オフィスのミカタとは
従業員の働きがい向上に務める皆様のための完全無料で使える
総務・人事・経理・管理部/バックオフィス業界専門メディア「オフィスのミカタ」

おさえておきたい!人事・労務の基礎知識Vo.7 給与明細の項目と計算式

2020.07.20

 法律により、企業には「給与明細書」の交付が義務付けられている。給与明細書にはどのような項目があり、それぞれの金額はどのように算定されているのだろうか。

 今回は、給与明細書の項目や算式、非課税対象となる手当などについて解説する。人事・労務の基礎知識として、しっかりと確認し身につけてほしい。

目次

●給与明細書の項目
●各項目の計算式
●非課税対象
●まとめ

給与明細書の項目

 給与明細書は、一般的に「勤怠」「支給」「控除」の3つの部分で構成されている。ここでは、各部分の項目と概要を紹介する。

勤怠
 勤怠部分では、以下のように給与計算期間中の労働日数と実際の出勤日数、種類別の休暇取得日数や、欠勤・遅刻・早退などの不就業日数・時間数、残業などの時間外労働時間数を表示する。

・労働日数
・出勤日数
・有給休暇日数
・慶弔休暇日数
・欠勤日数
・遅刻回数
・早退回数
・時間外労働時数

支給額
 支給額部分では、手当などの項目ごとに支給額を示す。全項目の合計額が「総支給額」で、社会保険料や税金が控除される前の支給額となる。それぞれの項目と概要は以下の通りで、企業によって手当の有無や内容が異なる。

・基本給:能力や勤続年数などに応じて支給される、基本となる給与
・役職手当:部長や課長など、役職に応じて支給される手当
・資格手当:特定の資格を有する場合に支給される手当
・住宅手当:住宅に要する費用に応じて支給される手当
・通勤手当:通勤に要する費用に応じて支給される手当
・残業手当:所定労働時間を超えて働いた場合に支給される手当
・深夜残業手当:.深夜残業を行った場合に支給される手当
・休日出勤手当:休日出勤を行った場合に支給される手当
・地域手当:都市部など物価の高い地域に勤務・居住する従業員に対して支給される手当
・皆勤手当:無欠勤・無遅刻・無早退の従業員に対して支給される手当

控除
 控除部分では、健康保険料や厚生年金保険料などの各社会保険料、所得税、住民税などの金額を表示する。社会保険料・所得税・住民税は、企業が従業員の負担分を給与から天引きし、社会保険事務所や税務署などに納付するのが一般的だ。その他に、生命保険料や積立金など、給与から控除するものの金額も控除欄で表示する。控除欄に表示する項目は、以下の通り。

・介護保険
・健康保険
・厚生年金
・雇用保険
・社会保険合計
・所得税
・住民税
・生命保険料
・積立金
・返済
・組合費
・控除計

非課税対象

 給与は原則として課税対象となるが、一定の要件を満たす項目については非課税とされている。ここでは、給与のうち非課税対象となる項目を紹介する。

通勤手当
 「通勤手当」は、一定の限度額以下であれば非課税となる。公共交通機関の利用の有無や片道の通勤距離によって限度額が異なることに注意しよう。

参考:国税庁「電車・バス通勤者の通勤手当」
参考:国税庁「マイカー・自転車通勤者の通勤手当」

旅費、海外渡航費
 従業員が出張などで旅行や海外渡航をした場合は、その職務を遂行するために通常必要であると認められる部分の金額に限り、非課税とされている。ただし、実質的な内容が給与と認められる場合には名目が旅費であっても給与として課税される。

宿日直料
 突発的な事態などで正規の勤務時間以外に宿泊をした場合、支払われる宿日直料は1回につき4,000円(食事が提供される場合には4,000円から食事代を差し引いた残額)までの部分については課税されないとされている。ただし、元々夜勤や警備のために雇用している従業員や、代休が与えられる従業員は対象外となっている。

その他
 既述の項目以外では、以下のものが非課税対象となる。

・見舞金、結婚・出産祝金品など
・災害補償金など
・死亡退職者の給与など
・学資金
・技術習得費

各項目の計算式

 給与明細では、各項目に計算式を適用して金額を算出する。ここでは、下の給与明細書を例に各項目の計算式を紹介する。

 

労働日数
 「労働日数」の欄には、従業員が働くべき所定労働日数(暦日から所定の休日を差し引いたもの)を記載する。労働日数は、実際に出勤した「出勤日数」と、「有給休暇」や「慶弔休暇」などの休暇日数を足して求める。

(所定)労働日数=出勤日数+休暇日数

上記の例の場合)所定労働日数=22日(出勤日数)+1日(有給休暇日数)=23日

時間外手当
 「時間外手当」は、「時間外算定基礎金額」に「割増率」と「時間外労働時間」を乗じて算出する。

 「時間外算定基礎金額」は、労働1時間あたりの給与(時間単価)を指し、「月給(基本給+固定額の手当)÷(1日の所定労働時間×1カ月の勤務日数)」で求める。時間外労働の「割増率」は労働基準法によって最低基準が定められており、「時間外労働は25%以上、法定休日労働は35%以上、1カ月について60時間を超えた時間外労働は50%以上、深夜労働は25%以上」となっている。「割増率」は企業によって異なるため、自社の給与規程などを確認しよう。

