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法定福利費の基礎知識や福利厚生費との違いとは?種類や見積書も解説

2019.10.07

法定福利費とは企業が従業員を支えるための費用であり、総務や人事の担当者はその中身を理解し、適切に運用する必要があります。法定福利費の内容について知りたい人は、まずは法定福利費の基本的な項目と企業と労働者の負担割合、運用方法について知ることが大切です。本記事では法定福利費の基本的な意味や、混同されやすい福利厚生費との違い、項目の代表的な種類を紹介し、新ルールとして加わった見積書についても解説します。

法定福利費とは?意味や福利厚生費との違い

まずは法定福利費の基本的な意味と、福利厚生費との違いを説明します。この二つは名称が似ているために混同されがちですが、違いをしっかりと理解しておきましょう。

法定福利費の意味

法定福利費とは、法令に基づいて企業が義務的に負担する社会保険料のことです。ここで出てくる社会保険の代表的な種類としては健康保険料、厚生年金保険、雇用保険、労災保険、介護保険などが挙げられます。これらの社会保険によって従業員は健康で安全な生活を維持することができ、企業は従業員のそうした生活を維持するために一定の負担をすることが義務付けられているのです。一定の規模以上の企業は法定福利費として従業員が支払う社会保険料の一部を負担することになっており、会社側の負担割合はあらかじめ定められています。

経理上の仕組みとしては、社会保険料のうち従業員が支払う分は給料から源泉徴収をし、会社が負担する分は「法定福利費」という勘定科目で処理することになっています。

福利厚生費との違い

では法定福利費と福利厚生費にはどのような違いがあるのでしょうか。実は法定福利費とは福利厚生費に含まれる概念です。そもそも福利厚生費とは、福利厚生を目的として全ての従業員に平等に支給される費用の総称のことです。福利厚生費と法定福利費を区別する場合、福利厚生費は福利厚生を目的とした費用全般を指すのに対して、法定福利費は法律で企業が負担するように定められた社会保険費のみを指すと覚えておけばわかりやすいでしょう。福利厚生費の中で法定福利費に含まれないものとして、住宅手当や家族手当、結婚・出産一時金などが挙げられます。

また、法定福利費と福利厚生費には経理上の違いもあります。まず法定福利費は、企業が負担する分が損金として計上され、従業員が負担する分は所得控除されます。一方で福利厚生費はその種類によって給与として扱われるか所得控除として扱われるかが異なります。これは福利厚生として提供されるものが税法上で福利厚生として扱われるか所得として扱われるか、明確に決められているわけでなく判断が分かれてしまうためです。

法定福利費の代表的な項目を種類別に解説

ここまでは法定福利費の基本的な概念について説明してきました。ここからは健康保険料や厚生年金保険料などの法定福利費の代表的な項目について順番に説明していきます。

健康保険料

健康保険とは、従業員やその家族のけがや病気、出産、死亡に対して治療費などが給付される制度のことです。病院の窓口での自己負担比率3割という文言は、この健康保険に関わることであり、保険診療の対象になる場合は保険証の提示により治療費やその一部を国や自治体が負担してくれます。日本は国民皆保険制度を採用しているため、全ての国民が健康保険に加入しています。また、よく似た名前のものとして国民健康保険がありますが、こちらは自営業者や農林水産業従事者などが対象のものです。

健康保険料は企業と従業員が折半して負担します。計算方法としては、労務費の約5%が負担額となる場合は給与が月額30万円の従業員であれば本人と企業が約1万5000円ずつ負担することになるという感じです。しかし負担金額は目安であり、都道府県や年収、企業ごとに異なるため注意が必要です。

厚生年金保険料

厚生年金保険は会社員が全員加入する保険制度であり、一定の年齢まで支払い続けることで支払った額に応じて老後に年金が支給されるというものです。国民年金が20歳以上60歳未満の国民全員が加入することになっている年金である一方で、厚生年金保険は国民年金に上乗せして給付されます。また厚生年金保険は老後の年金というだけではなく、病気やけがで障害を負った際に受け取れる障害年金や、本人が死亡した際に遺族が受け取ることができる遺族年金などから構成されています。

厚生年金保険料の支払いも健康保険料と同じように企業と従業員が折半して負担することになっています。

雇用保険料

雇用保険とは、いわゆる失業保険のことであり従業員の雇用の安定や促進を目的として作られた社会保険です。雇用保険に加入していれば万が一失業してしまった場合でも失業給付金や失業手当が支給されます。このため給与収入がなくなってしまった際にも生活が困窮しなくて済みますし、新しい仕事先を見つけるために動き出すことができます。また育児休業や介護休業などの場合でも各種手当が支給されます。企業は雇用保険加入の対象となる従業員を必ず雇用保険に加入させなくてはなりません。

雇用保険料の負担については、2019年度時点では従業員と企業の割合が1:2と定められています。ただし農林水産業など事業内容によっては負担比率が異なることがあるので注意する必要があります。

労災保険料

労災保険とは、従業員が業務中や通勤中にケガや傷害を負ったり、死亡してしまった場合に治療費などが支給される保険制度です。また労災保険と雇用保険は総称して労働保険とも呼ばれています。企業は労災保険に強制加入することになっており、また雇用形態を問わず全ての従業員を包括的に加入させる義務があります。保険料については従業員側の負担は無く、企業が全額を負担することになっているのが特徴です。

従業員は労災保険に関わるケガやなどがあった際に、一時金や年金といった形で給付を受けることができます。

介護保険料

介護保険とは、老化による疾病や体力の低下などの理由により介護サービスが必要となった際に給付金が受け取れる制度です。介護サービスの例としては訪問介護やデイサービス、ホームヘルパーによる定期巡回などが挙げられます。従業員は40歳になると強制加入となり、保険料は健康保険料に上乗せされる形で支払うことになります。このため負担についても健康保険料と同じように、従業員と企業で折半します。

法定福利費の見積書とは?

建設業を中心として工事費等の見積書を出す際、従来は法定福利費がまとめて記載されていることが多く金額の根拠が不明であったり、分かりづらいという状態が続いていました。そこで2017年に国土交通省から「法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順」が公表され、見積書に記載する法定福利費の算定方法や、内訳明示に関するルールが新設されました。

新ルールによれば、例えば建設業の場合なら必要な人工数と平均日額賃金をもとに労務費を算出し、算出した労務費から法定福利費を算定します。算定方法は労務費に社会保険料率をかけるというものです。雇用保険料以外の法定保険料率は、協会けんぽが公開する保険料率から確認することができます。保険料率は都道府県ごとに異なり、また年数回改定されるため見積書を作成するごとにこまめに確認しておくことが必要です。このようにして国は事業者に対し、労務費総額と法廷保険料率などから法定福利費を算出し、内訳が分かるような見積書を作成するように促しています。

法定福利費の仕組みを理解して適切に運用しよう

法定福利費は法律で決まっている企業による社会保険料の負担のことであり、健康保険や厚生年金保険などがその代表例でした。実際の運用では、今まで説明したよりもより細かな保険料率の計算方法や、内訳を明示するための見積書の作成方法なども知っておく必要があります。法定福利費は従業員を守るための大切な仕組みなので、適切かつスムーズに運用できるように制度をしっかりと理解しましょう。