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経営まで踏み込むのか? バックオフィスの目標設定、現場と経営で認識の共通化を!【退職クライシスを乗り切る! バックオフィス安定運営の秘訣Vol.2】

2024.01.22

アウトソーシング事業者である株式会社TMJの村上亘氏が、バックオフィス安定運営の秘訣を紹介していく本コラム。第2回のテーマはバックオフィス安定運営のための「目指す状態と目標の設定」について解説します。

バックオフィス担当者と経営層の間で、「目指す状態と目標の設定」の認識が異なっている、あるいはそもそも目標設定がされていないと、バックオフィスの運営が安定しません。目標設定がうまくでき共通認識が持てている企業では、「自分たちが今、何に向けて努力しているのか」が明確になるため、業務がスムーズに実行され、安定運営されるだけでなく、経営にも生きるようになります。

そこで今回は、目標設定がうまく行かない背景を理解し、実際の目標設定のステップををご紹介しましょう。

バックオフィス業務は企業への貢献度が理解されにくい!

バックオフィス業務は「企業への貢献度」がわかりづらい業務を多々担っているものです。

当社では、アウトソーシングのご相談を受けての提案時や、BPOサービスの業務要件定義時に、業務担当者、管理者、部門長など複数の方に質問、ヒアリングをするのですが、これはそうした「貢献度のわかりづらい」業務やタスクを洗い出し、バックオフィス部門担当者と経営層、双方の認識をすり合わせるためでもあります。そのうえで、「目標設定」を行わなければ、設定する内容に認識の差が生じうまくいかなくなってしまうからです。

特に現場側は日々、懸命に業務をこなしていても、企業への貢献度が理解されず正当な評価が得られなかったり、あるいは残業が続いたりすることで、「業務への課題」を感じやすくなり「離職」の要因にもつながりかねません。一方で経営側(管理者や部門長を含む)は、人員が揃っているのに業務が進まないのはなぜか、もっと法改正対応やシステム導入に本腰を入れてほしいなどの点から「業務への課題」を感じやすく、そのことがより、現場と経営の間の溝を広げてしまいます。

こうした認識の差はなぜ起きるのか。その原因を理解すると、目指す状態や目標を現場・経営双方共通で認識・設定できるようになり、企業の根本的な課題解決への近道につながる可能性があるのです。

バックオフィス部門の現状:ミスの許されない事務作業の連続と経営寄りの課題への参画

目標に関する認識の差は、どの部門であっても多かれ少なかれ生じるものです。一方で、生産製造部門、マーケ・営業部門と比較すると、多い傾向にあります。これらの部門とバックオフィス部門の違いを見てみましょう。


【生産・製造部門や、営業部門の目標認識】

数えだすときりがありませんが、生産・製造部門では不良率や納期遵守、原価率、生産性、効率性が重要な指標として挙げられます。営業部門は売上や利益目標に主眼が置かれることが多いでしょう。これらは顧客契約に基づく明確な取り決めをもとにした目標となっており、その点で上司・部下間、あるいは現場と経営での認識に差が生まれにくいでしょう。また、目指す状態としても、お客様を中心に据え、顧客第一主義をうたうことに疑問を抱くことは少ないといえます。対してバックオフィス部門はどうでしょうか。


【バックオフィス部門の目標認識】

バックオフィス部門の現場では、日常的に多岐にわたる事務処理が行われており、いずれも「期日までの正確な処理」が求められます。例えば経費精算や勤怠管理など、処理そのものが単純であっても、社員や会社への影響は大きく、ミスをすれば大きなダメージを与えてしまうため、現場担当者にかかるプレッシャーもまた大きくなりやすいものです。

一方昨今では法改正対応やシステム対応などの多くがバックオフィス部門に委ねられています。これらはたとえ作業が単純化されていても、紐づけられる内容は経営寄りの課題であることが多く、つまりその分、負荷が高くなります。

つまり、バックオフィス部門の現場が多岐にわたる事務処理をミスなく正確に行うことを目指していても、経営側がもっと経営寄りの課題に取り組んでほしいと期待しているとなれば、当然双方の目標の乖離は大きくなります。この乖離がある限り、目標認識は共通のものとなり得ません。では、目指す状態や目標の設定の際をなくすにはどうすればよいでしょうか。

大きく3つのステップを踏めば、共通した目標設定が可能

では現場も経営も納得できる、バックオフィス部門の「目指す状態と目標」の設定をするにはどのようなステップを踏めばよいでしょうか。今回は中でも目指す状態と目標の設定の流れをお伝えしましょう。

