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“女性活躍推進”において目指すべき姿を考える ~人事制度の整備とあり方~

2019.10.16

 2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(持続的な開発目標)では、「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」という目標が掲げられ、また日本国内においても、2016年に女性活躍推進法が施行されるなど、女性の働く環境において、国内外で注目が集まっている。

 少子高齢化・人口減少に直面する我が国において、多様な人材が労働市場に参入し、誰もが活躍できる社会を築いていくことは、経済成長の大きなカギになっている。このような状況の中で「一億総活躍社会」を掲げ取り組んできた安部内閣が最も優先して取り組んでいるのが「女性活躍推進」だ。2014年には「すべての女性が輝く社会づくり本部」を設置し、我が国における最大の潜在力である「女性の力」が十分に発揮され、社会の活性化につながるよう、安倍総理指揮のもと、様々な政策がすすめられている。

 このような国をあげての取り組みもあり、我が国における就業者数は、この6年で384万人増加。そのうちの75%、288万人を女性が占める結果となっている。また子育て世代(25~44歳)といわれる女性の就業率も76.5% (*ⅰ)にまで上昇している。女性管理職の登用についても進み、上場企業における女性役員数は2012年と比較して2.7倍増加しており、政府の取り組み施策は少しずつ目に見える成果となり表れてきているといえる。

 ㈱ベネフィットワン・ペイロールが傘下にはいるパソナグループでは、事業活動を通じて女性の雇用創造とキャリア構築に貢献してきた。また社内においても、多くの女性社員が活躍しており、2018年度は厚生労働省 女性活躍推進法に基づく「えるぼし」企業の最上位認定、また日経WOMANが実施する企業の女性活用度調査においては、2018年版「女性が活躍する会社BEST100」の4位と高い評価を受けている。
ここでは、パソナグループの女性活躍における取組について、事例をまじえて紹介していきたい。

 パソナグループは、1976年の創業以来、年齢・性別に問わず誰もが才能や能力を活かして活躍できる社会を創ることを目指し、これまで様々な働き方を提唱してきた。一度家庭に入った主婦の方々が、OL時代のスキルを活かして活躍できる仕組みとして、「人材派遣」という働き方を世の中に提案してきた。また、創業当時から「同一価値労働・同一賃金」を掲げ、正社員の年収を1時間あたりで換算した金額を、派遣社員の時給として設定。時間や働き方にとらわれず、能力を活かして活躍することのできる仕組みを構築してきた。
このような創業時の理念が、自然と浸透してきたこともあり、「女性が働く」ということを支援する風土が醸成されてきたパソナグループでは、社内においても、様々な価値観や、ライフスタイルにあわせ、一人ひとりが選択しやすい柔軟な人事制度を整備している。
全社員に対する女性の比率は61.3%、また管理職に占める割合は51%と、日本の平均数字を大きく上回る。

数字で見る「パソナグループの女性活躍の状況」

 

育児休業からの復職率100%

 パソナグループでは、育児休業を取得した社員の復職率は100%。これは、前述のとおり、創業以来、女性が働くということに対して、会社全体が前向きな環境をつくってきたことが背景にあり、当社では復職を選択することは自然な流れだ。キャリアモデルとなる女性社員がいることで、復職後の働く自分をイメージしやすい環境でもある。また仕事と育児を両立しながら管理職や専門職など、多様なキャリアの選択肢を持つことができるのも魅力だ。ここで、パソナグループにおける、育児休業から女性が復職までに導入する2つの取り組みを紹介する。

1.復職前研修の実施
 育児休業中、取得から6か月を経過した社員を対象に復職前研修を実施。休職期間中の会社の動きや、状況を共有するのみならず、月齢が近い子供をもつママ同士が集まることで、子育ての悩みを共有したり、保育園入園に向けた、いわゆる「保活」の情報交換などを行うなど、安心して復職できるよう体制を整えている。

2.育児休業期間中の“復職ならし勤務”の実施
 パソナグループでは、毎年100名近くの女性社員が育児休暇を取得している。管理職も含め女性が男性と同様に活躍する当社の中で、一定期間とはいえ100名の戦力はなるべく早く復職し、活躍してほしいというのは、会社の本音だ。一方、育児休業中の社員から、「週何日かだけ、仕事をして子育てと両立できるか様子をみたい」「在宅で、3時間だけなら仕事ができそうだ」「いきなり、1年後に週5日でスタートし始めるのは不安だ」など、育児休業中の社員の就労意欲が高いことがわかった。このような声を制度として取り入れようと、個々の希望に応じて、復職前に勤務できる「ならし勤務」を2011年にスタートさせた。
 また、東京本社など、複数の勤務希望者がいる場合には、本社内にある企業内保育園の一時保育を利用できるサービスなども整備し、仕事への感覚を取り戻すことだけでなく、子供を預けることに対する心構えを醸成する機会にもつながっている。

