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DX推進が高齢労働者の壁に 現場負担を減らすデジタルアクセシビリティとは【SmartHR勉強会レポート】

2026.04.23
奥山晶子

労働力不足が深刻化する中、65歳以上の就業者は今や働く人の7人に1人を占める。2026年4月施行の改正労働安全衛生法では、高齢労働者の特性に配慮した作業環境の整備が事業者の努力義務となり、対応は待ったなしだ。しかし現場では、職場のDX推進が新たな壁を生んでいる。デジタルツールに不慣れな高齢労働者へのフォローが、現場の過度な負担となっているのだ。本稿では、SmartHRが開催した勉強会をもとに、世界的な動向と実効性ある解決策を探る。

高齢労働者が直面するデジタル上の「3つの壁」

勉強会ではSmartHR アクセシビリティスペシャリストの坂巻舞羽氏が登壇し、まずは現場でなぜ高齢労働者がデジタルツールにつまずくのか、3つの要因を整理した。

①視力・視覚の壁
老眼や視力低下により文字の見落としや誤読、眼精疲労が起こりやすい
②指先の動きの壁
指先の巧緻性や制御力が低下し、細かい作業が難しい
③認知・記憶の壁
短期記憶や認知能力の低下により多機能な機器の操作や長文読解が難しい。カタカナ語など新用語に対する心理的な拒絶がある

坂巻氏は「高齢労働者がデジタル操作に窮する際、周囲のサポートやマニュアル整備が必要となり、効率化のためのDXが、本人・周囲・組織全体の負担(リスク)になってしまう側面があります」と指摘し、高齢者はもとより、障がい者や外国人などにとってもデジタル情報を利用しやすくする「デジタルアクセシビリティ」の必要性を強調した。

世界基準になりつつある「デジタルアクセシビリティ」

次に坂巻氏は海外の動向を紹介し、デジタルアクセシビリティが日本企業もいずれ対応を迫られるテーマであることを示唆した。

例えばヨーロッパの動向としては、「欧州アクセシビリティ法」が2025年から企業にも義務化された。その他にも、高齢者向けのデジタルスキル習得の支援や誰もが使えるサービス環境の整備も政策として進んでいる。中国や韓国では、公共サービスやデジタル製品を中心に高齢者対応を義務付ける制度が整備されてきた。

日本においては、「みんなの公共サイト運用ガイドライン」などのガイドラインは存在するが、強制力は薄い。現状は、携帯キャリアが高齢者向けのスマートフォンを開発したり、コンビニがアルバイトの外国人なども使いやすい会計用のPOS端末を改良したりなど、民間企業の自主的な取り組みが先行している状態だ。

サポートコストを減らすシステム設計の工夫

SmartHRでは、サービスのビジョンに「ワーカーフレンドリー」を掲げ、働く人々が使いやすいサービスを目指している。最近では「総務省 情報アクセシビリティ好事例2025」に、SmartHRの「勤怠管理」機能が選定された。SmartHRのアクセシビリティへの取り組みを先進的なケーススタディとして、高齢労働者のサポートによるコストを減らすシステム設計思想や、具体的なUI/UXのノウハウについて解説したい。

●脱・属人的サポート:「優しさ」ではなく「仕組み」で解決する
困っている高齢者を都度人間が教えるのは、教える側にも大きなコストがかかる。「一人で完結できるシステム設計」こそが業務効率化の鍵である。

●当事者を交えたデザイン検証
UI/UXの面では、実際に視力の低いメンバーを交えてUIをテストするなど、極端な条件下でも操作が完了できるコントラストやボタン配置を追求することが重要である。

●「やさしい日本語」を意識する
雇用契約やマニュアルにおいて、難しい言葉や専門用語を平易で短い言葉に言い換える。画数が多く視認性の低い漢字を避け、カタカナ語を減らし、文章量を削減する。

ボタンにより「やさしい日本語」に切り替え可能な機能

坂巻氏は高齢労働者のDX推進における一番の課題として「使うのが怖い」といった心理面を挙げた。そのためには文字サイズ等の表面的な対応だけでなく、専用モードのようなUI設計やAIチャットボットの活用が有効だが、この場合も機械への不信感をどう取り払うかが鍵となる。

「『やはり人間とやりとりしないと安心できない』という心理的な壁が根強く、単なる画面設計だけでは解決できない課題があると考えています」と、今後の改善点を語った。

AIは高齢労働者のデジタル格差を救うか

勉強会後半の質疑応答では、「最近、AIは使いやすく、優秀になっていると感じる。高齢労働者のDX推進におけるAI活用について、もう少し教えてほしい」という質問がなされた。

これについては「プライベートでAIを楽しむ高齢者がいる一方、責任を伴う業務でAIを使うことには、まだ不信感や抵抗感が根強いと感じています。また、契約や年末調整など、高い正確性が求められる手続きにおいては、AIの推測だけで完結させるのは現状リスクがあり、最終的な人間のチェックが残ることが課題です」と回答した。AIに業務を任せても、結局、最後は社員によるチェックが必要となる。この負担を軽減するためには、AIの進化に期待するしかないというのが、現状の正直なところだ。

高齢労働者の増加により、企業にはデジタル環境の整備が間違いなく求められるようになる。これからの時代、システム導入時には「ITリテラシーに関わらず、誰ひとり取り残さず操作できるか」という視点が、結果的に企業全体の生産性を左右するだろう。