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フロー、ルール、マニュアルの整備とは? 退職クライシスへの備えと対応【退職クライシスを乗り切る! バックオフィス安定運営の秘訣Vol.3】

2024.02.21

アウトソーシング事業者である株式会社TMJの村上亘氏が、「退職」に伴う「危機」=「退職クライシス」を乗り切り、バックオフィス安定運営の秘訣を紹介していく本コラム。第3回のテーマはバックオフィス安定運営のための「フロー・ルール・マニュアルの役割」について解説します。

フロー、ルール、マニュアル整備の重要性と実践ポイントを解説。特に、退職クライシスへの対応や新人戦力化の成功事例を交え、必要なのはわかっているけどなかなか着手できない、これらの制作に着手する際のポイントをいたします。

フロー、ルール、マニュアルの役割と退職クライシスへの対応

フローやルール、マニュアルは重要な存在ですが、これまで相談を受けた企業では、それらが適切に整理されているケースは少ないようです。

整理が不足する大きな要因は、重要という共通理解があっても、担当者が個別に対応することで業務が回ってしまうから。そのため緊急性が低く見積もられ、手が付けられないままになる。

フロー、ルール、マニュアルが可視化されると、生産性向上やミスの防止・解決が容易になることが大きいのですが、実は最大のメリットは、「退職クライシス」に対処する際に現れます

身に覚えがあるのではないでしょうか? 退職クライシスが発生すると、急速に緊急性が急速に高まる。実際「あるバックオフィス担当者が辞めることになって、業務が回らなくなりそうなんです」と困り果てて相談する担当者は実に多いのです。

こうした事態を回避するためには、どのような手法を採るべきでしょうか。

バックオフィスの整備術:フロー、ルール、マニュアルの役割と違い

緊急事態に備え、まずはバックオフィス業務におけるフロー、ルール、マニュアルの違いについて理解しましょう。


① フロー

・業務を遂行するための手順やプロセスを視覚的に表現したもの
・発生と処理のタイミング、関わる人物や部門、処理システムが可視化されている
・何を目的にどこからインプットが入り、どこにどんな結果をアウトプットするかが分かる

② ルール

・業務を遂行する際の判断基準や規則を指すもの
・フロー各ステップの「判断基準」「規則」による基準を設けることで、業務の統一性や公平性を担保できる
・レギュラー/イレギュラーを見極め、いずれの場合でも処理を行い次の対応に進める

③ マニュアル

・業務を遂行するための詳細な手順書
・各ステップの「作業」の実行方法を明確にしたもの。
・事務処理手順書や、活用するシステムの操作手順書など、実行する上で必要になる
・新人教育や業務の引き継ぎにも役立つ

言葉だけでは混乱しやすいですが、まず、全体像を把握するためフローがあり、その基準や手順を定められたものが、ルール、マニュアルです。ベテラン担当者はこれらを経験から覚えており、業務を実行できます。

しかし、これらが整備されていない場合、新人は口頭やメモに頼ってOJTを進め、担当者の処理を見て真似るしかありません。結果として作業時間=OJT時間となり、イレギュラー対応は起こらない限り学習すらできない状況になります。結果、新人は何のために処理をしているのか理解できないまま目の前の処理を実行し、イレギュラーが発生するたび手が止まり、質問を重ねて……という状況に陥り、新人の早期離職クライシスまで招くケースにすらつながります。

3つの可視化はこれらの問題を回避し、業務をスムーズに進め、将来の業務改善を可能にする最良の手段と考えます。

新人の戦力化が12か月→可視化2カ月+育成3か月以内で出来るケースも。

中堅規模の経理部門の業務習得期間が、従来の12カ月から5カ月に短縮された事例を紹介しましょう。

これまでは、新人の業務習得は、先輩担当者のOJTかつ、フローやマニュアル等の類はなくほぼメモベースで行われていました。

それに対しては、私たちはまず、担当者にヒアリングを行いながら、約2カ月で、フローやマニュアルを作成しました。結果、定型的業務は、初月から同等の生産性で行うことができ、また例外判断を伴う業務も課題管理、台帳管理を行い可視化することで、約3カ月で解消されました。

最終的に約4割の業務習得機関短縮および、業務の質の維持につながりました。

業務の明文化をどのように推進するか

■推進する前に■
では、自社で整理・運用するならどうしたらいいのか。

第一に、業務の仕組み化を図ること。フロー、ルール、マニュアルを明文化し更新することが、会社や管理職固有のものではなく各メンバーの業務の一環であることの理解を深めます。

そのためには、「実務」を「目標」に組み込むことから始めます。いつまでに、誰が、何を作成するのか。

目標設定では、管理職とメンバーの間で、業務習得(退職発生時)、業務効率化、ミス提言品質向上などの将来への備えとして目的の理解に十分な対話を行いましょう。

また、やり方については、通常業務に単純に付け足すのではなく、一部の通常業務は他の担当者と分担する、閑散期間を利用するなど代替と柔軟に行うことも話しましょう。重要が高く緊急度は低い将来への課題に取り組むためには、関係者に対して説明し、理解を得る努力が必要です。連載第2回でお伝えした点は、ここで活かされると考えます。

■ステップ1 業務可視化リーダーの配置

一定規模の会社でも、業務の可視化を推進する担当者が明確に定められているのは半数以下と実感しています。そういった状況下では、もちろん私たちのようなBPOや、コンサルティング会社のサービスを利用することも手段の一つではあります。

しかし、将来、継続的に行うことを考えると内部に業務を体系的に見ることのできる人材を配置することが望ましいです。この領域の知識や技術を習得する研修も比較的充実しています。

人事や経理業務の専門知識・技術を保有するスペシャリスト人材を想像してしまいますが、それとは異なります。

フロー作成は、業務全体を俯瞰し、目的、インプット、アウトプットを明確します。また、ルールやマニュアル作成は、日常の判断基準を可視化。いずれも複数で分担して作成します。

一方で、個人の判断に偏っていないか、内部統制やコンプライアンスの観点から適切であるかなどのチェックが必要となります。リーダーは、各メンバーが得意な知識を活かし、作成とチェックを分担し、負担を軽減しつつ、正確な可視化を実現する進行のハブとなります。

■ステップ2 計画は主要業務から対象に

主要な定型業務と、ミスが多く問題があるなど全体への影響度が大きい業務を対象としましょう。先ず7、8割の業務に対応できる=業務全体が止まらない対象といえます。

ルールを伴うものだから、最初から全部整理されていることが望ましいですが、それはかなりレベルの高い話。何も手をつけなくなってしまうことも多々あります。

■ステップ3 その他業務は、発生タイミングと期間をかけて

残りの2~3割については、その業務の実施時にルールがなかったことに気づく、それを管理して解決し作成していく。「1回ルールみたいなものを作りました。そこから漏れていくもものはスルーします」ということではなく、漏れているからこそ作り続けるわけです。

最初から網羅的に作るのではなく、徐々に「完成させていく」意識でいいのではないかと思います。

フロー、ルール、マニュアルの業務の可視化の重要性については、皆様ご存じの通りだと思いますが、これを組織や企業の視点でも見ても重要である点に踏み込んだ理解をしていただき、他方で最初から完璧を目指さない、業務としての着手をお勧めいたします。