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SmartHR、ARR300億円を突破 従業員ポータル領域が新たな事業の柱に

2026.07.15
奥山晶子
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クラウド人事労務ソフトなどを手がける株式会社SmartHR(本社:東京都港区、代表取締役CEO:芹澤雅人)は、バックオフィスシステム「SmartHR」のARR(年間経常収益)が300億円に到達した。従来のプロダクト拡大に加え、「AIアシスタント」をはじめとする従業員ポータル領域が新たな事業の柱に成長。2025年6月〜2026年5月期のフリー・キャッシュフロー(FCF)比率は17.5%を記録した。

同社は2026年7月7日、今後の事業戦略発表会を開催。急速に変化する労働環境に対応するため、蓄積された人事データとAI技術を掛け合わせた新たなプロダクト戦略を展開し、さらなる事業成長を目指す方針を示した。当日の発表会の模様をレポートする。

単体ARR300億円を突破 盤石な収益基盤と2030年への構想

発表会では代表取締役CEOの芹澤雅人氏が登壇し、まずは最近の事業実績について説明した。昨年、同社は「2030年までに1000億円を売り上げる」という目標を掲げている。内訳は、メイン事業のSaaSクラウドサービスで860億円、クラウドサービス以外で140億円。また、既存事業で820億円、M&Aや協業を通して180億円だ。

プロダクトは情報システム・従業員ポータル領域を中心に成長し、2026年7月時点でARR(SaaSのサブスクリプションによる年間経常収益)が300億円を突破。導入企業社数は8万社を超えている。芹澤氏は「この数値は国内業務システム市場でもかなりの規模。私たちが人事労務における基幹システムとしての進化を遂げていることを証明している」と分析した。

事業拡大に伴い、収益基盤の確立も進んでいる。SaaSは黒字化を達成するのが難しいビジネスモデルとされているが、同社は直近の1年間でSaaS単体でのフリーキャッシュフロー黒字化を達成した。生み出した利益を、M&Aなどの成長投資へ還元することが可能になっている。

現場の負担を劇的に下げる「AIアシスタント」の躍進

特に同社が力を入れている事業領域が、従業員ポータルだ。管理部門と従業員のコミュニケーションを円滑にするプロダクト群で、2025年3月から提供し、2026年の6月時点で獲得したARRが10億円を突破している。

従業員ポータルの代表的なプロダクトとしてAIアシスタントがある。AIが就業規則やマニュアルを学習し、24時間自動回答するものだ。導入社数は900社を突破し、問い合わせの自動回答数が累計で15万回を超える人気のプロダクトとして進化している。

導入効果として、「店長など管理側の時間外対応がほぼゼロになった」「従業員側の『夜間に質問しづらい』という心理的ハードルが解消された」など、管理者側も従業員側も負担が減ったという声が寄せられている。

AI活用に不可欠な「自社のコンテキストデータ」

話は今後のプロダクト戦略へと移行し、芹澤氏はまず「従業員向けのAIとバックオフィス向けのAIは、それぞれ別系統で進化させていくのがよいと考えている」と発言した。従業員向けには、給与明細やシフト管理など、働くために不可欠な情報をすぐに確認できるAIエージェントを提供する。そしてバックオフィス向けには、定型業務をAIに任せられる労働環境を提供するという発想だ。

※オフィシャル資料「バックオフィス向けAIエージェント」

なお、SmartHRは、現代のHRシステムに求められる要件として「新しい効率化」と「データドリブンな人的資本経営」の2点を重視している。クラウドと最新技術を活用し、従来業務の単なる効率化ではなく、新しい働き方そのものを提案することが1つ目の柱である。2つ目は、人事が経験や勘に頼るのではなく、データに基づき再現性のある意思決定を行える分析環境を整備することだ。

背景には、労働人口の減少と働く価値観の多様化という社会変化がある。終身雇用から人材流動型への転換が進む中で、企業は採用・評価・配置などの人材戦略を抜本的に見直す必要がある。実際、中途採用の拡大や制度刷新を進める企業ほど業績が良いというデータもある。

しかし、こうした戦略の実行は難易度が高い。そこでSmartHRは、人事データを基盤に企業の人材戦略を支援する立場を目指す。入社手続きや組織変更などの効率化を通じて蓄積される正確なデータにAIを掛け合わせることで、組織課題の特定や戦略実行を後押しする。

「AIが真価を発揮するには、企業固有のコンテキストデータが不可欠です。自社のコンテキストがなければ、組織課題を特定することができません。その基盤づくりこそSmartHRの強みであると考えています」と芹澤氏は強調した。

「他社比較データ」と「AI HRBP」がもたらす人事の好循環

芹澤氏は、SmartHRに蓄積された人事・組織データをAIと組み合わせ、企業ごとの最適解を導く環境を整備する方針を示し、その具体例として「他社比較データ」と「AI HRBP」を紹介した。

まず他社比較データは、業種・規模別の年収、年齢構成、組織構造などを手間なく把握できるベンチマークツールで、自社だけでは見えにくい最適な人事施策を導くための客観的比較を可能にする。SmartHR導入企業8万社超のデータを、許諾を得たうえでAIにより統計化し、秘匿性を保ちながら組織横断で比較できる点が強みだ。

※オフィシャル資料「他社比較データ」

AI HRBPは、SmartHRに蓄積された人事データをAIが横断的に検索・分析し、「英語が堪能でリーダー経験のある人材」「営業部門の次世代リーダー候補」など、条件に合致する人材を自然言語で探せる機能だ。候補者の実績や適性を整理して提示し、育成計画の提案まで対話形式で深掘りできる点が特徴だ。人事側が日常的に行う検討プロセスをAIが高頻度で支援することを目的としている。

※オフィシャル資料「AI HRBP」

これらの機能は人事の仕事を奪うものではなく、意思決定の質を高めるための武器である。しかし、人事データは秘匿性が高く、AI活用には心理的・運用的ハードルがある。そこでSmartHRは、システム導入にとどまらず、専門スタッフが伴走しながら課題特定から成果創出まで支援するサービスも検討している。

同社が目指すのは「人と組織のためのバックオフィスシステム」。効率化によって正確なデータを蓄積し、そのデータをAIのコンテキストとして活用することで示唆を得る。示唆がさらに効率化とデータ蓄積を促し、AIが賢くなる好循環をつくることで、企業の継続的な成長を支える仕組みを構築していく考えだ。