オフィスのミカタとは
従業員の働きがい向上に務める皆様のための完全無料で使える
総務・人事・経理・管理部/バックオフィス業界専門メディア「オフィスのミカタ」

高度プロフェッショナル制度の仕組みやメリットは?注意点や導入方法も紹介

2019.10.03

働き方改革の一つである「高度プロフェッショナル制度」は2019年4月に施行されましたが、導入を検討している企業の担当者は制度の仕組みやメリットのみならず注意点もしっかり把握しておく必要があります。この制度は生産性の向上が期待出来ますが、一方で長時間労働を防ぐ取り組みも重要です。今回は高度プロフェッショナル制度の概要・目的・導入のメリットや注意点・導入方法を見ていきましょう。

高度プロフェッショナル制度の特徴とは?仕組みや目的

高度プロフェッショナル制度を最大限に活用するためには、まず制度が作られた目的や具体的な仕組みを知っておく事が大切です。制度の特徴をしっかりと把握して導入の準備を整えましょう。

制度の仕組み

高度プロフェッショナル制度とは特定の条件を満たしている労働者に対して、労働基準法で定められた「労働時間」「休日」「深夜の割増賃金」といった規定を適用除外にできる制度の事を指し、一般的には「高プロ」などと略される事もあります。ただし、どのような職業の人でも制度の対象となる訳ではありません。高度プロフェッショナル制度の対象となるのは金融ディーラーやコンサルタントのように高い専門性を必要とし、なおかつ業務範囲が明確である職業と定められています。さらに、制度の対象者は厚生労働省が定める金額として見込み年収が1075万円以上である事も条件となっているので覚えておきましょう。

ただし、高度プロフェッショナル制度は会社の一存で導入出来るシステムではありません。高度プロフェッショナル制度の導入には、労使委員会で対象労働者の範囲を決議して同意する必要があります。そのため、自社に労使委員会がない場合にはまず労使委員会を設置するところから始めなければなりません。

制度創設の目的

高度プロフェッショナル制度は「脱時間給制度」と呼ばれる事もあり、その目的は「労働時間」ではなく「成果」で評価される働き方を推進する事にあります。対象者の「労働時間」「休日」「深夜の割増賃金」などを適用除外とするのはそのためです。現代ビジネスシーンでは低賃金・長時間労働・過労死といったいわゆる「ブラック企業」の問題が顕在化し、こうした労働トラブルを改善するために働き方の見直しを推進する機運が高まりました。

こうした社会風潮の動きの中で表面的な労働時間を削減して作業量を据え置きにする企業もあり、かえって従業員に負担を強いているケースが多かったのです。従業員からは労働時間の削減だけではなく、「成果」と「働きやすさ」の両立を目指す多様な働き方が求められていました。高度プロフェッショナル制度ではこのような現状を踏まえた上で労働時間や働き方に対する考え方を柔軟にし、専門職に従事する人材が意欲・能力を十分発揮できるようにするという狙いもあります。

高度プロフェッショナル制度を導入するメリット

高度プロフェッショナル制度の導入には「生産性の向上」「管理負担の軽減」という2つの大きなメリットが期待出来ます。ここではそれぞれのメリットについて理解を深めていきましょう。

生産性の向上

従来の働き方では賃金発生の対象が「労働時間」なので、労働者がより多くのお金を稼ごうと考えた場合は「長時間働こう」というモチベーションが働きます。その結果、労働時間を削減する意欲が削がれるという側面がありました。労働時間によって賃金が決められてしまう以上、例え同じ成果を上げたとしても長時間労働の方が賃金が高く、短時間労働の方が賃金が低くなります。成果に対するコストという意味では、より短い時間で効率的に結果を出したにも関わらず賃金が低くなるという不公平な結果になっていたのです。

