AIを“使う”から、“動かす”時代へ 富士ソフトが挑むフィジカルAIと社会実装
「AI・IT・OTの融合」を掲げる富士ソフトが、2026年7月16日にAI事業戦略記者説明会を開催し、戦略の方向性、今後の人財活用、顧客向けのAI開発体制の整備やソリューションの強化など、具体的な取り組みを発表した。OT領域で培った深い知見を、AI分野でどのように活用するのか。説明会では、「Gen.2」と呼ばれる全社戦略におけるAIの立ち位置から、AI技術の体験施設「アクショナブルAIハブ」構想まで、幅広い戦略が示された。
AIは「導入」から「現場で動かし続ける」フェーズへ
富士ソフトは今年4月、新全社戦略「Gen.2」を発表した。モビリティ、産業機械、ハイテク、建設、小売・流通といった重点市場に対して再現性のあるオファリングを整備し、個別案件中心の提供型から、よりモデリング(型化)した価値提供へ進化していく方針だ。
そして「Gen.2」の成長エンジンとなるのがAIだ。独立した1つの技術テーマではなく、すべての領域を統合し、「Gen.2」全体を支えていくものとして、AIが位置づけられている。
富士ソフトは、AI・IT・OTの融合により顧客の未来を創造する「デジタルイノベーションカンパニー」を目指している。そのために重要なのは、単なるAIの保有ではなく、業務や現場でAIを動かし続け、課題を解決し企業価値の向上につなげることだ。
同社は、長年にわたり業務システム、基幹システム、クラウド、組み込み制御から、ロボット、SI、社会インフラなど幅広い領域でシステムを支えてきた。代表取締役の室岡光浩氏は、「この経験を活かし、AIを使うだけでなく、業務や現場で動かし続けることに責任を持つ会社へ進化していきたいと考えています」と発言した。
富士ソフトが強みとするフィジカル領域のAI
今後、AIの社会実装は段階的に進み、ITが企業活動を支える段階から、AIがソフトウェアを生み出す業務を担うようになり、最終的にAIが現場を支える社会へ移行する。同社は特にフィジカルAIの領域で、強みを発揮できるという。設備、ロボット、センサー、制御システムなどがAIと連結し、現実世界の動きを支援、あるいは最適化していく領域だ。
富士ソフトがAI時代に提供できる価値として、室岡氏は以下の3つを挙げた。
①AI・IT・OT の統合力
AIモデル、業務システム、データ、設備、制御、安全性能、運用を一体で設計し、現場で実際に動く状態につなげる力。
②ラストワンマイルの実装・運用力
現場の制約や既存システムとの接続などの課題を乗り越えて対応してきた実績がある。
③“止められない領域”での実績のモデリング
製造業や流通、小売り、社会インフラなどにおける止められない業務やシステムを支えてきた実績がある。知見をもって再現可能なオファリングへ進化していく。
室岡氏は、これらの方向性を「アクショナブルAI」と表現し、AIを現場でしっかり動かし成果につなげることが、AI戦略の中核であるとした。
社会実装を加速する「AI戦略3つの主戦場」
戦略の中核としてさらに詳しく示されたのが「フィジカルAI」「ビジネスAI」「エンジニアリングAI」の3つのドメインだ。
①フィジカルAI
現実のロボットや設備とAIを連携させ、物理的な現場を自律的に動かす領域。ラインを外れたボトルをAIが認識し、ロボットが自律判断してラインを止めずに復旧するデモンストレーションが紹介された。
②ビジネスAI
AIエージェントやバックオフィス改革など、人の知的業務を支援・代替する領域。
③エンジニアリングAI
老朽化した基幹システムなどを、AIの力で次世代型へ進化(モダナイゼーション)させる領域。
さらに、これら3つのAIを支える基盤として「AIアセットファブリック」がある。富士ソフトのノウハウを再利用可能な形で構造化した標準実装モデルで、高品質かつ再現性を持ってAIを実装するための土台だ。
人とAIが協調する未来へ。「アクショナブルAIハブ」の開設
高度なAI環境を実現する鍵が、AIを理解する人材の育成だ。同社は1万人超の在籍エンジニアのスキルをアップデートすることで、「AIネイティブ人材」へと進化させていく。するとAIによって人材の価値が下がるのではなく、むしろ役割が高度化していくという。
具体的には、何を作るかを決める「プロダクトオーナー」、正しい業務知識を提供する「ドメインエキスパート」、システムを設計する「AIアーキテクト」、複数のAIエージェント群を統合・制御する「AIオーケストレーター」、そして品質とガバナンスを確保する人材を育成していく構えだ。
さらに、従来の階層型・大規模体制から、各専門性を持つメンバーがフラットかつ自律的に連携する「ネットワーク型開発」体制へと移行することで、より高い価値を創出する。
また、同社は、AI技術を実際に体験できる「アクショナブルAIハブ」を構想している。単なるデモ展示ではなく、顧客と共にAI活用の解像度を高め、企業の現在地を診断し、実装へつなげる「変革の共創拠点」だ。
顧客の組織の現状を分析し、優先ユースケースや変革ステップを明確化して、実プロジェクトへつなぐ。ここで生まれた学びと成功事例は AIアセットファブリックに還元され、自社のAI資産を進化させるサイクルを形成する。
新しいビジネスモデルの起点であり、単に「見る場所」ではなく、変革を「決める場所」として機能させる狙いだ。
富士ソフトは今後、8月、9月、11月の3回にわたり他の戦略について個別説明会を実施するなど、年間を通じて「Gen.2」の実行状況をレポートするという。
室岡氏は最後に「PoC(概念実証)で終わらせず、確実な成果に変えていきたい」と改めてAI戦略に対する姿勢を示し、説明会を締めくくった。









