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これからの「採用」は どう変わるのか?⑯~ コロナ禍で深化するバーチャリアル転職とは?~

 急激な少子高齢化、労働人口の減少、サービス経済化、デジタル社会への転換、AIの進化など、社会構造は大きく変化しています。働く個人の生き方や働き方に対する意識も大きな変化を遂げつつあり、そこに向き合う企業も採用戦略の新たな在り方が問われ始めています。
 
 そんな中、コロナ禍により転職という「人生の岐路」の決め方が変化し、「バーチャリアル転職」という新たな潮流が生まれています。今回はこの「バーチャリアル転職」について、詳しく解説したいと思います。

■コロナ禍で、「人生の大きな決断」の決め方が変容している

 「転職」は、多くの人にとって一生のうちに数回しか経験しない出来事です。進学、結婚などと同じで、人生の岐路でどちらに進むかを決める大きな決断であり、人生においてそう多く直面することはありません。

 ただ、この「大きな決断」の決め方が、コロナ禍によって大きく変化しつつあります。

 結婚市場では、婚活のオンライン化が進み、より多くの人とトライアルデートする機会が増え、事前に相手をよく理解したうえで交際に発展させるという新しい恋愛プロセスが生まれています。
進学市場でも、オープンキャンパスのオンライン化により体験機会が増加。より納得度の高い進路選びにつながっています。

 そして転職市場では今、オンライン上で面接を行うことで、リアルを越えたディープな出会いが生まれるという「バーチャリアル転職」が進化しています。そしてこの動きが、企業と求職者双方の出会いの質を高めるカギになると考えられています。

■Web面接がもたらす「新たな効用」とは?

 コロナ禍で、面接プロセスは大きく変容しました。
 リクルートエージェントを利用している企業2013社に行ったアンケートによると、緊急事態宣言下で採用活動していた企業のうち、選考にWeb面接を取り入れたのは66.6%。緊急事態宣言解除後も88.8%の企業がWeb面接を継続していることがわかりました。

 継続している企業になぜWeb面接を続けているのかを聞いたところ、「まだ対面での面接は適切ではない」という回答に加え、「遠方の候補者や現職との調整に難航する候補者など、対面での面接ではなかなか会えない候補者と面接ができる」という声が目立っていたのが特徴的でした。

 そもそもコロナ以前から、企業はさまざまな人材の課題を抱えていました。構造的な人材不足により、企業の採用意欲は常に高く、業界や職種の壁を越えた人材の取り合いが続いていました。一方で、「せっかく採用したのにすぐに辞めてしまう」という問題も企業の大きな課題になっており、職場の上司や同僚が入社後のリアルをすり合わせる「職場スカウト採用」など、採用プロセスの進化も続いていました。

 このような企業が、コロナ禍で半ば強制的に導入したWeb面接というプロセス変更によって「新たな効用」を実感し始めているのです。

 アンケート回答企業の「中途採用充足状況」と「Web面接導入率」を比較すると、採用計画を上回った企業では30.3%がWeb面接を導入している一方で、下回った企業では13.3%の導入に留まっており、16ポイントもの差が生じていることがわかりました。

 初めは、否応なく対応せざるを得なかったWeb面接。Webだけでは見極めづらいのでは?自社の魅力が伝わりにくいのでは?などの声も多かったですが、企業側は「面接の日程調整がしやすい」「選考のリードタイムが短縮できる」「面接担当者の移動オペレーションが省力化できる」、求職者側は「リラックスした状態で対話できる」「コロナ禍でも安心して活動できる」「現職が忙しくても面接できる」など、双方がメリットを実感しているのです。

■メガバンクや介護施設でもオンラインを積極的に取り入れている

 バーチャリアル転職の事例を、いくつか紹介しましょう。

 三菱UFJ銀行では、新規事業部署の採用において一次面接から入行後配属までのすべてをWebで実施。北海道在住者などこれまで会いづらかった遠隔地の候補者との面接が実現できるようになったほか、選考時間は従来の三分の一に短縮。Web化で現場接点が取りやすくなったことから、入行前後のフォローもオンライン上で手厚く実施することができ、早期のオンボーディングを実現しています。

 介護施設の社会福祉法人若竹大寿会では、リアルタイムの施設見学会を実施。職員がWebカメラを片手に施設内を回り、それを生配信することで、職場の雰囲気をよりリアルに共有しています。選考は二次面接までWeb化することで、前年比でエントリー数も増加。併せて施設内の日常をSNS発信することで、利用者やその家族だけでなく、求職者のフォロワーやファンも増加しています。

 ITベンチャーのoverflowは、従業員270名超を抱える中で、オフィスを完全に手放しフルリモートに移行。採用においても面接からオンボーディング、入社後業務まで一貫してオンラインに切り替えました。入社1カ月前から社内のイントラ共有や動画でのシステムHowToの理解促進を行い、入社後ギャップをなくすため、「人」、「組織」、「風土」の共有などインプットを充実化することで、採用力を強化しています。

 Web面接・Web採用というと、IT企業やベンチャー企業のもののように思われている方もいるかもしれませんが、メガバンクのような超大手企業や、身体接触が多い業務でリアルな接点が重要視されていた介護施設なども積極的にWeb面接を取り入れ、変革し始めているのです。

■バーチャリアル転職の「7つの本質的な価値」

 これらの事例を踏まえると、バーチャリアル転職の「本質的価値」は、次の7つと考えらえます。

1.空間に束縛されない「安心・安全な対話場」の出現
2.時間の小口化により、「隙間での対話」の実現
3.人間の参加体系変容:段階型の面談から「同時並行型面談」へ
4.カジュアル(自然体)オープン(解放)フラット(対等)
5.面談・入社後の生活・働き方の「フィッティング機会」が増える
6.働き方・貢献の仕方への「自己編集・相互編集意識」が高まる
7.対面プロセス偏重が取りこぼしていた「意思決定の納得解」へ

 特に本質的なのが、6と7です。
 自己編集・相互編集意識とは、求職者が企業に「こういう働き方はできますか?」と問いかけたり、企業側から「そのスキルをお持ちならこの部署でこういうプロジェクトに携わっていただけませんか?」と持ち掛けたりするなど、互いに入社後の働き方やパフォーマンスを提案し合える関係構築ができるということ。

 従来型の「ジョブ型採用」だと、企業が求める要件にレゴブロックのようにカチッっとはまる人だけが採用されていましたが、入社後マッチングを考えれば、本来はグミのような柔軟性を持った採用が重要。オンラインで事前に話し合い、すり合わせることで、臨機応変に働き方を決めることができ、新たな仕事も生み出せるようになります。
 そして、「自己編集・相互編集意識」が高まれば、お互いの意思決定の納得度が高まります。

 これまでは、自社の受け皿に当てはまるかどうかという最適解で決められていた人材採用が、オンラインのプロセスの中で入社後の体験をバーチャルにリアルに前倒しし、時間をかけ機会を増やして相互理解を深めることで納得解が高まる。こんな新たな採用の形が生まれ、新たな潮流を巻き起こしています。入社後の相互の納得度を上げる、リアルを超えたバーチャルな意思決定による転職。「バーチャリアル転職」≒「バーチャリアル採用」。この流れに乗るべく体制を変えられるかどうかが、今、すべての企業に問われています。