【リモートワーク下における活力ある職場づくり】メンバーの持ち味を味わう~ベテラン社員について考える
前回は「メンバーの持ち味を味わう」と題して、一人ひとりのメンバーの意見・考えを把握するためのポイントについてお話をしました。その核心は「マネジャーとメンバーである前に、人と人としてコミュニケーションを楽しんでほしい」ということです。
これまでのエピソードでは、新人・若手を巡った話が中心でした。メンバーと一言で言っても、ベテランもいれば新人・若手もいるなかで、ここ最近多くのマネジャーが直面しているのは、ベテラン社員にどう向き合うかということではないでしょうか?“自分より年上の人がメンバーに”、“昨日まで自分の上司だった人が今日からメンバーに”なんていう話もよく耳にするようになりました。
今回は、ベテラン社員の人たちと向き合うポイントについて考えてみたいと思います。
まずはエピソードをご覧ください。今回のエピソードは前回のエピソードのこぼれ話になります。
エピソード“自己主張の強いベテラン社員”
※このエピソードは前回の続きとしてご覧ください 。
「異動してきたAさんが、「ここにはやりたい仕事がない」と言ったことに対して、特に厳しい意見を言ってきたのは私より年上のメンバーのBさん(50代後半)です。マネジャーを役職定年され、私の部下になった人です。日頃から手厳しい言葉でグループやメンバーに対して批判的な話ばかりする人なので、周りからも“触らぬ神に祟りなし”のような目で見られていたのですが、今回は本当に大爆発でした。Aさんが発言した後すぐに、“そんな好きな事ばかりやってられるわけないだろ”と言いだしたかと思えば、その後も何かにつけて私に対して“あいつはどうなったんだ?”とか“Aは他のメンバーから相手にされてないぞ、どうするんだ?”って言ってくるんです・・・。あなたが言うなよ、という感じなのですが、最近はますます手に負えなくなりました。」
皆さんがこのマネジャーだったら、どんなことを感じ考えますか?
前回お話したように、まずは相手の立場に立ってみたいのですが、果たしてそれは可能でしょうか?
このコラムでは幾度となく「相手の立場に立つ」ということをお話ししてきましたが、一体どうすることで相手の立場に立てるのでしょうか?
注意していただきたいのは、相手の気持ちをうかがったり、推察したりして共感・同情することではなく、相手が置かれた事実状況に自分の身を置いて感じることが重要だということです。映画を見るのではなく、自分が映画の主人公だったら、どんなことを感じ、考え、行動するのかを考えてみることが大切です。そのために、このコラムでは自分の中の似たような体験・経験を思い出してもらっていました。
これまでのエピソードは、新人・若手の人たちが対象だったので、皆様も想起されやすいものでした。しかし、ベテラン社員については自分の中に類似の体験が少なく、相手の立場に立つことが難しくなります。そのため、どうしても、べき論が飛び交いやすくなります。
“ベテランなんだから若手を育てて当たり前。面倒見て当たり前”
“ベテランなのに年甲斐なく文句ばかりいうなよ”
という感じです。つまり、ベテラン社員に対しては、知らず知らずのうちに自分の中にあるべき論を押し付けてしまっている可能性があります。
Bさん(50代後半)の立場に立つ
私は、Bさんほどのベテラン社員ではありませんし、Bさんより年下で、当然、同じような体験・経験はありません。立場に立っているつもりでも立てていない気がします。それでも比較的近い経験を上げるとしたら、例えば、部活やサークルで引退が決まった後、請われて練習に参加していたときでしょうか?そうした体験を思い出すと、残っている人の為に何かしてあげたいと思う一方で、あまり根詰めてやりたいわけでもない・どこかでもう楽をしたいという気持ちの両方が天秤に乗ってゆらゆらと揺れていました。後輩に気を遣われたくないと思う一方で、ちょっとは気を遣え、みたいな相反する気持ちが混在していたように記憶しています。この経験は、社会人になる前の時代のことですから、30年以上も社会人としてやってきている人たちがどんなことを感じているものなのでしょうか?
今回は先にエピソードの顛末からお話ししたいと思います。
エピソードの顛末
1on1でグループの状態について話をきいてみました。これまでのBさんとの1on1は彼の担当業務の進捗確認が中心でしたが、ベテランなのでこちらから細かく要望することもなく、それで十分でした。このときは、業務のことよりもグループの状態について話してみました。話したというより、相談に近いでしょうか。Aさんの件では私も頭痛かったので。そうしたら、案の定Bさんから文句というか厳しいご意見がたくさん(笑)。“ああいうときはお前がもっとがつんと言わないといけない”“だいたい日頃からAは孤立しとる!”とか・・・。ひとしきり聞いていたら、ふと、“あれ?Bさんってものすごくグループの事を見てるな”と思えて、思わず“ありがとうございます。これからも色々教えてください”と言いました。その際、一瞬Bさんが照れたような表情見せてきて、“何かあったら言ってくれ”。いつもより短い時間で1on1は終了しましたけど、あれ以来、Bさんから話しかけてもらえるようになりました。8割は文句ですけど、少しはアドバイスもあったりします。」
エピソードから分かること
いかがでしたか?ここから何を学べるのでしょうか
ベテランなのだから若手を見るのは当然?そういう見方もあるかもしれません。しかし、そう捉えることがこの問題の解決になるのでしょうか?
先ほどお話ししたように、部活の引退であっても心が揺れていました。ましてや、数十年と長年に渡り第一線で働いてきた人たちの胸中はいかほどのモノなのでしょうか?
このまま終わっていいのか、育ててもらった恩を返したい・・・でも、一方で、いつまでもここにいていいのだろうか?自分は邪魔者じゃないだろうか?自分だって楽をしたい、色んな責任・苦労から逃れたい・・・いろんな思いが胸中渦巻いているのではないでしょうか?そういうBさんにとっては、マネジャーからの“ありがとう”という一言は我々が想像する以上の影響があったように感じます。その一言が引き金になって、Bさんの中でマネジャーの期待に応えたい、残りの会社生活を充実させたいという再選択をしたように思います。
ここから何を学ぶのか。
それは、ベテラン社員の中には、これからも会社・職場のために働きたいという思いもあれば、解放されたいという思いもあるということ、そしてどちらにするかは本人が選択する問題であり、マネジャー側にできることはベテラン社員の中にある前向きな思いを信じて、期待・信頼するということだと思います。もしかしたら、後者を選択する人もいるかもしれません。ただ、何十年も社会人として頑張って来られた方々です。こちらの期待を受け止めていただいたうえでの本人の決断であれば、受け止めても良いように思います。
今回は、ベテラン社員の活躍・活性化について考えました。これは本当に難しい問題だと思っていますが、マネジャーが彼らの何に期待・信頼しているか、その日頃の姿勢が問われているような気がします。
人事部門は、改めて、ベテランの方々の前向きな思いを信頼しようとしているマネジャーがどれだけいるか、会社・職場を見渡してみてください。これはそのまま、会社として、メンバーの持ち味を信頼するマネジメントができているかを測るものさしになることでしょう。
さて、第4回までは、マネジャー対個に焦点を当ててみてみました。次回からは、“チーム”ということに焦点を変えて、リモートワーク化における職場づくりについてみていきたいと思います。