「求人を出しても人が来ない時代——採用市場の構造変化と中小企業の生き残り戦略」【「人手不足時代の新・採用戦略」──外国人材活用のリアルな手引き Vol.2】
「去年と同じ求人を出したのに、応募数が半分になった」——そんな声が、中小企業の採用担当者から聞こえてきます。なぜ従来の手法が機能しなくなったのか。それは個社の問題ではなく、日本の採用市場そのものが構造的に変化しているからです。本記事では、激化する人材獲得競争の実態を整理しながら、いま採用の視野を広げることが欠かせない理由をお伝えします。
【過去のコラムはこちら!第1回】
採用市場に何が起きているのか
かつては求人広告を出せば一定の応募が集まり、紹介会社に頼ればある程度の採用が成立していました。しかし今、その前提は崩れています。本章では、採用市場に起きている3つの変化——需給バランスの崩壊、費用対効果の悪化、現場工数の膨張——を順に見ていきます。自社の状況と重ね合わせながら読み進めてみてください。
「採用できない」のは自社だけではない——数字が示す市場の実態
「採用がうまくいかない」と感じている担当者の方に、まず知っておいていただきたい数字があります。2026年1月時点で正社員の人手不足を感じている企業は52.3%にのぼり、4年連続で半数を超える高水準が続いています。これは特定の業種や規模の話ではなく、日本の企業全体に広がっている実態です。背景にあるのは、景気の変動ではなく、少子高齢化による労働力供給の構造的な縮小です。求人広告や人材紹介に頼る従来の採用手法が成果を出しにくくなっているのは、手法の問題ではなく、採用できる人材の母数そのものが縮んでいるためです。
従来の採用手法が成果を出しにくくなっている
求人広告や人材紹介に頼ってきた採用が、なぜ以前のようには機能しなくなったのでしょうか。背景には、需給バランス・コスト構造・現場負担という3つの変化が静かに進んでいます。ここからは、人手不足の解決策を考える前提として押さえておきたい市場の実態を、求人倍率の動き、応募単価の推移、採用工数の膨張という3つの視点から順に見ていきましょう。
有効求人倍率1.23倍が示す売り手市場
求人を出しても応募が集まらない、という声が現場から絶えません。その背景にあるのが、有効求人倍率1.23倍という数字に表れた売り手市場の構造です。厚生労働省が公表する一般職業紹介状況によれば、有効求人倍率は1.23倍となっています。
求人1件に対して応募者が1人強しかいない計算で、企業が人を選ぶというより、求職者に選ばれる側へと立場が逆転しているわけです。
なぜここまで採用が難しくなったのか。少子高齢化で生産年齢人口が縮小し続けている一方、企業側の採用ニーズは衰えていません。結果として、同じ人材を複数社で奪い合う構図が定着しています。まずはこの需給バランスの崩れを正確に把握することが、採用戦略を見直す出発点になります。
応募単価高騰で悪化する費用対効果
売り手市場が長引くなかで、もう一つ深刻化しているのが求人広告の費用対効果の悪化です。応募が集まりにくくなるほど、企業は掲載期間を延ばしたり、上位プランへ切り替えたりして対応するため、1人あたりの応募単価がじわじわと押し上げられていきます。
「以前と同じ予算なのに、応募数が半分以下になった」という声を、現場の採用担当者から耳にする機会も増えました。なぜこうなるのか。理由はシンプルで、同じ求職者を多くの企業が同時に追いかけているからです。広告枠の競争が激しくなれば、当然ながら獲得コストは上昇します。
人材紹介に切り替えても、年収の30〜35%程度といわれる成功報酬が経営を圧迫します。採用コストが上昇する一方で採用の質が向上しない構造は、従来チャネルへの依存度が高いほど悪化していきます。
採用工数が増え現場が疲弊する実態
応募が集まらない時代に追い打ちをかけるのが、現場の採用工数の膨張です。母集団形成のために複数媒体へ同時掲載すれば、その分だけ問い合わせ対応や日程調整の負担が積み上がります。
選考に進む人数が減っているにもかかわらず、書類確認や一次面接の回数はむしろ増える、という逆転現象も珍しくありません。なぜでしょうか。応募者一人を逃したくない心理から、面接回数を手厚くしたり、選考フローを丁寧に設計したりするためです。
