部下のモチベーションを上げる!聞き上手な上司になるために【中間管理職のビジネスマナー10の基本 Vol.9】
こんにちは。株式会社トークナビ代表取締役・アナウンサーの樋田かおり(といだ・かおり)です。皆さんは、相手の「聞き方」によって、気持ちが前向きになったり、逆に後ろ向きになったりした経験はありませんか?今回のテーマは「部下のモチベーションを上げる!聞き上手な上司になるために」です。
目次
1)上司の聞き方で部下が変わる
2)モチベーションを下げる上司、上げる上司
3)上手な聞き方のコツ
4)肯定質問で話を引き出す
5)次回は「コンプライアンスをどう教える?」
上司の聞き方で部下が変わる
先日、ある企業で働く若手社員から、指導役である先輩にこんなふうに聞かれて不安になったという話を聞きました。
先輩:(不安そうな顔つきで)「今、困っていることはないですか?」
後輩:「ないです」
先輩:(疑うような顔つきで)「不安なことはないですか?」
後輩:「…。えーっと」
先輩:「何かないですか?」
後輩:「…。う〜ん」
先輩:「困ったことがあったら、何でも相談してください」
後輩:「…。はい」
先輩としては「若手を指導したい」という意図があったのだと思います。後輩としては不安や困りごとはなかったにもかかわらず、先輩にこのように聞かれたことで、「自分が何かやらかしてしまったのか」「仕事の抜け漏れがあるから、こう聞かれているのか」と逆に不安になったそうです。
このように、コミュニケーションにおいては、話し方だけでなく聞き方も大事なスキルです。
上司と部下の間で日常的に行われる「業務報告」でも、上司の聞き方によって部下の受け止め方や気持ちが変わります。
次項で具体的なシチュエーションで見ていきましょう。
モチベーションを下げる上司、上げる上司
部下がまったく同じ内容の報告をしたとしても、モチベーションを下げる上司と、モチベーションを上げてくれる上司がいます。一体、何が違うのでしょうか?
部下が上司であるあなたの席の前に来て、今月の営業結果について報告する場面を想像してみてください。
部下:(上司の席の前に立ち、明るい声で)お疲れ様です。
上司:(机上のパソコン画面を見ながら、ボソッと)はい、お疲れ。
部下:A社の営業結果ですが、無事に100万部発注してもらいました。
上司:(目線はパソコンに向けたまま)先月と比べて何パーセントアップしたの?
部下:(明るい声で)150%です!
上司:(目線はPCに向けたまま、ボソッと)そっか。先月は確かB社から大型発注があったよな。そっちのほうはどうなんだ?
部下:(少し落ち込んだ声で)それが、B社からは発注を打ち切られてしまいました。競合のC社が新商品の提案をしていて、こちらも精一杯値下げをしたんですけれども…。
上司:(部下の方を向き、腕組みをしながら。少しむっとした様子で)そっかー。明日までに改善対策のレポートを出してくれよ。頼むぞ。
部下:(暗い声で)はい…。
部下がせっかく良い結果も報告したのに、このような対応では部下はがっかりし、やる気を失ってしまいます。部下の気持ちとしては、「なんだよ…。A社は大成功だったのにな」というものでしょう。
では、続いてもう1人の上司のケースです。
部下:(上司の席の前に立ち、明るい声で)お疲れ様です。
上司:(部下の方に振り向き、明るい声で)お疲れ!
部下:A社の営業結果ですが、無事に100万部発注してもらいました。
上司:(机上のノートパソコンを閉じ、部下に笑顔を見せながら)おお、100万部か!先月と比べて何パーセントアップしたの?
部下:(明るい声で)150%です!
上司:(部下に目線を合わせ、にこやかに)え!150%?見事、やりきったな。先月は確かB社から大型発注があったよな。そっちのほうはどうなんだ?
部下:(少し落ち込んだ声で)それが、B社からは発注を打ち切られてしまいました。競合のC社が新商品の提案をしていて、こちらも精一杯値下げをしたんですけれども…。
上司:(うなずきながら話を聞き)そうか。値下げでは切り崩せなかったか。わかった。ありがとう!明日までに改善対策のレポートを出してくれる?よろしく、頼むぞ!
部下:(明るい声で)はい!
