掲載希望の方 オフィスのミカタとは
従業員の働きがい向上に務める皆様のための完全無料で使える
総務・人事・経理・管理部/バックオフィス業界専門メディア「オフィスのミカタ」

AWS、中堅・中小企業の生成AI活用ポイントと導入事例を紹介 

2024.08.01
春奈

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWSジャパン)は7月18日、中堅・中小企業向け事業戦略記者説明会を開催。中堅・中小企業における生成AI活用のポイントやAWSのサービスラインアップを紹介するとともに、AWSのサービスを利用して生成活用を実践している2社の経営者によって、ビジネスにおける生成AIの活用事例が示された。

(写真左から)アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 サービス & テクノロジー事業統括本部 技術本部長 小林正人氏、株式会社やさしい手 代表取締役社長 香取幹氏、株式会社ネイティブキャンプ 執行役員 CTO 大西さくら氏、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 執行役員 広域事業統括本部 統括本部長 原田洋次氏

生成AI×パートナーで中堅・中小企業の課題を解決

現在、AWSジャパンが注力している取り組みのひとつが、中堅・中小企業に対するDX支援の強化だ。同社 広域事業統括本部 統括本部長 原田洋次氏は、「日本の全企業数の99.7%を占め、従業員数においても70%を占める中堅・中小企業は日本の未来と経済を背負っている」と語る。

一方で日本の中堅・中小企業は、DX推進にあたって、人材不足や知識・経験の不足、資金の不足などさまざまな課題を抱えている。これらに対処すべく、AWSジャパンは2024年、中堅・中小企業のDX支援において「生成AIによる経営課題解決」「AWSパートナーと顧客との連携」の2点に特に注力するという。

生成AIはビジネスを変革するゲームチェンジャーになりうるテクノロジーであり、中堅・中小企業においても活用が急務となっていることから、生成AIによる経営課題解決の推進を加速する。あわせて、2024年1月、パートナー企業を対象に、中堅・中小企業のニーズに対応するソリューションとサービスを提供する能力・実績を持つことを示す認定制度「中堅・中小企業向け(SMB)コンピテンシーパートナー」を新設。すでに認定を受けている2社に加えて、多くの企業が認定取得に向けて動いているという。

オンライン・オフラインの両面で学習機会をサポート

AWSが実施したAIスキルに関する意識調査では、日本の雇用主の68%がAI人材の雇用を優先事項としているものの、うち82%がAI人材の採用に苦戦している。こうした現状を踏まえ、社内でAI人材の育成に取り組めるよう、AI・クラウドの学習基盤「AWS Skill Builder」を提供。デジタルトレーニングによるインプットとハンズオン環境によるアウトプットで実践的なスキルを習得できるプラットフォームで、AI関連だけでも50以上のトレーニングを取りそろえている。加えて、リアルイベントやユーザーコミュニティなど、オフライン・オンラインの両面でさまざまな学習の機会を設け、各人の興味やレベルに応じて学び続けられる環境を整えている。

原田氏は次のように強調する。「単なる効率化・生産性向上にとどまらず、効率化によって捻出したリソースを振り向けることで新たなサービスの開発につなげられるなど、生成AIは新しいビジネス価値を生む大きなポテンシャルを秘めています」

簡単、安全な生成AIの活用の実現に向けて

続いて、AWSジャパン サービス& テクノロジー事業統括本部技術本部長 小林正人氏が登壇。日本の中堅・中小企業が活用できるAWSの生成AI関連サービスについて紹介した。

ユーザーニーズに応える形でイノベーションを加速させてきた結果、Amazon Bedrockが提供する基盤モデルは31、生成AIが組み込まれたAWSサービスは28を数える。また、生成AIのテクノロジースタックは、ユーザーが取り組みたい内容やゴールに応じて最適な方法を選べるよう、次の3層のモデルを用意している。

・大規模言語モデル・基盤モデルを活用した構築済みアプリケーション(Amazon Qシリーズ)
・大規模言語モデル・基盤モデルを組み込んだアプリ開発のためのツール(Amazon Bedrock)
・基盤モデルのトレーニングと推論のためのインフラストラクチャー(GPUs、Trainium、Inferentiaなど)

小林氏は次のように語る。「生成AIの活用において重要なのは、何がどうなったらうれしいかゴールを定めること、またそのゴールになるべく早く、簡単にたどり着けるようにすること、です。AWSのサービスを利用することで、『環境を構築する』『基盤モデルを動かす』といった大変な作業を我々にお任せいただき、『何を実現するのか』『どう実現するのか』を設計することに注力いただくことで、簡単、安全に生成AIの活用を実現できると考えています」

