中小企業が「自社で定着・活躍する新卒」を採用するために重要なポイント【新卒採用が困難な今中小企業が「自社で定着・活躍する新卒」を採用する秘訣 Vol.1】
少子化や人手不足を背景に、新卒採用の“売り手市場”が加速しています。この状況に加え、就活スケジュールの形骸化や学生の大手志向、採用人材の早期離職も重なり、特に中小企業において、採用から入社後の定着まで実現させる採用活動の難易度は年々増しています。
本コラムの第1回は、このような市場感に合わせ、中小企業が「自社で定着・活躍する新卒」を採用するために最も重要なポイントをお伝えし、第2回以降で、採用戦略・採用活動・入社後対応の具体的なノウハウをご紹介します。ぜひ、最後までご覧ください。
令和の中小企業の新卒採用市場
まずは人材の争奪戦が加速する、新卒採用市場において中小企業が直面する課題を3つの視点で見ていきましょう。1つ目は、大卒求人倍率(就職を希望する大学新卒者1人あたりの求人企業数)です。リクルートワークス研究所の調べによれば、大卒の求人倍率は、新型コロナウイルス感染拡大による景況感の悪化により、2022年卒では1.50倍まで低下したものの、それ以降は、2023年卒は1.58倍→2024年卒は1.71倍→2025年卒は1.75倍と上昇が続いており、ほぼコロナ渦前の水準に戻りつつあります(※1)。
従業員規模別に、2025年卒求人倍率と前年との比較を見ると、特に300人未満企業、300人~999人企業でその増加は顕著となり、300人未満企業の2025年卒求人倍率の6.50倍は、コロナ渦前の2020年卒求人倍率の8.62倍に次ぐ高さとなりました。一方で、1000~4999人企業の対前年比に変動はなく、5000人以上企業では低下しているため、売り手市場が加速する中でも、中小企業の採用難易度は特に高まっています。(※1)
2つ目は、学生の大手志向の高まりです。株式会社マイナビの調査では、2025年卒大学生の大手企業志向は前年比4.8ポイント増加し、3年ぶりに5割を超えたと発表されました(※2)。昨今の学生は、学生時代にコロナ禍による不況、物価上昇、さらに終身雇用制度の衰退も目の当たりにしてきた世代です。そこに加速する売り手市場も相まって、できるだけ経済的な不安の払しょくと、プライベートを含めた人生の充実度を高められる企業に就職したいという思いから、大手企業志向が高まっていると考えられます。
※2 出典:株式会社マイナビ「2025卒大学生就職意識調査」
最後は、大卒人口の減少という課題です。日本の少子化は止まらず、2023年の出生数は72万7277人で前年より4万3482人減少し、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)は1.20と過去最低を更新しました(※3)。 この現実は今後、大卒人数の減少にも直接的に影響を及ぼし、文部科学省の推計では2040年には大学の入学者数が2022年対比で約20%減、年間11.6万人減少するという結果も発表しています(※4)。 ここ10数年は大学進学率の上昇もあり、大卒者や新卒の就職希望者の人数の減少を感じにくかったかもしれませんが、少子化により大学に進学する学生数も今後上昇余地がなくなり、大卒人数は急激な減少を始めます。
大卒人数の減少、そしてライバル企業の増加と学生の大手志向なども相まって、中小企業における新卒採用活動は、ますます厳しい状態になっていくと考えられます。
※3 出典:厚生労働省「2023年 人口動態統計」
※4 出典:文部科学省「大学入学者数等の将来推計について
初任給や年間休日日数… 条件面の整備は、もう避けては通れない
このような状況の中で、新卒採用において避けて通れなくなっているのは、労働条件の整備・改善です。学生の大手志向の高まりでも述べた通り、加速する売り手市場において、初任給の高さや福利厚生などの条件面を企業選びの軸に据える学生が増えてきています。当社が例年、その年の新入社員に実施している調査でも、「就職活動において重要視していた軸」の項目では、2024年の「有給休暇の取得しやすさ、初任給」「福利厚生の充実さ」が、2年前の2022年から大きく増加する結果となりました(※5)。
近年、大手企業が初任給を30万円以上に引き上げるニュースが多く報じられている中で、多くの学生が高い初任給に注目するのは当然のことです。特に、最終的に複数の内定を取得することが一般的となっている中で、最終的に労働条件が承諾要因の1つになるのは自然な流れです。
