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公的年金だけでは不十分? 老後の生活費対策について

2019.05.27

 2019年5月22日、政府は金融審議会にて、高齢社会に対する指針を発表した。その内容は、資産形成を行っていく必要があるとしながらも、あくまでも個人による自助を前提とした内容だった。

 公的年金の制度の限界は、以前から叫ばれてきたものだった。日本の内情に目を向けてみると、少子化や高齢化が加速したうえで社会保障の財源の確保でさえも苦労していると言えるものだ。

 そのうえで、老後に対する取組を個人・企業どちらの方面からも考慮する必要があり、公的年金のみでは成り立たないと政府でさえも認めた。

 ここでは、具体的に公的年金制度に触れ、個人や企業がどのようにして資産形成などの対策を行っていくべきなのか、見てみよう。

これまでの公的年金制度の概要

これまでの公的年金制度の概要

 公的年金は加入義務のある国民年金と、さらに会社員や公務員が加入できる厚生年金に分かれる。

 ちなみに、日本に住む場合は、全員が公的年金を支払う義務があるだけでなく、支払われた資金は自分の将来のために支払っているという制度ではないことに注意が必要だ。

 では、それぞれの特徴を見て行こう。

・国民年金
 納付者が20歳から60歳までの期間内で10年以上納付した期間があれば、65歳から受け取れる年金制度。支払い方法は、非常に多くの選択肢があり、コンビニ払い、銀行や郵便局などで納付することが可能だ。

 また、国民年金には障害基礎年金と遺族基礎年金も含む。どちらも受給条件があることから、事前に確認する必要がある。


・厚生年金
 企業が条件を満たした上で、従業員に対して国民年金にプラスして納付する年金制度。そのため、厚生年金の加入期間や支払い額は人によって異なるものの、10年以上の加入期間が前提条件となる。

 また、企業に加入している場合は企業が処理を行うため自身で管理する必要はない。国民年金と厚生年金の月額に関しては2倍以上の差があるものの、公的年金のみでは老後の生活費は賄えないというのが政府の判断である。

 また、厚生年金にも遺族厚生年金と障害厚生年金があり、基本的に国民年金の制度よりも高額な給付が可能だ。


・障害年金の概要
 診察によって障害等級で1級か2級として認められることによってうけとれる年金。障害厚生年金の場合は1級から3級までの方が含まれ、高額な年金を給付できる。

 また、どちらの認定であっても医師の診断が必要となり、保険料を納めている必要があることに注意が必要だ。加えて、20歳未満であったとしても障害者認定を受けている場合、20歳になったタイミングで障害年金を受け取ることが可能である。

・遺族年金
 支給対象者を限定し、被保険者が亡くなった際に遺族が受け取れる年金のこと。自営業と会社員では、受け取りの対象者が異なる。

<自営業の場合>
1) 18才未満の子供がいる配偶者
2) 子供のいない配偶者

<会社員・公務員の場合>
1) 18才未満の子供がいる配偶者
2) 子供が居ない40歳未満の配偶者と40歳から65歳の配偶者

以上のように対象者が分かれたうえで、会社員・公務員が資金的に優遇された給付を受け取ることが可能だ。そして、遺族基礎年金も国民年金の納付が必要であることには注意が必要だ

 こうして公的年金を比較してみても、年金以外の収入源を確保することが非常に重要だといえるだろう。

 企業が独自に年金を作っている場合もあるものの、企業として退職金を用意していないといったケースも考えられる。そういった場合、老後の対策は自分で行うしかなく、老後に必要な額を自分で用意するといった対策が必要だ。

個人と企業ができる老後対策

 会社員であったとしても、老後の資金は適切に管理できなければリスクが非常に高くなる。

 今後、日本全体として、退職までの年齢が引き上げられる可能性もあるものの、現状では退職までの年齢の引き上げを行っても受給できる金額には限りがあるといえるだろう。

 その上で企業と個人が取り組むことができる老後の資金作りについて見ていこう。

・確定拠出年金
 掛け金を支払い、その掛け金に対して運用を行い、その運用益を対象者に還元するというものだ。また、掛け金に関しては税制上の軽減措置もあることから、運用者が増加しつつある。

