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これからの「働く」はどう変わるのか?③~メルトな時代に必要な、戦略的採用のための視点~

 急激な少子高齢化、労働人口の減少、デジタル社会への転換、AIの進化など、社会構造は大きく変化しています。その中で、我々が働く環境も変化を遂げつつあり、個人の「働く意識」が問われ始めています。
 そんな中、企業は時代をどう捉え、どのように採用戦略を進化させていけばいいのか、解説したいと思います。

1日も早く採用戦略の進化に着手しないと、経営は立ち行かなくなる

 これまでに、日本において4つの不可逆な社会構造の変化が訪れていること、それに伴い転職市場においてメルト(壁の融解・越境争奪戦)が起き、ビジネスパーソンの「成長市場への民族大移動」が始まっていることをお伝えしました。
 そして今回は、この“メルトな時代”に、企業はどう採用戦略を進化させていけばいいのか、ご説明したいと思います。

 事業の短命化に伴い、どの企業も異分野からの「異能人材」の獲得を強化しています。そして、個人も業種、規模、年齢の壁を乗り越え、成長分野への転身を加速させています。

 すなわち企業は今後、同業他社のみならず、「異業種のライバル企業」とも人材を取り合うことになります。この人材争奪戦に勝つには、採用戦略の進化が必須であり、それが企業の生き死にを決めるといっても過言ではありません。小手先な対応は止め抜本的な改革を行わないと、早晩経営は立ち行かなくなる…そんな時代にいよいよ突入したのです。

 では、どう進化させればいいのか。
 企業は個人の多様な「働く」ニーズと生涯成長ニーズに応えるため、一人ひとりに合わせた「テーラーメイド型の働き方」を提供する必要があります。

 ただ一方で、企業が抱える命題は変革経営による持続成長。一人ひとりの才能開花の方法を考えながら、企業としてイノベーションを起こさなければなりません。これらをどう両立するか、が課題になってきます。

 考え方のポイントは2つ。
 1つ目は、経営戦略と連動した人材採用設計、
 2つ目は、経営と現場を巻き込んだ採用活動の徹底、です。

 「経営戦略と連動した人材採用設計」なんて当たり前のように聞こえるかもしれませんが、実はできていない企業が非常に多いのです。例えば、自動車メーカーでいえば、モビリティ・カンパニーへの移行を考え、「移動」をキーワードに新しいサービスを企画設計できる人を異業界から採用することが必要。それを理解しているにもかかわらず、既存事業の欠員補充に追われてしまっているのが現状なのです。

 「経営と現場を巻き込んだ採用活動」についても、それを阻害する現状があります。ほとんどの企業で、採用活動は人事の専管事項になっています。権限移譲といえば聞こえがいいですが実際は「丸投げ」されているのが実情。そもそも、採用を進化させるに当たり、採用を新卒・中途など採用対象で分類する考え方は、経営上の重要性を見誤る原因になるので捨てるべきです。

競争優位を築くための4つの採用パターン

 リクルートワークス研究所では『戦略的採用論』として、戦略目標との紐づき方によって採用を2×2の軸で4つに分類しています。第一の軸は、「新たな競争優位の源泉」を採用した人材が個人で生み出すのか、集団の一員として生み出すのかという「Talent」と「Organization」の軸。第二の軸は、競争優位を築くまでに見込まれる期間が短期なのか、長期なのかという「Short-term」と「Long-term」の軸。この4つに分類して採用戦略を考えることの重要性を説いています。

 今、中途採用領域で注目されているのは、TS(=Talent×Short-term)採用。成果の源泉を個人に求め、競争優位を築くまでの時間を短期と想定している採用を指します。
例えば、事業の海外展開に伴い必要になった海外現地法人の事業責任者や、新しい事業領域への進出をけん引するトップエンジニアなどがTS採用の代表例。いわゆる「ピンポイント採用」と同義です。

 このTS採用は、経営戦略上とても重要なポイントであるにもかかわらず、「Talent」と「Organization」をごちゃまぜにして採用活動を行っている企業が非常に多いのが問題。企業の生き死にを左右しかねないTS採用なのに、大量募集をかけて母集団を作り、そこから選考で絞っていく…という従来型の方法を取っていては、他社に大きく後れを取ってしまう恐れがあります。

戦略的採用の「ホイール・モデル」

 企業の将来を左右するTS採用は、「ホイール・モデル」で考えることが重要です。

 「ホイール・モデル」とは、リクルートワークス研究所が提言する、戦略的採用を実現するための統合モデル。採用をフローで捉えるのではなく、繰り返しのループ構造とみなし、それを回し続けるという考え方です。
 そして、その繰り返しは、「採用プロセスの前提」から始まり、「採用プロセスの成果」で終わるのではなく、人事制度や職場環境など「人材マネジメント(HRM)の前提」から始まり、入社後活躍など「人材マネジメント(HRM)の成果」まで続きます。

 Input(採用の前提)-Process(採用のプロセス)-Outcome(採用の成果)の「I-P-O構造」からなる戦略的採用ホイールは、企業レベル、部署レベル、面接官などの個人レベルの3つの組織階層を内包。ホイールの芯には、全体を統合し推進する機能として「採用ハブ」が存在しますが、その採用ハブは人事部が担うだけでなく、例えば海外事業拡大などでは経営企画が担うことも。新たな戦略的採用を行うには、このような視界で、ホイールを駆動していくことが重要だと考えています。

 「ホイール・モデル」の実現には、経営と人事、現場の三位一体のHRMがカギになります。例えば、大谷翔平やイニエスタのような、組織を根本から変えるトップタレントを採用するには、オーガニゼーション型の給与テーブルのままでは勝てるはずはなく、報酬制度から見直す必要があります。さらには、社長が前面に出て口説きに行くなど、経営自らが採用の変革の先頭に立つ必要もあります。採用において大胆に資源を投資できる企業と、そうでない企業では、未来に大きな差がつくはずです。

経営者が採用にコミットし、新しい体制をビルトすることが大事

 戦略的ホイール・モデルを回すには、「タレントプールとの関係性構築」「入社後活躍のための環境整備」も重要です。

 採用ターゲットであるトップタレントとは、入社前に関係性を構築しておくことが重要。たとえば、入社時期を定めない内定を出し、「3年以内であればいつでも入社OK」と入社の権利を付与するとか、社内のグループチャットを共有して社内文化にふれてもらうなどして、「社外社員を育成する」構造を作り出すなど。従来型の採用の考え方をいったん取り払い、TS採用の新たな仕組みを考えることが大切です。

 転職経験者へのアンケートで、「転職活動で知りたいと思っていたのに、知り得なかった情報」を聞いたところ、「配属される部署の風土や慣行」「職場長、同僚の特徴」「将来のキャリアパス」「職場での役割」などといった項目が上がりました。すなわち、これらの情報が入社前にわかっていれば、入社後のオン・ボーディングが容易になります。近年、現場の社員が採用を主導し、自社について取り繕わずさらけ出して人材を引き寄せる「職場スカウト採用」が増えつつありますが、「知りたかったのに知り得なかった」ために感じる入社後ギャップを軽減する好例だと思います。

 これらはいずれも、経営者が本気になって採用にコミットしなければ成り立ちません。
すなわち、キーワードは「ビルト」(built)。十人十色ならぬ、百人百色のテーラーメイド人事をビルトし、経営・人事・現場の三位一体という新しいチームをビルトする。そしてそれに、経営者がコミットすることが、戦略的採用の成功を握っているのです。