労働条件が内定承諾の決め手となる事例は、大手企業と中小企業の間だけでなく、中小企業同士でも見られます。最近、我々が支援した学生の事例では、志望業界・職種が一緒の同規模の中小企業2社(A社・B社)から内定を受け、入社後の業務内容や社員の人柄、社風はA社に完全に軍配が上がっていたものの、最終的にA社より初任給が数万円高いB社を選んだというケースがありました。その学生も、初任給以外の部分はA社に気持ちが向いていたので、内定承諾期限ギリギリまで悩んだ末の選択でした。特に、都市部に住む予定の学生にとっては、昨今の物価高もあり、初任給の高さを重視する傾向が強まっていると感じます。
初任給以外の条件面では、毎月の固定費となる家賃の補助の有無や、年間休日日数も重要な要素となっています。
給与や福利厚生などの労働条件は、学生にとって、選考に応募するか、内定を承諾するかの大きな分岐点になるだけでなく、入社後の離職の要因にもつながります。中小企業が、他社と比較し自社で不足する全てを改善することは難しいかもしれません。しかし、ここを放置しておくと、それ以外の採用施策を打っても効果性が低くなります。
同業界・同職種と比較して低い給与の改善、サービス残業や休日出勤の排除、時間外労働の管理や適切な分量への削減、有給休暇を取得しにくいなどの労働環境の改善など、特に求人票での見栄えに関する部分の改善には、優先的に着手する必要があります。
この連載では、第2回以降、採用から入社後定着までの具体的なノウハウをご紹介していきますが、労働条件の整備・改善は、新卒採用成功の土台になりますので、小さな改善を積み重ねていただけると幸いです。
「自社で定着・活躍する新卒」を採用するために、最も重要なこと
ここまで述べた通り、中小企業の新卒採用は難易度を増しています。では、労働条件が自社よりも良い大手企業や中小企業に対して、勝ち目がないのかと言えばそうではありません。
土台として労働条件の整備・改善は必要になりますが、採用活動の各ステップに“一貫性を持たせる”こと、そして“学生を飽きさせない”という要素を取り入れていくことで、最終的に自社で定着・活躍する新卒人材を採用することができます。
〈採用活動に一貫性を持たせる〉
単に「優秀な人材を採用したい」だけではなく、入社後の定着・活躍から逆算し、採用ターゲットや、自社の魅力を言語化・明確化させ、入社後の初期教育プログラムまで一貫性を持たせることが重要です。
例えば、新卒を配属しようと思っている業務で本当に重要な素養は何でしょうか? 優秀だけど辞めてしまった人はどんな特徴があったでしょうか? 自社の魅力を体感してもらうには入社直後にどんなプロセスがあればよいでしょうか? 誰に教えさせるべきでしょうか? 入社後にギャップを感じやすいことは何でしょうか? 採用選考や初期教育の中でどうやって伝えていけばよいでしょう? このように「入社後に定着・活躍してもらう」ことから逆算して採用ターゲット、選考プロセス、入社後教育に一貫性を持たせることが大切です。
〈学生を飽きさせないこと〉
昨今の就職活動は、学生にとっても企業にとっても長期戦です。最終的に“内定承諾”までつなぎとめるためには、情報提供、選考、内定者フォローまで、あの手この手で飽きさせない関わり方が重要になります。会社説明会、一次面接、適性検査、二次面接、最終面接という選考プロセスだけでは、十分に魅力を伝えきれないかもしれません。また、採用選考において内定を出してしまうと企業側が出来る手は限られます。また、新卒採用の場合、4~6月に内定を出したら入社まで9~12か月あることになります。
例えば、採用選考であれば、食事会、社員との面談、仕事見学といったカードを準備して適宜実施する、内定承諾後であれば、LINE等で定期に情報を伝える、会社の懇親会に参加してもらう、内定者研修でイベントを企画する、翌年の新卒採用に関わってもらうといったやり方があります。
採用活動の流れは基本的なものですが、売り手市場が加速する中で、これらのポイントを落とし込んだ施策を採用担当者が行うことが、採用成功のカギになります。本コラムの第2回目では、ステップ毎のポイント解説、実際の中小企業の成功事例などもご紹介していきます。26卒、27卒の採用成功に向けてお役にたてれば幸いです。