いかがでしょうか。今度は、部下は「B社の対策、がんばるぞ!」という気持ちになったと思われます。
このように、上司の聞き方によって、部下の気合がまったく違うものに変わってしまいます。
上手な聞き方のコツ
では、どのようにしたら部下のモチベーションを上げる聞き方ができるのでしょうか?上司がすぐにできる上手な聞き方のコツを3つ、紹介します。
①アイコンタクト
1つめは、アイコンタクトです。
先ほどの両者を比べてみると、冒頭の「お疲れ様です」「お疲れ」のやりとりで、コミュニケーションの関係性が変わってきていることが伺えます。
前者の上司は、目を合わさずにパソコンの画面を見ながら忙しそうに「はい、お疲れ」と声を返していました。
対話においては、アイコンタクトをとることが非常に重要です。お互いの目を合わせることはコミュニケーションの基本だからです。
部下が「お疲れ様です」とあいさつしたら、一瞬しっかり相手の目を見て「お疲れ様」と返しましょう。これなら、どんな上司でも、今すぐにでもできることですよね。
②話を聞く時の姿勢
2つめは、話を聞く時の姿勢です。
前者の上司は、パソコン作業をしながら部下の話を聞き始めました。途中から手を止めて顔を上げたものの、姿勢は腕組みをしながらでした。
これでは、威圧感があり、部下にとって話しにくい雰囲気になってしまいます。
話を聞くときの姿勢を良くすることも、上司の心得の1つです。腕組みをして聞く、ふんぞり返って聞く、体を揺らしながら聞くなどは、やめましょう。
また、忙しいからといってパソコンやスマホの画面を気にしながら聞くのもNG。日常の報告や簡単な質問であれば、数分で終わることが多いでしょう。一旦手を止めて話を聞くか、至急の仕事がある場合は、「〇分後に」などと伝えて話を聞く時間をつくります。
③声のトーン
3つめは、返事をするときの声のトーンです。
前者の上司は「お疲れ様です」と明るく声を掛けられたのに対し、ボソッと「はい、お疲れ」と返しています。部下が明るく「150%です!」と良い報告をしたときも、声のトーンは変わりませんでした。
これに対し、後者の上司は「おお、100万部か!」「え!150%?見事、やりきったな」と相手の声のトーンに合わせるような会話をしています。
部下と気持ちよく会話するためには。声のトーンを合わせることが必要です。相手が喜んでいたら、上司も明るい声で返してあげてください。
もし、部下が深刻そうな顔で悩みを相談してきたときには、いきなり「大丈夫、大丈夫!」と明るく返すのではなく、「そうなんだ、それは困ったね…」のようにトーンを落として返してみてください。同じく深刻なトーンで返すことで、部下は「この上司はわかってくれている」と感じます。
ポイントは、相手に感情を合わせながら、話を聞くことです。
肯定質問で話を引き出す
部下の報告を聞く姿勢ができたら、質問の仕方も変えてみましょう。
意識したいのは、肯定質問と否定質問の違いです。
こちらも、具体的なシチュエーションで見ていきます。部下が「今日、顧客に納品する予定だった動画がまだできていない状況だ」と報告してきた場面をイメージしてください。
<否定質問の場合>
上司:なんで、納品できていないの?
部下:すみません、スケジュール通りに計画が進まなくて…。
上司:なんで計画通りに行かなかったんですか?
部下:すみません、それは僕の力不足かなと…。
このときの部下の気持ちは「怖かった」というものでしょう。委縮してしまい、行動が止まってしまいます。
次は、違う質問の仕方をしてみます。
<肯定質問の場合>
上司:なんで、納品できてないの?
部下:すみません、スケジュール通りに計画が進まなくて…。
上司:これからどうしたら、なんとか、早く納品できますか?
部下:止まっているのが協力会社さんのところなので、まずそこに連絡して、早められるかとか、何が原因で止まっているのかとか、聞いてみます。
上司:では、現状把握をして、すぐ動けるようにお願いします。
部下の気持ちとしては「何とかしよう」と前向きになり、次の行動に結びつきそうです。
2つの例からは、納品するというゴールは同じなのに、上司の聞き方が違うと、部下の次の行動が変わってくることがわかります。
上司が「できなかった」「いかなかった」と否定的な言葉を使って聞くと、部下は委縮してしまい、次の行動を意識できなくなります。上司はぜひ、望む方向に部下の意識を向けるような言葉で質問をしてみてください。
このように、上司であるあなたの聞き方一つで部下との関係が変わるどころか、その後の部下の行動が変わって生産性や業績向上にもつながったり、逆にやる気を失わせることにつながったりするのです。
慣れた職場や人間関係の中では、普段あまり意識することがないかもしれませんが、この機会にぜひ、自分の「聞き方」を見直してみてください。
次回は「コンプライアンスをどう教える?」
本コラムでは中間管理職やリーダークラスの方が再確認しておきたい「ビジネスマナーの基本」を、アナウンサー社長でビジネスマナー講師でもある樋田かおりがお教えします。
最終回となる次回のテーマは「コンプライアンスをどう教える?SNS、テレワーク時代に気を付けたいこと」です。ぜひお読みください!