【1】現場が必ずやるべき処理業務の可視化

まず、現場の現状の可視化をしましょう。

具体的には現場で発生する定型化された業務の種類、発生スケジュールや業務量、対応人数、個々の生産性、処理時間、遅延やミス、残業の発生状況などの可視化です。これらは現場の現状を把握し、課題解決を実行する際の重要なデータとなるだけではありません。管理・経営層に対しての説明根拠となり、バックオフィスの現場で起きている問題を重要な課題として認識し、双方の信頼性や信用性を高め、良好な関係を維持・強化することに役立ちます。ただしまだ、現場の可視化自体が課題になっている企業が多いため、こちらについては次回以降にまたご説明したいと思います。

【2】課題の洗い出しと解決された状態のイメージ

次に現場と経営、双方の課題の洗い出しを行いましょう。課題にはいくつか種類があります。

①起こることがほぼ確実に分かっている、すでに存在する課題
現場例:遅延やミスが発生している、残業が多い
経営例: 法改正、新法への対応、コスト削減

②将来起こり得る潜在的な課題
現場例:社員のモチベーションが低い、残業が多く担当者が辞めそう
経営例:業界の変化への対応、DX導入による効率化、コンプライアンス強化

③未来に向き合い、自ら目標設定を行い達成する課題
現場例:現場の可視化を行い、属人的な対応を回避する
経営例:経営課題を解決できる強いバックオフィス組織の構築

課題の抽出方法は世に数多存在しますが詳しくは5章で語らせて頂きます。まずは上記の3つの視点で簡易に洗い出してみるのもよいでしょう。

全ての課題を同時着手していては人も時間も足りません。課題の洗い出し後、優先軸と重要軸で着手する課題を絞り込みましょう。2軸の中でも優先軸は解決までのリミットや期日設定による順位付けができるので先行して行うのもいいでしょう。重要軸は現場・経営の両視点が必要となります。中間管理層のリーダーシップがポイントとなりますが、両者の理解を深め、効果的なコミュニケーションを図りながら比較を進めましょう。最後に、時間的余裕のある課題も、今年度中に終わらせるべき課題に分解するなどして絞り込むと、網羅性を確保できます。

なお、着手すべき課題の抽出段階で、課題解決後に組織や働き方がどう変化するか、目指す状態をイメージすることをお勧めします。これは現場側、経営側双方へ課題解決のメリットを共有しやすくし、また、解決までの活動期間で原点に立ち返ることができるという2つの効果をもたらします。


【3】目標の立て方

最後に目指す状態と目標の整理を行います。あるべき状態を念頭に、これを実現する上で解決するべき課題を整理します。ポイントは2点です。

① 目標の指標化を定性・定量で行う
例として「残業問題を解決する」を目標とした場合、具体的な定量指標として削減時間数や月間残業目標を設定。定性の指標(状態)として、残業の要因となっている項目の改善施策を設け、定量定性双方を掲げることが理想と考えます。

② 体制とマイルストーン
体制の整備は課題解決活動において関係者の洗い出しにより、協力体制の構築が重要となります。場合によっては他部署や同僚の協力が必要な場合、事前の説明なども必要でしょう。またマイルストーンの明確化と報告先の設定も重要となります。報告は活動の進捗や見直しに寄与しますし、上司や経営の支持も得やすくなります。この段階では年間の活動イメージと報告タイミングなどをイメージしてください。課題の管理方法や報告に必要な活動記録については、第5回で詳細を解説します。

中小企業では現場・経営双方の課題が山積している以上、双方向の理解が必要不可欠

さて、ここまで目指す状態と目標を設定するステップをお伝えしましたが、中小企業では組織構造的にも物理的にも、現場と経営の距離が近く、設定の取りまとめ役は両者の板挟みに苦しむこともあります。これは今回最も申し上げたいことの一つでもあるのですが、中小企業のバックオフィス業務を取巻く状況というのは現場・経営双方の課題が山積している以上、双方向の理解が必要不可欠です。

バックオフィス部門に関わる経営の複雑な問題はしばしば社会的な焦点となっていますので、ニュースやセミナーを通じて情報を入手するなど、現場側はアンテナを張る必要があるでしょう。

ただし、バックオフィス部門の状況は企業ごとにかなり個性があるため、正確な把握・現状理解はその企業自体でしかできません。現場は自らの改革・改善と経営への説明の二面において、「3つの可視化」が重要といえます。この「3つの可視化」の詳細は、次回以降、お伝えしたいと思います。