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元企業人社労士から見た企業を取り巻く今 ~次代を担うマネジャーの皆さんへ ~

2020.10.23

最終回にあたって……

 約1年間に亘り徒然なるままに、組織やマネジメントに纏わる種々の話題を取り上げ、私の勝手な思いを綴らせていただきました。お付き合いいただき、本当にありがとうございました。「それはあまりに偏った見方だ!」と、お叱りをいただく内容もあったかもしれませんし、浅はかな内容に呆れられたところもあったかもしれません。

 会社員時代に所属した比較的大きな企業グループにおいて、自分なりに学んだ(きちんと教わったこともあれば、某氏の背中から学んだこともあります)組織マネジメントでしたから、私自身それを十分咀嚼することなく、これが当たり前なのだろうと思っていたことが多くありました。しかし、改めて一つ一つの内容(例:目標管理、マネジャーのミッション等)を経験を基に振り返ってみると、見過ごしていた大切な原理や真理に気付かされたように思います。何気ない普段の事象でありながら、従来の視点から外れて眺めることで、初めて納得・実感できるようなことも多くありました。一つでも心に留めていただき、ビジネス・人生にお役立ていただくことができれば幸甚です。また、こうした自分の来し方を見つめ直す機会をいただいたことに、改めて感謝を申し上げます。

変化に適応するものだけが……

 これまでも本コラムで触れてきたように、これからの社会においては、働き方が大きく変化することは間違いないでしょう。これは法律的な側面(※1)に限って申し上げている訳ではなく、新型コロナウイルスの感染拡大を経て、労働者・事業運営側の双方に意識の上での変化が生じていることが、大きな要因だと考えています。働き方が変わるということは、企業とそこで働く労働者の関係に変化(※2)が現れることでもありますし、それに応じて組織の在り方そのものが変わることでもあります。

 旧弊を打破するという意味で変わらなければ、変えなければならないことと、変えるべきではない、変えてはならないことが混在する訳ですから、そこに「混乱」が生じることも考えられます。これまでも私たちは沢山の変化に遭遇してきましたし、それが企業と労働者の関係に変化をもたらしてきたことは間違いありません。ただ、これからはそのスピードが、これまでとは比較にならないほど速く、また劇的なものになるのだろうと思います。

 「強いものが生き残る訳ではなく、変化に適応したものだけが生き残る」との言葉のとおり、この変化のスピードが今まで以上に速くなる世の中で、私たちはこの変化に適応していかなければなりません。一方で、変化の激しい時代は大きな「機会(チャンス)」であることも、歴史は証明しています。変化を恐れるのではなく、自らが変わっていくことが当然であって、変わることには価値があるという、前向きな捉え方をしておくべきなのでしょう。

※1:例えば……
  ・有給休暇の年5日時季指定の義務化
  ・労働時間の把握義務
  ・時間外労働の上限規制
  ・同一労働同一賃金 等々

※2:例えば……
  ・リモートワーク(の常態化)、時間に依拠しない働き方
  ・兼業・副業(の解禁、奨励)
  ・ジョブ型雇用 等々

自分の中に変えてはならない「軸」を持つことが大切!

 そう申し上げておきながら恐縮なのですが、私自身が古いタイプの人間で、変わることに抵抗があるのかもしれません。「変化は是」と言いながらも、何でもかんでも変えれば良いという考えには、どうしても同調できない自分がいます。時代の動向や合理性に照らして、当然変えるべきものと、変えるべきではないものの区分けをする必要はあるのだろうと思うのです。変えないものを自身の「軸」として確立しておければ良いのでしょうが、これがなかなか容易なことではありません。私自身、家庭内では「頭が固い」「柔軟性に欠ける」等の非難をしばしば浴び、孤立しています……

変えてはならないものって?

 私が、変えてはならない、変えることはできないと考えている、「軸」として据えている考え、というよりもある意味「真理」と考えていることのいくつかをご紹介しますと、

・組織が企業を(あるいは社会をも)動かすこと

・組織は目的を持った集団であるため、その達成に向けて機能するよう、マネジメントする必要があること

・マネジメントに携わる方々は、目に見える事象だけに捉われることなく、本質的な部分(例:成果に至るまでのプロセス等)を見落としてはならないこと

・各種の権限は、目的遂行のために付与されているに過ぎないので、マネジメントに携わる方々は、決して権限の「権力的な部分」に溺れることなく、謙虚にまたどんな人間に対しても、敬意を以て接すべきこと

・マネジメントに携わる方々は、相互尊重の下、相互理解に基づいたコミュニケーションを大切にする必要があること

等々です。恥ずかしながら、私自身も現役時代には全くと言って良いほど、軸らしきものは備わっていなかったような気がしますが。

 皆さんそれぞれにとっての「軸」は何でしょうか? ご自身で考え、書き出してみると良いかもしれません。案外、自分の信じるところ・考えるところ、拠り所にするところ等は言語化されていないものです。この機会に整理してみるのも良いでしょうし、それを気の置けない方と意見交換すると、更に良いと思います。自分の気付かない長所(場合によっては短所)が発見できたり、自分が他人にどんな印象を与えているか? どう見られているのか? ということに気づくことができるかもしれません。

とても勇気をもらいました!