加えて、内定辞退への備えとして並行採用を進める企業も多く、採用担当者は通常業務との兼務で疲弊していきます。「採用するための採用活動」が現場を圧迫しているこの構造こそ、従来手法の限界を端的に示しています。
なぜ同じ手法を続けてしまうのか(採用改革が進まない理由を言語化)
市場の変化を肌で感じながらも、なぜ多くの企業は従来の採用手法から抜け出せないのでしょうか。そこには、担当者1人の意志だけでは越えられない心理的な壁や、コスト構造に絡んだ事情が静かに横たわっています。ここからは、人手不足の解決策として新しい一歩を踏み出すために、まず直視しておきたい3つの要因を順に紐解いていきます。
「前例がない」が新手法を阻む理由
採用がうまくいかないと感じていても、新しい手法へ踏み切れない企業は少なくありません。背景にあるのが「社内に前例がない」という心理的な壁です。これまで求人広告や人材紹介で一定の成果を積み上げてきた経験は、担当者にとって安心材料であると同時に、変化を選びにくくする足かせにもなります。
なぜでしょうか。前例のない取り組みは、失敗した際の責任の所在が曖昧になりやすく、稟議も通しづらいためです。経営層から「他社の実績は?」と問われた瞬間、提案が止まってしまう場面も多いのではないでしょうか。
採用改革を本気で進めるなら、前例の有無ではなく、自社の課題に合うかどうかで判断する視点への切り替えが欠かせません。
新しい手法への不安と工数への抵抗
前例という壁を越えても、次に立ちはだかるのが「新しい手法への不安」と「工数への抵抗」です。採用担当者を対象とした調査でも、新たな手法を取り入れない理由として「効果が不確定だから」「手法を推進するメンバーの不足」「社内の体制が整っていない」といった声が挙がっています。
効果が読めない施策に予算と人員を割く判断は、誰にとっても重い決断です。さらに、現場の担当者はすでに応募者対応や面接調整で手一杯。新しい仕組みを学び、運用フローを設計し直す余裕がないという実情もあります。
現状維持を選び続ける限り、採用難は深刻化する一方です。導入時の負担を外部支援で軽くする発想が、停滞を抜け出す現実的な一歩になります。
人材紹介手数料が中小に重くのしかかる
人材紹介サービスは成果報酬型で初期費用がかからない一方、手数料の相場は採用者の理論年収の30〜35%とされ、中小企業にとっては決して軽い負担ではありません。
たとえば、年収500万円の人材を採用した場合、紹介手数料だけで150万〜175万円が一度に発生します。これが複数名の採用となれば、年間の採用コストは数百万円規模に膨らみます。
さらに厄介なのが、紹介会社への依存が深まるほど自社での母集団形成ノウハウが蓄積されず、「紹介が止まれば採用も止まる」という脆弱な構造が固定化することです。採用コストの構造そのものを見直す視点が、いま中小企業に求められています。
採用市場が「取り合い」の時代へ突入した背景
採用が「取り合い」と呼ばれる時代になった背景には、条件競争の限界、企業規模による格差の拡大、そして国内人材への依存リスクという3つの構造的な問題が重なっています。なぜ中小企業にとってとりわけ厳しいのか、順を追って整理していきましょう。
条件競争では大手に勝てない現実
給与や福利厚生を前面に押し出した条件競争では、中小企業が大手に太刀打ちするのは容易ではありません。なぜなら、賃上げ余力や知名度、研修制度の充実度といった土台に、もともと大きな差があるからです。
近年は賃上げの流れが加速しており、2024年の春季労使交渉における賃上げ率は5.10%、2025年は5.25%と、30年以上ぶりの高水準が続いています。一方で、中小組合の賃上げ率は2025年で4.65%となっており、大企業との賃上げ競争には限界があります。人材確保のために賃金改善は重要ですが、賃上げが常態化する環境では、最終的に資金力のある大手企業が優位に立つ構図は変わりません。
中小が同じ土俵で戦い続ける限り、構造的な不利は変わりません。だからこそ、条件面だけに頼るのではなく、働き方の柔軟さや幅広いキャリア形成の機会といった独自の魅力をどう設計し、発信していくかが重要になっています。