高度プロフェッショナル制度における賃金発生の対象は「成果」であり、所定外勤務や休日割増賃金など労働時間に対する評価という概念がありません。そのため、労働者からしてみれば理由もなく長時間働くメリットがないのです。高度プロフェッショナル制度において、労働者は効率的に仕事を進めれば賃金を減らさずに勤務時間を削減する事が出来るので生産性の向上が図れます。勤務時間や休日の使い方に幅が生まれるので、労働者が多様な働き方から自分にマッチしたスタイルを選ぶ事が可能なのです。

管理負担の軽減

高度プロフェッショナル制度の導入は、会社側・管理者側が労働者の働き方を管理するという手間を削減できる可能性もあります。例えば高度プロフェッショナル制度を導入せずに働き方改革を進めると、部下である従業員は残業時間削減や有給取得の目標を達成するといった努力をするでしょう。その一方で、働き方改革の実現度を確かめるために管理者は従業員の労働時間を厳しくチェックする必要性が出てきます。本来は業務の効率化や勤務時間の削減が目的であったハズの働き方改革によって、従業員・管理者双方に「管理」というタスクが増えるというジレンマがここにあるのです。

高度プロフェッショナル制度においては成果を上げる事が評価対象となるので、労働時間の裁量は基本的に労働者に委ねられています。管理者が関与する場合もありますが、それは労働時間が基準を下回ってしまう可能性があるケースに限られるのです。労働時間や休日といった概念を取り払う事により、このように労使双方の管理負担軽減に繋がる見込みがあります。

高度プロフェッショナル制度を導入する際の注意点

大きなメリットが期待出来る高度プロフェッショナル制度ですが、メリットばかりという訳でもありません。導入に際しては気をつけておくべきポイントがあります。例えば高度プロフェッショナル制度は「裁量労働制」とも呼ばれていますが、成果に対して報酬を支払えば労働者に任せっきりで良いという訳ではありません。労働時間の裁量が労働者に委ねられているという事は、労働者の意思で勤務時間を長くする事も可能である事も意味しています。そのため繁忙期・人手不足といった一時的な要因や、24時間体制で世界中の相場をチェックしている金融業界のように業務上の特性から長時間労働に歯止めが効かなくなるケースがあるのです。

長時間労働による人件費の上昇は起こりませんが、労働者の健康面は最低限管理しておく事が重要になります。そのためには「年間104日以上の休日確保」「勤務間インターバル制度」といった措置があるので、これらの基準は管理者側で責任を持って守る必要があるでしょう。従業員の過度な労働を回避するためには、「健康管理時間」(労働者が事業場内にいた時間と、事業場外で労働した時間)をタイムカードやパソコンの使用時間といった事から把握しておく必要もあります。

高度プロフェッショナル制度の導入方法

実際に高度プロフェッショナル制度を導入するにあたっては、まず労使委員会を設置して協議を行う事が必要です。労使委員会は組織の半数を労働者の代表委員から選出し、決議は委員のうち5分の4以上の多数決をもって採択されます。組織が結成されたら高度プロフェッショナル制度の対象とする業務や労働者の範囲、最低限の休日規定、対象労働者からの苦情処理措置など委員会で話し合うべき事項について決議を採りましょう。決議されたら書面にまとめて労働基準監督署長へ届け出を行います。ここまでの内容を明記した書類に対象労働者から同意を得る事が出来たら、はじめてその労働者を高度プロフェッショナル制度の下で業務に従事させる事が可能となるのです。

高度プロフェッショナル制度の導入前にメリットとリスクを理解しよう

高度プロフェッショナル制度は専門性の高い業務に従事する労働者が自由裁量で働ける仕組みであり、生産性の向上が期待出来ます。しかしその一方で労働者が自らを過度な長時間労働に導いてしまうというリスクを孕んでいるという点も忘れてはいけません。高度プロフェッショナル制度の導入を検討する際には自社の従業員がどのような働き方をしているかをしっかり把握した上で、労使双方が状況についてよく話し合う事が重要です。