オンラインイベントでのコミュニケーション① オンラインの「参加型イベント」で上質なコミュニケーションを実現する方法
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、様々なリアルイベントが中止される中、講演やセミナーなどはオンライン開催に移行しています。一方、「ワークショップ」「ミートアップ」「ハッカソン」といった参加型イベントについては、オンライン化するにはハードルが高いと感じられているようです。そこで、オンライン上でのディスカッションやワークショップを主催するにあたり、いかに場を活性化し、参加者同士の上質なコミュニケーションを創出するかについてお話しします。
リアルイベントの「熱量の高さ」は、オンラインでは再現不可能か?
新型コロナウイルス感染症への危機感が高まった2月中旬以降、各種イベントが自粛されるようになり、3月中旬頃からは講演やセミナーなどが「オンライン開催」という形で再開されるようになりました。一方、ワークショップなどの参加型イベントはオンライン化がなかなか進んでいないようです。
私は、ビジネスパーソンが他社で「社会人インターンシップ」を体験する機会を提供する『サンカク』の事業を手がけています。新型コロナウイルス禍の状況にあっても「個人の成長や出会い、イノベーションの機会を損失させたくない」という思いから、社会人インターンシップのオンライン化への取り組みを始めました。
発案した初期、複数の企業にオンラインでの参加型イベントの開催を持ちかけたところ、こんな反応が返ってきました。
「リアルな参加型イベントの場での、あの熱量高いコミュニケーションがオンラインで実現できるとは思えない」
そこで私は、10を超える論文などから、リアルな場のコミュニケーションの設計とオンラインでのコミュニケーションの設計の違いを調査。オンラインでも議論を活性化させ、参加者の満足度を高める手法について仮説を立てました。これを試しに数回実践したところ、多くの参加者から「深く議論ができた」「面白かった」「満足」の声をいただいたのです。その理論と、これまでの実証結果について、くわしくお伝えしていきます。
コミュニケーションの質を測る指標を13項目・6種類に分類
なぜセミナーはオンライン化がスムーズに運び、参加型イベントは実現しづらいのか。それは、そもそもの目的が異なるからです。セミナーの目的は「情報の共有」。登壇者が発信する情報が参加者に正しく伝わればよいため、参加者同士のコミュニケーションは重要ではなく、偶発的な出来事もあまり起こりません。
一方、参加型イベントは「体験の共有」を目的としています。参加者同士がコミュニケーションをとり、予測不可能な出来事も頻繁に起こるからこそ、気付きや学びにつながります。ですから、コミュニケーションを活発化させ、ディスカッションの質と熱量を高める「場づくり」が重要ですが、オンラインではそれが難しい…と思われているのです。
参加型イベントのオンライン化に向け、私が2月中旬から着手したのは、様々な学術論文を読み漁ることでした。「Web上のコミュニケーション」「TV会議システム」「コミュニケーションの仕組み」などの論文を探すと、「TV会議システムにおけるコミュニケーションの難しさ」に関するテーマは、1990年代から研究されていることがわかりました。
では、どんな点が課題となるのか。複数の文献から要素をピックアップして整理し、コミュニケーションの質を測る評価軸として独自に13の項目にまとめてみました。それをさらに6種類に分類したのが次の図です。
オンラインの課題は「相互理解」をいかに高めるか
これらの評価軸の中で、オンラインとリアルの間で大きく違いが生じるのが「相互理解」と「情報伝達」の部分であると言われています。参考文献によると、「情報伝達」については、実はオンライン上の方が高くなる一方、「相互理解」が低くなると語られています(参考文献の一覧は文末にて掲載しています)。読者の中にも、オンライン会議の方がリアルに比べて「自分のプレゼンや説明がちゃんと相手に伝わっているか不安になった」という経験をされた方もいるかもしれません。実際にはプレゼンテーションの際にパワーポイントやテキストによる説明資料を使うことで視認性が高まり、情報が正しく伝わっていることが多いのですが、オンラインでは、プレゼンテーション資料などを画面に表示している間、参加者の表情が見えず、発言している人は、他のメンバーのリアクションがわからないと不安になり、「伝わっている」という実感を持ちづらくなる傾向があります。
聞いている側のメンバーも、モニター越しだと、目の前に相手がいるのと比べてリアクションが希薄になりがちではないでしょうか。結果、「相互理解」が進みにくくなります。「相互理解」の度合いが低い状況では、率直な意見が言いづらくなり、「自己表現ができた」という満足感も得にくくなります。
つまり、オンライン上では、メンバーそれぞれが発信する情報や意見は正しく伝わっているものの、本人は「伝わった」という実感を得にくいという傾向があります。「伝わっている」「お互いの理解が深まっている」と感じられる場にすることが、コミュニケーションの質を高めるカギといえるでしょう。
「相互理解」を高めるポイントは「議論を進展させること」
では、「伝わっている」「お互いに理解できている」と感じられるようにするためには、どうすればいいか。これは、ファシリテーションの工夫によって解決することができます。先ほどの評価軸の図で4番目に挙げた「議論進展」を活発化させるのです。
例えばAさんが発言したことに対して、ファシリテーターがBさんに意見を求める。BさんがAさんの考えを受けて意見を述べることで、Aさんは「ちゃんと聞いてもらえていた」「伝わっていた」と実感することができます。そして、Aさん、Bさんの意見について、Cさん、Dさんにも問いかけていく…というように進展させることで、相互理解が深まっていきます。新しい視点でのアイデアも出てくるため、「新規発見」の満足度も高まります。
コミュニケーションの質を測る指標のうち、「相互理解」「新規発見」「情報伝達」「議論進展」を以下の図のようにループさせていくことで、オンラインディスカッションの質と満足度を高めることができると考えています。
さて、ここで、主催者の皆さんは新たな不安を抱くのではないでしょうか。
「そんなふうに議論を進展させるには、高度なファシリテーションテクニックが必要なんじゃないか」
実は、そうではありません。議論進展の「型」は、3パターンに集約することができます。「化学反応型」「相互理解促進型」「因数分解型」です。
この3パターンを押さえておけば、ファシリテーターとしてのスキルが乏しくても、議論を活性化させることができます。くわしくは、vol.2でご紹介します。
※本記事内の図は、参考文献を基に独自に作成したものです
<参考文献>
大平雅雄『対面異文化間コミュニケーションにおける相互理解構築とアイデア創発の支援に関する研究』、http://library.naist.jp/mylimedio/dllimedio/show.cgi?bookid=100037915&oldid=69517、2003年3月
大澤幸生、小橋りさ『日用品企画実験における対面・Web上の議論の効果比較
~提供者と受容者の相互作用モデルの部分的検証として~』(マーケティングジャーナルVol.31)2011年
奥田 訓子、尾野 明美、荒木 みさこ、茂木 俊彦『感情共有コミュニケーション尺度開発の試み』、桜美林大学心理学研究、2012年度
※論文格納元URL:https://obirin.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=1447&item_no=1&page_id=13&block_id=34
※当該文献の著者の掲載順序は論文内の表記に準じています
杉谷陽子『インターネット・コミュニケーションの優位性と課題について:心理学からの提言』(第3回ITコミュニケーション活用促進戦略会議)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/itc/dai3/siryou1.pdf、2014年2月12日