 確定拠出年金の個人型は「 iDeCo(イデコ)」 と呼ばれており、個人の意思によって加入することができる。また、掛け金や金融機関、運用商品に至るまですべてを自分で選択することが可能だ。

 対して企業型は、退職金制度として導入している場合が多い。この場合は会社が掛け金を負担し、運用商品なども会社から提示されたものを選ぶ。企業として確定拠出年金を取り入れることによって、従来の年金だけではない新しい老後対策が行えるようになるだろう。

  iDeCo そのものは非常に多くの企業が扱っている。具体的な企業名を挙げると、イオン銀行やみずほ銀行、第一生命、中央労働金庫、野村證券、 SBI 証券など有名な金融機関や証券会社が多く、地銀でも取り扱いがあるため、商品選択に困ることはないだろう。

 運用方法に関しては、自分の年齢などによってハイリスクハイリターンな銘柄を選ぶ、価値変動の少ない銘柄を選ぶ、など方針だけは決めておくことをおすすめする。

・厚生年金基金
 名前からすると厚生年金に似たものと捉えがちであるものの、厚生年金とは異なり、企業が独自に積立を行うものだ。

 そのため、厚生年金に加入していても厚生年金基金には加入していない場合がある。社会保険料等と同じく従業員と企業でその支払い額を分け合うことが可能だ。

 また、厚生年金基金に関しても3つの傾向に分類することができる。1,000人以上の加入者で1つの企業単位で構成されるもの、グループ企業で連結したもの、地域や企業など直接資本関係のないものが集合したものがあげられる。

 運用は、分類ごとに設立された法人で行うことが多く、全体的な管理は厚生労働省が統括している。現状では、まだ企業単位の年金制度として扱われているものの、他の制度との統合も考えられるほど体制が悪化している法人が多い。

・財形年金貯蓄
 企業が用意できる年金制度の1つ。金融機関と提携したうえで、老後資金の積立を行うことができる。(個人では行えない。)

 また、「給料からの天引き」、「5年間の積立」、「60歳以降に受け取る」などの要件を満たす必要がある。

 財形年金貯蓄を行うメリットは、厚生年金に加えて積立た金額を60歳以降に受け取ることが可能であることだ。さらに、住宅取得のための費用や教育費用の公的融資を受けることもできる。

 注意点は、老後の資金作りを目的とした制度であることから、それ以外の目的に引き出しを行った場合、過去5年間の利息すべてに20%の税が課されることになる。加えて、税制上のメリットがない点も忘れないでほしい。

老後対策についての事例紹介

 この章では、大手企業での老後の対策についてや、年金制度・退職金制度の事例を紹介していく。

株式会社三越
 社員だけでなく嘱託社員に至っても、退職一時金か確定拠出年金に加入することができる。公的年金だけでなく、企業年金を加えていくことが必要だと会社としても認めたうえで、確定拠出年金を導入した。

 また、三越の場合の確定拠出年金の考え方は、自己責任において年金資産を運用することとしており、投資に対する教育も行っている。

みずほファイナンシャルグループ
 資産運用及び活用方法に関する相談に対して、ベテランの社員の需要を再確認し、定年の引き上げと支店長への昇格を行った。

 高齢化社会に対して、ベテランの行員が応対することで顧客のニーズを満たすとともに業務の効率化を図ることができた。また、ニーズが拡大すればするほどベテランが必要とされるという好循環を生み出すことにつながる。



 公的年金だけでは、老後の対策は危うい。前提となる資金が足りない場合が多く、自助を促すといっても具体的な対策がなければ、準備をすることもできないだろう。

 そのうえで、企業が行える対策として、年金制度の充実化やベテランの再雇用、副業の解禁なども有効だと言える。個人で行える対策としてもiDeCoや個人年金なども選択肢として選べることから、自分の状況を確認することから始めることが重要となる。

まとめ

 政府の見解だけでなく、制度の違いは個人で把握しておく必要がある。企業としても、自社が退職や老後に対してどのような取り組みを行っているのか、改めて考え直してみるのもいいかもしれない。

 更に、企業における老後対策は福利厚生の一部としてみ見られることが多いことも加味して、対策を行うことが重要だといえるだろう。個人・企業、両方の制度を把握し有効な老後対策を行っていこう。