簡単、安全な生成AI活用を実現するためのアプリケーションのひとつが、データ活用とソフトウェア開発を加速する生成AI 搭載アシスタント「Amazon Q」だ。AWSジャパンは、2024年中に「Amazon Q Business」の日本語対応および東京リージョン対応を予定しており、生成AI活用がより身近になることが期待される。

事例1.膨大な介護記録の報告を自動化

次に、実際にAWSのサービスを利用して生成AIの活用を実現している企業の経営者が登壇。在宅介護サービスを提供する株式会社やさしい手は、創業以来大事にしてきたクレドを実現するために、すべての利用者と従業員を情報レベルでつなぐ情報開示システム「ひつじ」を開発。介護記録をはじめとする利用者の情報を大量のデータとして蓄積してきた。

よりパーソナライズされたサービスを提供するための情報の可視化・精緻化に向けて、BI(ビジネスインテリジェンス)やAIの活用を検討。すぐに業務活用可能なアプリ「Generative AI Use Cases JP」が提供されており、簡単にPoC(Proof of Concept:概念実証)ができることや、経営課題に寄り添った支援体制などから、Amazon Bedrockを導入した。

現在は、介護業務にまつわる膨大な文書処理の自動化に生成AIを活用しており、Amazon Bedrockを用いて1カ月、利用者あたり6万字の介護記録を利用者、家族、医師、ケアマネージャーに報告する業務の自動化を実現。訪問介護事業においては9万字の記録の要約を自動化している。ケアマネージャー向けの看護記録は専門用語を使って端的に、家族向けには専門用語を使わずわかりやすい言葉で要約するなど、それぞれのステークホルダーにとって、適度な量の読みやすい情報を適切なタイミングで届けることが可能になっている。

加えて、Amazon Bedrockを用いて、介護記録プロセスレコードや音声データに基づいた個別作業手順の自動更新も実現。23項目のアセスメント標準項目に沿って、利用者個別のケアプランの案を自動生成する取り組みも進めている。

「クレドを実現するためのひつじシステムに生成AIを統合していくことで、利用者の付加価値向上と従業員の生産性向上につながることがわかりました」と代表取締役社長 香取幹氏。今後は利用者や家族からのLINE経由の問い合わせに生成AIが自動で回答する仕組みの構築にも取り組んでいくという。

事例2.英会話レッスンの要約やトピックの提案を自動化

オンライン英会話サービスを運営する株式会社ネイティブキャンプは、セキュリティとプライバシーが担保できることや、カスタマイズの容易さなどから、AIをより安全に、素早く導入できると考え、Amazon Bedrockを採用。

「教材を使わずにフリートークでレッスンを進める際に、トピックを考えるのが大変」という講師の声を受け、生徒の属性に応じたトークテーマを講師へ提案する「AIトピックサジェスト」機能を開発。講師から「レッスン中に考えることが減った」と好評を博している。

また、「レッスンの復習のためにノートを取りたいが、英語をしゃべりながらメモするのが手間」という生徒側の課題、忙しい講師は一日中レッスンが続くため「前回話したテーマを忘れてしまう」という講師側の課題を踏まえて、「AIレッスンサマリー」機能を開発中だ。25分間のレッスンの音声データをテキストに変換。テキストデータをLLM(大規模言語モデル)で処理し、会話の内容を理解した上で要約したり、改善点を提案したりできる機能で、レッスン開始時に前回のレッスンの要約を画面で確認することで、生徒側は文法の間違いなどを復習しながらレッスンに臨め、講師側は前回の内容を思い出してスムーズにレッスンを開始できる。

CTO 大西さくら氏は、「今後は新コンテンツの効率的な開発や、講師の質を高める機能の開発、講師の採用やトレーニングの自動化・効率化に生成AIを活用していきたい」とこれからの展望を語った。

生成AIの活用事例がまだまだ限られている中、AWSジャパンは、ハンズオンで実際に生成AIを触って学べるイベント「AWS Immersion Day」や、クラウドの力で社会課題の解決・ビジネス活性化の加速を目指す「デジタル社会実現ツアー2024」を開催(予定)するなど、全国の中堅・中小企業が生成AIやクラウドに触れる機会の拡充に取り組んでいる。AWSジャパン 原田氏は、「AWSはパートナー企業とともに、日本の経済をけん引する中堅・中小企業のDX、クラウド化を支援するビジネスパートナーを目指してまいります」と締めくくった。