テレワーク実施の際に会社が注意すべき労働問題
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、テレワーク(労働者が情報通信技術を利用して行う事業場の外で勤務すること)の導入及び実施が急速に拡大しています。
このテレワークは従業員のみならず会社にも大きなメリットがあります。
例えば、現在のように感染症が蔓延した場合や大規模災害が発生し、従業員が出社できない状況でもテレワークができる環境が整備されていれば、会社は事業を継続することができます。
また、平時においても働く場所にとらわれず多様な従業員を採用でき、オフィス縮小に伴うコストの削減なども考えられるでしょう。
ただテレワークのうち、現在多くなっている在宅勤務を巡っては、様々な労働問題が浮き彫りとなっています。
そこで今回はテレワーク(主に在宅勤務)の実施に際して会社が注意しなければならない、労働問題について解説していきます。
会社はテレワークを従業員に命じることができるか。
まず初めに問題となるのは、会社が従業員に対して、テレワークを命じるためにはいかなる準備が必要かという点です。
会社と従業員との雇用関係において、何かを命じる場合には①労働契約に定められていること、②従業員の個別の同意があること、③就業規則の定められていることの①〜③いずれかの必要があります。
これが労働法のルールです。
一般的に業務に関連する事項であれば、会社は①労働契約や③就業規則に基づき、命令することができます。
しかしながら、会社や従業員が従前からテレワークを行うことを想定していない場合には、いざテレワークを行おうという際にも、会社が従業員にテレワークを命じることができない可能性が高いため、注意が必要です。
①労働契約に明記しよう
使用者は、労働契約の締結に際し、賃金・労働時間、就労場所その他の労働条件を従業員に明示しなければなりません(労基法15条1項)(※ 1)。
すなわち、労働条件通知書や雇用契約書を会社が作成する必要があり、そこには「就労場所」を明記する必要があります。
この際に会社から雇い入れる従業員に対して「当社はテレワークをお願いする場合があるが、その環境があるか」などと質問し、テレワーク環境の確認をとった上で、テレワーク実施の同意をもらい、「就業場所」に「自宅」などと記載した上でテレワーク可能なる旨を明記しましょう。
ここでの重要なポイントは会社が雇い入れる従業員に対して、丁寧に説明して納得をしてもらった上で、雇用契約に明記することです。
説明なく単に契約書に記載したというだけでは後に紛争の種になる可能性があります。
( ※1) 私が多くの労働関連の相談を受ける中で、雇用契約書などを作成していない件が少なくありません。
雇用契約書や労働条件通知書を作成していない場合、労働基準法違反として罰則の対象となる他、裁判となった場合にも不利ですし、助成金の申請手続きにも支障があります。
②従業員の個別の同意をとろう
労働契約書にテレワークが可能である旨が明記されていなくとも、会社と従業員とがしっかりと話し合った上で、従業員が納得して「テレワークできる」との同意が得られた場合には、労働契約に定めがなくとも、テレワークを行わせることができます。
個別の同意を得るに先立ち、会社と従業員らの間で予めテレワークのルールを定めることが有益でしょう。厚生労働省が公表している「テレワーク実施のガイドライン」(https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf)においても、以下のとおりルールを話し合って策定することの重要性が強調されています。
「実施するに当たっては、導入目的、対象業務、対象となり得る労働者の範囲、実施場所、テレワーク可能日(労働者の希望、当番制、頻度等)、申請等の手続、費用負担、労働時間管理の方法や中抜け時間の取扱い、通常又は緊急時の連絡方法等について、あらかじめ労使で十分に話し合い、ルールを定めておくことが重要である」
③就業規則に定める
では、②従業員の同意がないが、③就業規則にテレワークを命じることができる旨を規定するという対応はできるでしょうか。
就労場所という労働条件の変更となること、就労場所が「自宅」である場合には労働者の私的領域となりプライバシー保護の要請が高いことから、就業規則にその旨の規定があるだけでは、テレワークを命じることは難しいとの見解が有力です(★日本労働弁護団の意見書http://roudou-bengodan.org/topics/10323/)。
やはり、テレワークにについて、②従業員の個別の同意をとって実施するのが最も望ましい対応です。
一方で、会社が従業員に対してテレワークを命じる必要性があること、プライバシーにしっかりと配慮した上で、当該従業員が自宅で勤務することに支障がないことなど、従業員がテレワークを行っても不利益が生じないという条件のもとであれば、例外的にテレワークを命じることもできるという考えもあります。ただ、これについても法的な争いがあるところですので、やはり②従業員の個別の同意を得た方が安全でしょう(※2) 。
なお、具体的な就業規則の例としては、厚生労働省が発表しているモデル例(https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000683360.pdf)を参考に作成することになるでしょう。
( ※2) 2021年3月に発表した厚生労働省の調査報告(https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000684469.pdf)でも「実際にテレワークを行うか否かは本人の意思によることとすべきです」と明言しています。
従業員から会社に対してテレワークを求めることができるか
では逆に従業員から会社に対してテレワークを求めた場合に、会社は拒否できるのでしょうか。
結論は、従業員の希望を会社が拒否することはできます。
つまり、従業員にはテレワークを請求する権利は現行法上、認められていません。
ただし、注意が必要なのは、正社員のみテレワークを認め、契約社員や派遣社員のテレワークの要請は拒否する対応という差別的な取り扱いは違法です(パート有期法8条・9条、派遣法 30条の3の不合理な待遇の相違に該当します)。
テレワークは労使双方にメリットがありますから、会社も従業員の希望を聞きながら、実現を模索することが望ましい対応と思われます。
従業員がテレワークを希望することを理由に会社に出社しない場合
先の説明のとおり、従業員は会社に対してテレワークを請求する権利はありません。
そのため、従業員は会社の出社要請に応じるべきというのが原則ですので、懲戒処分などの対象となります。
ただし、従業員が出社できない正当な理由がある場合には、懲戒処分はできません。
例えば、私が担当したケースでは、妊娠している従業員が医師の診断書(コロナウィルスの感染危険があり在宅勤務が相当であると記載)を提出した事案がありました。
このようなケースでは、労働局から会社に対して、出社をさせてはならないと直接指導がなされました。
そのため、会社は従業員に対して、出社しない理由をまず確認することが重要です。
以上のようにテレワークのうち、主に在宅勤務を念頭において、労働問題を解説しました。実際に在宅勤務をめぐっては裁判も多数発生していますので、事業者のみなさまは注意が必要です。
次回は、在宅勤務のうち、最も紛争が発生している労働時間の管理に関する事例と注意点をご紹介したいと思います。