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元企業人社労士から見た企業を取り巻く今 〜 コロナ禍の中で 〜

2020.07.22

緊急事態宣言解除の後、企業研修はどうなっている?

 緊急事態宣言が出されてから、ほぼ3ヶ月が経過しました。企業における集合研修は、ほとんどが延期されたり、中止になったりしています。研修に出席するための移動も「人出」の増加になりますし、研修で集まること自体が「3密」になってしまうことを考えれば、当然の措置でしょう。

 緊急事態宣言が解除され、移動自粛の呼び掛けも取り下げられた今、私は各社の状況を確認するため、いくつかの企業を訪ねています。まだ対外的な接触を原則的に禁じている企業もあって、全ての方から話を伺うことができる訳ではありません。しかし、やはり多くは集合研修については、ほとんど一旦凍結または延期されていて、これからどうリカバリするかを検討中のようです。開催時期を更に後ろ倒しするのか、オンライン研修を取り入れるのか等々、様々な検討がなされていました。
一方で6月19日の「全面解除」を以て、出張を伴う集合研修を再開された企業もありました。再開することを決意された担当者が仰ったその理由は、「当社の生命線はお客様に提供するサービスそのものであり、サービス提供の最前線にいる店舗の店長に、身に付けておいて欲しい当社マインドの研修は、決して欠かすことができないから」というものでした。感染のリスクや第二波の懸念についても伺いましたが、もちろんそれらに対する対策(消毒・マスク着用の励行はもちろん、密にならない物理的な環境面での配慮等)は可能な限り実施しているそうです。リスクは十分に認識しつつも、企業としてお客様に届けなければならない「価値(当該企業にとっては、お客様への『サービスマインド』)」を、それ以上に重視しているが故の対応である旨、お話しいただきました。その決定をされた担当者はもちろんですが、支持された経営層の方々に対して、頭の下がる思いも抱きました。

 また別の企業では、可能な限りオンラインによる研修形態を取り入れ、在宅でも受講できる環境を整える取り組みをされていました。先に( 本コラムVol.5で)触れました「経営理念・Vision」や「人間性」に関しては、オンライン研修での習得には限界があると認識されながらも、先ずはテクニカルな内容の研修を優先する等、できるところから取り組むとのお話でした。

 同社は、急遽対応せざるを得なくなった新入社員に対する研修を手始めとして、集合研修を前提として作成していたドキュメント(教科書)を事前に配布し、オンライン会議ツール上でその素材を活用して研修を進めたそうです。何しろ急なことで、講師陣もオンライン研修の経験は無く、色々と試行錯誤があったとのことでした。例えば、当初は一方的な講義形式でスタートしたのですが、どうも手応えを感じられない(オンラインだから、ある意味当たり前なのですが)、反応が今ひとつパッとしないといった課題を感じ始めたそうです。どうすれば効果の上がる研修になるのかと考え、オンライン会議ツールの双方向性を活かし、講師陣と新入社員が相互に意見を交換しながら、理解度の向上に結びつけるための工夫を積み重ね、日一日と研修を進化させたとのお話でした。またこの企業では、研修だけに止まらず、社員全てに対する人財育成計画の策定とそれに伴う面談(上司、担当者に加え、人財育成部門を加えた3者で実施)の一連の流れも、会議ツールを用いる方式に変更したそうです。


 今回のコロナ禍による在宅勤務の増加により、社内での会議の進め方や日常のコミュニケーションの取り方が大きく変化したのは、同社に限ったことではないでしょう。これを「追い風」として、同社では一気に企業の風土変革を進めたそうです。具体的には、これまでは「面と向かった会話・会議」「メールに頼らない『紙の文書』による報告・記録、及び承認証左としての押印行為」が幅を利かす業務の進め方(文化)だったものを、メール・チャットによる意思疎通、文書の電子化と共有、簡易電子認証の採用等に全て置き換えました。反対したところで、自分一人が取り残されてしまうという危機感にも煽られて、正に「(コミュニケーション)プラットフォームの転換を誘発させた」とのお話でした。この作用は不可逆的なので、仮にコロナの感染拡大の懸念が無くなったとしても、後戻りすることはないでしょう。

蛇足ですが……

 実は私自身も、自身の有する研修素材を見直し、オンラインに対応すべくリメイクすべく検討中です。一部のコンテンツは流用できそうなのですが、単純な「置き換え」では終わりそうにありません。というのも、一般的な集合型研修とオンライン研修は全く別物と考えた方が良さそうで、オンライン研修にはその特性に基づいた対応が必要と思えるからです。その特性の一例を挙げると……

(1) 参加者の集中力の持続に限界があること(自身の経験値から申し上げると、概ね20~30分が限界でしょうか?)
(2) 「生存確認(お〜い!聞いてる??)」を比較的多用しなければならないこと(研修・会議に参加しているかどうか、不明な輩が出てくる……)
(3) (集合研修では一般的な?)「場の雰囲気」が感じ難いこと(一度に、全員の反応・表情を読み取ることは難しい)

 これらを考慮し、研修全体をどう構成するか? また、双方向性をどのように組み込むと効果的なのか? 等の検討が十分とは言えず、コンテンツのリメイクは未だ完成に至っておりません。