一人ひとりのライフスタイルに対応する、多様な働き方の整備

 女性が活躍するうえで、最も高い壁となるのが「仕事と家庭の両立」であり、その中でも大きなハードルとなるのが「勤務時間」だろう。

 パソナ総合研究所が2019年3月に実施した『女性活躍に関する意識調査』の結果では、「女性活躍の壁と感じるものは何か」との問いに対して、「社会の意識」「仕事と家庭の両立」がトップ2を占め、年代別の傾向では、「長時間労働前提のワークスタイル」と回答した割合が、20代で高い傾向となった。女性活躍を進めていく中での阻害要因が、「長時間勤務」であり、長時間労働前提とする日本企業の従来からの働き方の見直しの必要性を、若い世代ほど感じているのかもしれない。

 パソナグループでは、育児や介護をはじめ、個々のライフステージやライフスタイルに合わせて多様な働き方を選択することができるよう環境を整備し、社員一人ひとりの就業を支援してきた。そのことが、結果、女性が出産・育児・介護との両立を図りながら、キャリアを中断することなく働き続けることができる一助となっている。

1.全国のオフィスで勤務可能な「Do・Co・De・Moワークスタイル制度」の導入
 
 テレワークの導入については、従来より、育児との両立や、健康への配慮が必要な社員などを対象に在宅勤務制度を整えてきたが、2017年より在宅勤務制度を「Do・Co・De・Moワークスタイル制度」として新たに名称を変え、自宅での勤務のみならず、全国にあるパソナグループ各社のオフィスを利用して勤務できる仕組みを導入した。どこにいても働く人がつながり、社員がさらにイキイキと活躍できることを目的に、誰でも利用できるDo・Co・De・Moワークスペースを全国各拠点に設置。これにより、介護等を含め一時的な帰省により、所属する拠点を離れる必要のある社員なども利用することができる、柔軟な制度へと変更を行った。

2.正社員でも週3日勤務可能に

 また、2016年10月の社会保険制度の改正により、社会保険加入要件が、それまで所定労働時間30時間が対象であったが、条件によっては所定労働時間が20時間でも対象と変更になったことから、パソナグループでは週3日でも正社員として就業できる仕組みを導入した。これにより、2018年度は11名が週4日以内のワークスタイルを選択し、就業している。

 

女性活躍が目指すべき姿とは何か~人事担当として意識したいこと~

 ここまでパソナグループの事例をもとに紹介してきたが、制度を作るにあたって、意識した二つのポイントがある。

 一つは、女性が働き続けるための制度を整備することだけを目的にするのではなく、女性が家庭と仕事の両立を図りながら「キャリアアップしていくためのしくみ」をつくることだ。復職前に、人事面談を実施し、あらためて社員一人ひとりの能力や特性を把握し、個々の状況や働き方にあわせて、プロフェッショナルとして活躍できる部門への適正配置を行っている。また、半年に1回キャリアについての振り返りと目標設定ができるよう、キャリアレポートを提出してもらい、一人ひとりのキャリア構築に向けたフォロー体制を整えている。

 そして、もう一つのポイントは、「社員のモチベーション」だ。ライフステージの中で、従来の働き方では仕事が難しい状況になったとき、「自分自身の能力を最大限に発揮するために何をすべきか」を、社員自身が意識することが重要だ。この意識を持つことできれば、効率的に進めるためのアイディアが生まれ、業務フローの見直しにつながり、ひいては、それが組織全体の生産性向上にもつながっていくのではないだろうか。つまり、働き方が変わっても、パフォーマンスを維持しようとする努力こそが、真の「働き方改革」につながっていく。このようなことから、人事制度構築においては、社員一人ひとりのライフスタイルにあわせて働く環境を整備するだけでなく、いかにキャリアへのモチベーションを維持し、どのような働き方であっても最大限のパフォーマンスにつながる仕組みにしていくことを、意識している。
 
 最後に、政府が目標とする女性活躍推進の目標を「数字だけの目標」にせず、企業がその意義を認識して具体的に取り組むことが、組織全体の「生産性の向上」につながり、持続可能な制度にしていくうえで不可欠なことだと考える。つまり女性活躍推進は、一つの働き方の構造を変えるきっかけでもあるはずだ。そして、女性活躍が進むことにより、職場内における多様性が生まれ、そして、女性のみならず、シニア、障害者、外国人など、多様な人材が活躍できる社会をつくることに、つながっていくのではないだろうか。

 
 
 
 
(*ⅰ) 総務省統計局「労働力調査」より 

(*ⅱ) 株式会社帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査(2019年)」より