードバック内容を整理し、ボタン一つでドキュメント化される。AIで形にしたものを人間が磨き、再び AIが改良するというサイクルが実現される。

日本市場へのコミットメント:日本企業が「安心」して導入できる環境へ

ミロ・ジャパンはさらに、日本市場向けに2つの新たな施策を発表している。

①国内データレジデンシー対応
企業の大事なデータを保管。金融機関や官公庁、大企業が求めるセキュリティ・ガバナンス要件を満たし、AI時代のコラボレーション基盤として信頼を構築する。

②ソリューションパートナー制度の立ち上げ
日本を代表するパートナー企業と連携し、ツール導入だけでなく、顧客の現場に入り込んでチェンジマネジメント(業務改革)を伴走支援。FDE(フォワードデプロイエンジニア)的なアプローチで、業務プロセス改革を推進していく。日本ではすでに、トップSIの90%がMiroを採用している。イノベーションスペースとして、さらに新しいビジネスを生み出すツールへと進化していく構えだ。

Miroを使って「組織の力」を引き出している2社のリアル

発表会では、2社の活用事例が紹介された。

①ファストドクター株式会社

ファストドクター株式会社 代表取締役 水野敬志氏

ファストドクターは、救急往診・オンライン診療プラットフォームだ。24時間・365日体制で、夜間や休日の急な体調不良時に医師の往診やオンライン診療をマッチングしている。水野氏は「安全性と医療者の納得感、そして患者様の体験を同時に成立させるには、全員が同じ地図を見られる共通のキャンバスが必要」と発言。医療の現場をMiroのボードに書き起こし、職種ごとの頭の中にある「暗黙知」を業務フローとして扱えるようになった。

例えば診療報酬の算定業務は専門性の高い仕事だが、AIエージェント化を進めたことで、利用件数は3倍に成長したにもかかわらず、必要人数が8分の1に減少。病院ごとに違うシステムの仕組みを読み解き、暗黙知を実装可能な業務フローに変えていくことで日本初の算定エージェントを実装した。導入後、外来患者の会計処理のうち77%を自動化できている。

また、Miro AIワークフローは、顧客から得たプロセス情報をボードに記述すると、サイドキックが自動的に「標準化できる部分」と「個別開発が必要な部分」を判断する。これまで人間が行っていた読み解きと顧客ごとの個別判断がボトルネックであったが、これをMiroが解消しているという。

②NTTドコモビジネス株式会社

NTTドコモビジネス株式会社 執行役員 福田亜希子氏

NTTドコモビジネスでは、「モビリティ×AI」「医療×AI」「教育×AI」の3分野で、Miroを新規事業創出の基盤として活用している。

従来、技術者は技術面に、営業はビジネス面に偏りがちであるが、複数の視点から統合的にビジネスを組み立てることが重要だ。福田氏のチームはファシリテーター集団として機能してきたが、今後 Miro の新しい AI機能がファシリテーションをある程度まで担うことで、より多くのプロジェクトがプラットフォーム上で実現可能になると期待している。「こういった取り組みにより、『硬い会社』というイメージを払拭しながら、世の中を変えていくビジネスを実現していきたい」と福田氏は語った。

AIが業務の前提を変えつつある今、組織がどのように思考を共有し、意思決定を進めていくかは、バックオフィスにとっても避けて通れないテーマだ。Miroが示した新しい業務基盤は、個人の生産性向上を組織の成果へとつなげるための具体的な選択肢となり得るだろう。