大手と中小企業に広がる獲得力の格差
条件面の差は、そのまま採用力の差として表面化します。具体的には、知名度による応募集まり、採用広報の予算規模、選考スピードを支える専任体制、入社後の研修やキャリアパスの整備度合い——どれを取っても、大手と中小では出発点が異なります。
帝国データバンクの調査でも、2026年1月時点で正社員の不足を感じる企業は52.3%にのぼり、4年連続で半数を超えました。同じ市場で取り合いが続けば、体力差はじわじわと結果に表れます。
国内の同質な競争のなかで消耗し続けるのは、中小企業にとって構造的に不利な戦い方です。
国内人材だけを前提にするリスク
国内の労働市場に目を向け続けるだけでは、近い将来さらに厳しい現実が待っています。総務省の統計では、生産年齢人口は1995年の8700万人台から2020年には7400万人を下回る水準まで縮小しました。働き手の母数そのものが細り続けるなかで、同じパイを国内企業同士で奪い合う構図は、年を追うごとに苦しさを増していきます。
特に地方では、都市部への人口流出も重なり、募集をかけても応募が届かない状況が常態化しつつあります。国内人材だけを前提にした採用設計を続ければ、事業継続そのものが揺らぎかねません。視野を国外へ広げることは、もはや「余裕のある企業がやること」ではなく、現実的な必須の選択肢になりつつあります。
採用市場を広げる視点で考える人手不足の解決策
ここまで見てきたように、従来の採用手法の限界は個社の努力不足ではなく、採用市場の構造的な変化によるものです。だとすれば、必要なのは「同じ市場でより上手に戦う」ことではなく、「戦う市場そのものを広げる」発想への転換です。ここからは、採用ターゲットの再設計という観点から、3つの方向性を整理します。
女性・シニアの登用で母集団を拡張
国内の働き手が減り続けるなかで、まず見直したいのが採用ターゲットの幅です。総務省の調査では、労働力人口に占める女性の割合は令和元年に44.4%に達し、過去最高を更新しました。子育て世代や60代前半の女性の労働力率も伸びており、貴重な戦力となっています。
シニア層も見逃せません。65歳以上の就業者は2023年に914万人にのぼり、豊富な実務経験を即戦力として活かせる存在です。
※出典:高齢者の就業 | 財務省統計局
登用を成功させる鍵は、勤務時間や休暇制度の柔軟性、健康面への配慮、役割の明確化にあります。採用ターゲットを広げる発想が、採用難を打開する現実的な一歩です。
外国人材の採用という新たな選択肢
女性やシニア層への働きかけと並行して、いま注目を集めているのが外国人材の採用です。2025年末時点の在留外国人数は412万5395人で過去最高を記録しました。これは、すでに多くの企業が国内人材だけに頼らない採用設計へと舵を切っている証左といえます。
外国人材には、多様な文化背景から生まれる発想力や、海外市場との接点を持つ強みがあります。外国人採用を活用すれば、一定の専門性を備えた即戦力人材を確保しやすくなる点も見逃せません。
「外国人採用はハードルが高い」と感じる方も多いでしょう。在留資格の手続き、言語の壁、入社後の生活サポート——確かに考慮すべき点はあります。しかし実際に取り組んだ企業からは「日本人採用より定着率が高い」「業務のマニュアル化が進んだ」という声も聞かれます。次回以降の記事では、外国人採用の具体的な仕組みと実態を掘り下げていきます。
新たな人材層に目を向ける必要性
女性やシニア層への働きかけが人手不足の解決策として効果的である一方、それだけで十分かといえば、現状の労働市場の縮小スピードには追いつかない可能性があります。
採用ターゲットの設計を根本から見直す必要があるのは、従来の「即戦力の正社員を国内で探す」という前提そのものに限界が生じているからです。未経験者・副業希望者・外国人材など、これまで対象外とされがちだった人材層にも目を向けることで、採用市場は大きく広がります。
採用難の突破口は、既存ターゲット内での競争を強化することではなく、ターゲット自体を再設計することにあります。次回以降では、その具体的な選択肢として外国人採用に焦点を当て、仕組み・手続き・定着支援の実態を順に解説していきます。