時間外手当=時間外算定基礎金額×割増率×時間外労働時間
例)月給241,000円で1日の所定労働時間が8時間、23日間の勤務で1カ月に36時間の時間外労働を行った場合(深夜残業を含まない)

時間外算定基礎金額=241,000円(基本給+固定額の手当)÷(8時間×23日)=1,309円

時間外手当=1,309円(時間外算定基礎金額)×1.25(割増率)×36時間(残業時間)=58,940円

参考:厚生労働省「割増賃金の基礎となる賃金とは?」

総支給額
 「総支給額」は、「基本給」に「役職手当」や「通勤手当」などの諸手当を全て足した合計額を指す。

総支給額=基本給+手当

上記の例の場合)総支給額=20,5000円(基本給)+99,440円(諸手当合計)=304,440円

介護保険、健康保険、厚生年金保険の保険料
 健康保険や厚生年金保険などの社会保険料は、「標準報酬月額」(4~6月の総支給額の1カ月あたりの平均額)に、都道府県ごとに定められている「保険料率」を乗じて求められる。賞与の場合は、「標準賞与」(賞与の1,000円未満を切り捨て)に「保険料率」を乗じて算出する。介護保険料は40~64歳の従業員から徴収される。
 ただし実際には、「標準報酬月額」を「保険料額表」にあてはめて算出するのが一般的だ。

社会保険料(労働者負担分)=標準報酬月額×保険料率 または 標準報酬月額を保険料率にあてはめて算出

参考:全国健康保険教会「令和2年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます」

参考:全国健康保険協会「令和2年度保険料額表(令和2年4月~)」


雇用保険料
 「雇用保険」の労働者負担分は、毎月の給与または賞与の「総支給額」に国が定める「雇用保険料率」を乗じて算出し、1円未満の端数が出る場合、50銭未満は切り捨て、50銭以上は切り上げとなる。ただし、労使協定で任意の桁の端数切り捨てなどの特約がある場合はそれに従う。
 雇用保険料率は事業の種類や年度によって変わることがあるので注意しよう。

雇用保険(労働者負担分)=総支給額×雇用保険料率

上記の例の場合)雇用保険=304,440円(総支給額)×0.003(雇用保険料率)=913円

参考:厚生労働省「令和2年度の雇用保険料率について」


社会保険合計
 社会保険料の合計は、各保険料の合計で求めることができる。

社会保険合計=介護保険+健康保険+厚生年金+雇用保険

上記の例の場合)社会保険合計=2,595円(介護保険)+14,850円(健康保険)+27,450円(厚生年金)+913円(雇用保険)=45,808円

課税対象額
 所得税を求める対象となる「課税対象額」は、総支給額から非課税分の「通勤手当」と「社会保険合計」を差し引いて算出する。

課税対象額=総支給額-通勤手当-社会保険合計

上記の例の場合)課税対象額=304,440円(総支給額)-4,500円(通勤手当)-45,808円(社会保険合計)=254,132円

所得税
 「所得税」は、「課税対象額」を「源泉徴収税額表」あてはめて求める。企業が月々の給与や賞与から暫定的な金額を徴収(源泉徴収)し、年末に「年末調整」を行って差額を調整するのが一般的だ。

所得税=課税対象額を源泉徴収税額表にあてはめて算出

上記の例の場合)所得税=254,132円(課税対象額)をもとに、「源泉徴収税額表」で「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」が「251,000円以上254,000未満」の行の、「扶養親族等の数」が「1人」の欄を参照=5,140円

参考:国税庁「給与所得の源泉徴収税額表(令和2年分)」

住民税
 「住民税」は、「所得割額」と「均等割額」を合算した総額となり、前年の年収に基づいて算出される。一般的に、企業に雇用される従業員の住民税は、特別徴収として、従業員個人に代わって企業が自治体に納める。住民税の納付額は「市民税・県民税 特別徴収税額通知書」によって毎年5月に通知され、企業は6月から翌年5月にかけて従業員の毎月の給与から天引きする。

住民税=①+②
①前年の年収‐給与所得控除=給与所得
 給与所得‐各種所得控除=課税所得(課税標準額)
 課税所得×税率(※)=所得割
 所得割‐調整控除=所得割額
②自治体によって定められている均等割額

(※)税率は自治体毎に異なる

控除計
 「控除計」は、「社会保険合計」「所得税」「住民税」と、「生命保険料」などの項目全ての合計を指す。

控除計=社会保険合計+所得税+住民税+生命保険料などの控除項目

上記の例の場合)控除計=45,808円(社会保険合計)+5,140円(所得税)+7,500円(住民税)+10,000円(生命保険料)+10,000円(積立金)+2,000円(労働組合費)=80,448円

差引支給額
 「総支給額」から「控除計」の額を引いたものが「差引支給額」だ。いわゆる「手取り額」と呼ばれる、その月分の給与として支給される金額となる。

差引支給額=総支給額-控除計額

上記の例の場合)差引支給額=304,440円(総支給額)-80,448円(控除計)=223,992円

まとめ

 給与明細書の各項目の概要と、金額の算出方法を紹介した。年度や都道府県、前年の収入などで変動する項目もあるので、給与明細書をしっかりと確認し、どのような計算を行うのか理解しておこう。

<PR>