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AI時代に求められる新たな組織像とは 中央集権型人事からの脱却と現場主導のワークデザイン

2026.05.29
奥山晶子

2026年5月22日、マーサージャパン株式会社は「グローバル人材動向調査 2026」のメディア説明会を開催し、AI時代における企業と従業員の変化について最新の知見を共有した。AIの急速な普及により、従業員の活力は過去最低水準に落ち込み、将来の雇用やスキルに対する不安が世界的に高まっている。このような状況下で、AI時代にふさわしい組織と働き方をどう構築するかが語られた。

AIの急速な進展と「従業員の活力」過去最低という現実

マーサージャパン株式会社は、リスクアドバイザリー企業マーシュを親会社とする組織・人事コンサルティングファームだ。日経225銘柄の65%強をクライアントに擁し、2018年から世界各国の経営幹部・従業員を対象に調査を続けている。今回の「グローバル人材動向調査 2026」は、世界16地域・約12,000人を対象に、AI時代における企業・人材双方の変化を分析したものだ。

説明会では、同社 組織・人事変革コンサルティング部門シニアマネージャーの本間薫氏が登壇し、「今回の調査において注目すべき点が3点ある」とした。

1点目は従業員における活力の低下だ。健康、経済、キャリアの3側面から測定した「活力ある従業員」の割合はグローバルで44%、日本国内では49%にとどまり、前回から20ポイント以上低下して過去最低を記録した。

2点目は、従業員に広がるAI不安だ。グローバル・日本の双方で、AIによる雇用喪失への懸念が昨年から大きく上昇している。経営幹部のほぼ100%が「今後2年間でAI導入により少なくとも一定程度の人員削減が生じる」と認識しており、90%近くが組織設計の変更を検討している。現場の従業員は「自分のスキルが通用しなくなるのではないか」という不安を強めており、それが活力の低下に直結している構図が浮かび上がる。

経営陣と従業員の間に広がる「認識のギャップ」

本間氏が3つ目のポイントとして挙げたのが、AI活用機会の不公平性だ。従業員の7〜8割がAIにより生産性が向上したと認識している一方、学習やトレーニングへのアクセスに格差があり、公平性が担保されていないという懸念が高い水準で出ている。この不公平感は職場のモラルを下げ、より良い機会を求めた転職の検討につながりやすいという。

この問題の根底には、経営層と従業員の間の深刻な認識のズレがある。従業員はスキルの陳腐化に強い不安を抱き心理的影響も大きいが、リーダー層はその深刻さを十分に理解していない。調査では、「リーダーはAIの感情的・心理的インパクトを過少評価している」と感じている従業員が62%に上る。

リーダーに求める資質についても、経営側と現場側の見方は大きく異なる。経営幹部が「リスク意識」「レジリエンス」「戦略実行」といったビジネス遂行能力(IQ寄りの資質)を重視するのに対し、従業員が求めるのは「コミュニケーション能力」「共感力」「誠実さ」といった人間的特性(EQ寄りの資質)だ。経営陣は「何をAI化するか(WHAT)」に意識が向きすぎており、AI導入が従業員に与える心理的な悪影響を軽視しがちだと言える。

スキル投資についても同様のギャップがある。本間氏は「従業員は将来の職を心配しており、経営幹部はスキルギャップ解消のための投資が十分にできていないと感じている」と述べた。従業員は昇給よりもAIスキル習得やリスキリングを優先したいと考え、社内研修・人材採用・経験学習などを求めているが、企業側の対応は追いついていない。投資家もアジャイルなスキルベースモデルの構築に強く賛同しており、この問題を経営の優先課題として捉えるべきだという認識が広がっている。

日本的「メンバーシップ型」雇用の限界とワークデザインの再考

続いて登壇した、同社 組織・人事変革コンサルティング部門代表の大路和亮氏は、日本企業固有の構造的課題を指摘した。

日本の企業組織は、終身雇用やゼネラルローテーションを前提とした「メンバーシップ型」だ。この仕組みのもとでは、AIで業務を効率化しても、生まれた余白に「本来は不要な仕事」を作り出してしまう力学が働きやすい。「人がいる前提」の組織設計から脱却しない限り、延々と不要な業務が再生産されてしまう。

AIが浸透した時代に問われるのは、「AIが奪う仕事」ではなく「人間が生み出す価値」をどう定義するかだ。AIにタスクを代替させるだけでなく、調整・創造・共感を伴う意思決定業務へと人間の役割をシフトさせていく必要がある。大路氏は「各社固有のビジネスの中で、何を人が行い、何をAIが行うかを本気で問うことが必要だ」と述べた。

また、従業員のニーズが多様化する中、全社一律のマス向け人事制度では対応に限界が来ている。AIの活用で労働生産性が上がった場合、その果実を従業員にしっかり還元していく姿勢を経営が明確に示すことが、不安を和らげ組織の活力を保つうえで不可欠だと大路氏は強調した。さらに、現場のマネージャーには今後、「この業務をAIと人のどちらに渡し、どういう形で進めるのが効率的か」を判断するスキルがより高く求められると付け加えた。

人事の役割転換:中央集権から「現場マネージャー主導」の最適化へ

AI時代に人事部門はどう変わるべきか。従来型の「中央集権的・画一的に公平性を担保する人事管理」はもはや立ち行かなくなる。人事は戦略的アドバイザー(ビジネスパートナー)として現場を支える存在へと変わり、採用・報酬決定・要員計画(ワークフォースプランニング)の主導権は現場マネージャーへと委譲されていく——最後に登壇した、同社 組織・人事変革コンサルティング プリンシパルの江口智彬氏は、こうした方向性を踏まえ、社員の「デジタルウェルビーイング」を維持するための企業対応として5つの提言を示した。

第1に、AIと人の役割を明確化し、経営が会社の未来像を発信すること。調整・創造・共感を伴う仕事の価値が増幅される未来を、経営としてメッセージとして届ける必要がある。第2に、その経営メッセージを受けて、マネージャーが業務設計と必要スキルを具体的に提示すること。第3に、生成AIの利用環境と教育機会を全社員に平等に提供すること。第4に、1on1やサーベイの設問見直しを通じて、社員の本音を拾い上げる仕組みを整えること。そして第5に、集めた声を経営アジェンダとして扱い、開示や経営層KPIとの連動を含めて責任を持つことだ。

現場マネージャーがAIエージェントと人間それぞれの強みを見極め、一人ひとりに寄り添いながら組織環境を整備していく——そんな時代の到来を前に、江口氏は継続的なKPIのモニタリングと、AIが進化するたびに従業員へ新たな未来像を提示し続けることが、デジタルウェルビーイング維持の鍵だと強調して説明会を締めくくった。強いリーダーシップと人事の構造転換が、改めて企業に問われている。