 先日、産業能率大学が発表した「日本企業のミドルマネジャー調査報告書」(※3)を目にしました。そこには少し、いや、大いに元気づけられるデータが記載されていました。現代日本のマネジャーの皆さんは、様々な批判を受けることが多いのも事実ですが、結構頑張っている様が見えてきます。テレワークという業務環境下で、コミュニケーションを取るのが難しいという泣き言(?)も一部聞こえてきますが、このデータを見れば、様々な制約の下で懸命に頑張っている姿が浮かんできます。私がとても勇気づけられたものだけを抜き出して、いくつか紹介します。


■強化したい能力
  部下を育成する力 :44.7%
  事業戦略立案能力 :35.6%
  ミッション・ビジョンを描く力 :34.8%

■部下への働き掛け(「当てはまる」「やや当てはまる」の合計)
  メンバー個々の個性に合わせ柔軟に接する :60.0%
  指示に際しては、理由・背景を説明する :58.9%

■評価・フィードバック(「当てはまる」「やや当てはまる」の合計)
  日頃の仕事ぶりを観察し、事実に基づいて評価している :66.2%
  耳の痛い話も、率直にフィードバックしている :53.9%

■学習(「当てはまる」「やや当てはまる」の合計)
  メンバーの成長を支援するだけでなく、自らも学び続けている :53.0%
  メンバー個々の学びを共有することを促している :48.3%

■職場風土(「当てはまる」「やや当てはまる」の合計)
  メンバー同士で助け合い、仕事を進めようとする雰囲気がある:55.5%

「日本企業のミドルマネジャー調査報告書」(※3)より抜粋

 マネジャーの方々のこれから強化したい能力のトップが、「部下の育成」になっていますし、多くの項目で概ね過半の方は、部下個々に向き合いながら率直な、事実に基づいた評価を心掛け、成長を促しています。(加えてご自身も学び続ける姿勢があります!)一方で気掛かりなことも。

◆日頃多く時間を割かれている業務:「社内業務」=44.0%(第1位〜第3位計)

◆本当はもっと時間を割きたい業務:「部下とのコミュニケーション」=64.4%(同上)

◆(止むを得ない側面はあるが)97.0%がプレイングマネジャー
(マネジメントに専心できるマネジャーは、僅か3%!)

◆悩み
  仕事量(過多) :45.4%
  人手不足    :43.8%
  部下育成に時間が割けない  :34.4%
  部下をうまく育てられない :27.3%

「日本企業のミドルマネジャー調査報告書」(※3)より要約

 このように、残念ながら社内向けの資料作成に多くの時間を取られ、それ故か部下とのコミュニケーションの時間が十分には取れていないようです。また、ほぼ全員が多寡は別にしてプレイヤーとしての業務を抱えていて、多くの方が仕事量の多さ・人手不足に苦慮し、部下育成に心を砕きつつ苦闘されている姿も浮き彫りになっています。

※3:「日本企業のミドルマネジャー調査報告書」2020年8月
学校法人産業能率大学 総合研究所
   マーケティング部 マーケティングセンター
調査対象:正社員の部下を1名以上もつ、30〜50代の日本企業の課長
調査時期:2020年2月12日〜14日(3日間)
調査地域:全国
調査方法:インターネットリサーチ
有効回答:897件
回答者属性:グラフをご覧ください

 

まずはここから始めてみてはいかがでしょう?

 上述の調査において、36.6%のマネジャーの方が行っているのが「目標管理制度」でした。他の様々な制度(例:KPI、1on1、多面評価制度、他)を抑えて最もポピュラーな制度となっています。この制度は、業績管理のためであったり、人事評価や人財育成のためであったり、また単独でなく複数の目的のために使われているものです。皆さんが今現在マネジメントに携わられているなら、初心(?)に立ち戻り、この「目標管理(制度の活用、見直し)」から始められては如何でしょうか? この制度を評価・業績管理等のためのツールとして活用いただくことはもちろん可能ですが、何よりもこれが部下の方々とのコミュニケーションのための有効なツールになり得ることは、間違いありません。所謂「共通言語」としての要素(共通の目標であったり、成長の目標であったり)を具備していますし、相手の思い・考えを知り、相互の理解に役立つことは明らかですから。

 組織は、マネジャー職の方が頑張れば良いというものではありません。オーケストラと同じように、タクトを振る指揮者(マネジャーに相当)の下、個々の楽器が時には独奏(独走も!)することもあるでしょうが、互いに協力・協調して一つの音楽を創り上げる(共通の目標たる成果を上げる)ためのチームになる必要があります。皆さんも「OneTeam」になって、高い業績と成長を遂げていただきますよう、心から祈念申し上げます。