 またテクニカルな側面ですが、私自身のオンライン会議ツールの習熟に問題がある(=不慣れ)ことに加え、複数の小グループにおけるディスカッションを並行して誘導する経験値が不足していることも、早急に補わなければならない要素であると分析しています。とにかく、拙くても構わないので回数を重ねて経験値を上げること、これが喫緊の課題です。更には……

 何としても克服しなければならないことが、一つあると思っています。それは、「熱量」をどうやって伝えるか、ということです。一例を挙げるなら、みなさんの会社の「理念・Vision」を社員の皆さんに届けようとするとき、絶対に欠くことができない「熱い思い」「情熱(パッション)」のようなものは、オンラインではライブ・リアルを超えることが難しいと思うのです。個人的な思い込みに過ぎないかもしれませんが、オンライン上で「熱量」を伝えるのは難しいと思っています。相応のエンターテイナーであったり、自身の世界観に惹き込む事のできるような語り手でなければ、とてもハードルが高いと思うのですが、皆さんは如何お考えでしょうか?

皆さんの「お悩み」は?

 ここまで、私の悩みというか研修の業態変化に対する取り組みの課題をご紹介しましたが、人事を担当されている皆さんは、今現在どんなことに頭を悩ませ、課題を抱えていらっしゃるのでしょうか? webで「人事の方の悩み・お困りごと」を検索してみましたら、

2019年のTOP3は、

① 次世代リーダーの育成
② キャリア採用
③ 新卒採用
④ マネジメントスキル向上
⑤ 若手育成

◆HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題(2019年調査)
https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=231

2018年は、

① 次世代リーダーの育成
② 新卒採用
③ キャリア採用
④ マネジメントスキル向上
⑤ 若手育成
◆HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題(2018年調査)
https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=208

という結果でした。もちろん、皆さんのお悩みの一面でしかないのでしょうが……

 一年で2、3位が入れ替わっただけで基本的に大きな変化はなく、人事の皆さんの課題・悩み(関心事)は、「採用」と「育成」に集約されそうです。今年は「コロナ禍」により有効求人倍率にも大きな変化がありましたので、今年度行われる調査においては、採用関係における課題は変動(恐らくは低下?)し、相対的に「育成」の比重が増すのではないかと思いますし、上記に報告したとおり、これまで育成に一定の役割を果たしていた研修そのものの開催が難しいこととも相まって、一層「育成」を課題に挙げる傾向が強くなるのものと予想しています。

 同様の課題が2年に亘り、上位にランクされているということは、この課題の解決が容易ではなく、また一発逆転の妙手・秘策もないということでしょう。この課題の解決には、相当程度腰を据えて取り組まねばならないということだと思います。即ち、短期ではなく、中・長期に施策を積み上げていくための「計画」が必要になるということです。中・長期の計画を進めるに際して留意しておきたいのは、手段(一つ一つの施策を行うこと自体)が目的化してしまわないようにすることではないでしょうか。例えば、「組織風土の改革(目的)」を目指して、「役員→部長→課長と言う階層別の研修(手段)」を1、2年程度のスパンで計画・設計しても、終盤の課長研修の段階に至っては、研修を行うこと自体が目的になってしまい、研修の中身が「これが風土変革に繋がるの?」と首を傾げたくなる……ということが、往々にして起きてしまいます。施策を進める上では、世の中の動きや状況の変化に合わせて新しい手法を用いたり、今までと異なるアイデアを取り入れることもあるでしょう。それらを上手にベースとなる計画に組み込みつつ、定期的にReviewを行うことで、目標達成に向けて計画の修正・見直しを行うことが必要です。

 また、皆さんのお客様やご自身の部門、または関係するセクションの抱える「お悩みTOP3」を考えることは、普段のビジネス生活においてもとても役立つものと思います。お客様(スタッフ部門の方にとっては、サービス提供先のライン部門をお客様に見立てていただければ、理解が容易と思います)はもちろんのこと、ご自身の直接の上司や同僚の抱えている課題に対し、「解(の案)」やそのヒント・事例を提供できるような準備ができていれば、かなりスムーズに仕事が回るのではないでしょうか? そして何より、「仕事ができる!」「頼りになる!」という評価も得ることもできると思います。(ただ、上司の顔色ばかり伺うような「ヒラメ型」に堕してはなりませんが!)

 実は「お悩み……」は、「コンサルタントの教科書(*1)」という書籍に紹介されていることの受け売りです。著者がコンサルティングの対象としていた中小企業の社長が抱えているお悩みは、大きく言って3つくらいに集約されるそうです。(詳細の内容は、ここでは割愛させていただきます。簡単に申し上げますと、「カネ」、「ヒト」そして「ココロ」だそうです。独立系のコンサルタントを志す方は、是非一読ください。とても参考になると思います。)コンサルタントは、そんな誰もが抱えるお悩み事に対する解決の処方箋や、具体的な解決事例を予めいくつか用意しておけば、お客様の信頼を勝ち取ることができ、顧問契約も(高額で!)締結できるのだそうです。もちろん、その具体的な悩み事・お困り事を、上手に社長から引き出すテクニックも同様に大切なのですが……

 私にとっても、人事に携わられている皆さんの「お悩みTOP3」を知っておくことは、とても大切だと思っています。共通の課題認識を踏まえて育む共感と相互の信頼が、企業の明日を担う人財の育成には欠かせないと考えるからです。

*1 「コンサルタントの教科書」 著者:和仁達也  出版社:かんき出版