気温35℃の夏日は路面温度60℃にも 熱中症対策の新たな一手「プレクーリング」で深部体温の低下へ
2023年5月1日から9月30日まで厚生労働省により「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」が実施されている。今回キャンペーンの中でも注目されているのが深部体温を下げるプレクーリングのひとつ、アイススラリーだ。アイススラリーの導入事例のほか、安全・衛生管理担当者が今一度確認しておきたい熱中症予防について紹介する。
安全・衛生管理担当者が確認しておきたい、熱中症対策
日々、厳しい暑さが続いている。気象庁によると2023年8月は平年より高い地域が半数以上を占めており、今後も警戒が必要だ(※1)。
厚生労働省が公開している「職場でおこる熱中症」によれば、2022年の職場における熱中症の発生状況は死亡者数は28人、約800人が熱中症により仕事を休んでいるという。また2018年~2022年の合計業種別の死傷者数を見ると「建設業(21.0%)」「製造業(19.3%)」「運送業(13.9%)」が半数以上を占めており、特に該当するバックオフィス担当者は職場の熱中症対策が急務といえる(※2)。
多くの事例で熱中症予防が充分にできていなかったことから、厚生労働省は2023年5月1日から9月30日まで「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」の実施を発表(※3)。職場における熱中症予防対策の徹底と労働衛生教育を行うこと、衛生管理者などを中心に事業場としての管理体制を整え、発症時・緊急時の措置を確認し、周知することが目的だ。
熱中症対策として、作業場所における暑さ指数(WBGT)を熱中症予防サイトにて確認するか、暑さ指数をWBGT指数計で測定し、WBGTに応じた十分な休憩時間の確保や基準値を大きく超える場合は作業中止など、作業計画を策定する必要がある(※4)。
他にもWBGTに応じてミストシャワーなどの設備設置の検討、管理者や労働者に対する熱中症予防情報の教育や労働衛生管理体制の確立などがあるため、自社の体制を改めて確認しておきたい。
※1出典元:夏の天候の見通し 全国 (06月~08月)
※2出典元:職場でおこる熱中症(8月)
※3出典元:令和5年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施します
※4出典元:暑さ指数(WBGT)について
あらゆる職場で実践可能なアイススラリー
熱中症対策として推奨されているのが、活動前に深部体温を下げる「プレクーリング」。プレクーリングで深部体温を低下させておくことで、活動中の体温の貯熱量を大きくする狙いがある。プレクーリングの方法として、あらゆる職場で実践でき、かつ深部体温の冷却効率に優れているのが「アイススラリー」。
アイススラリーとは、微細な氷と液体が混じりあった飲料。流動性が高く、喉から腸へ貼りつきながら体内を流れるため液体よりも効果的に深部体温を冷却できる。また持ち運びも手軽なことから簡易性と実用性にも優れているのがメリットだ。今回厚生労働省が発表した「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」にもアイススラリーの摂取などプレクーリングを検討するよう記されている。
また防火服を着て活動する健康な消防士を対象に、活動前のアイススラリーを摂取した場合の身体への影響を調査した資料によると、体温が約0.4℃下がり、38℃に達するまでの時間を延長できることがわかっている。また発汗量も抑えられるため脱水の予防にも有効だという。
熱中症予防と作業効率化に アイススラリーの導入事例
2023年4月から大塚製薬とヤマト運輸は、大勢の方が働く現場へ大量に「アイススラリー」を届けられる配送システム「クールBOX チャーター便」を開始している。今までの「クール宅配便」だと1箱(36袋)単位での配送だったが、「クールBOX チャーター便」では10箱(360袋)、最大48箱(1728袋)まで配送可能だ。
アイススラリーの導入事例としては、ヤマト運輸が2020年7月よりセールスドライバーの車載冷凍庫(約40000台)に「アイススラリー」を完備し摂取できる環境を整えている。また、道路工事を行う大林道路四国支店でも「アイススラリー」は導入が進んでおり、熱中症予防だけでなく作業効率化にもつながっていることからグループ全体でアイススラリーの実践が始まっているようだ。
屋外労働者だけでなく、地球温暖化による異常気象で屋内労働者も熱中症になるリスクは高まっている。プレクーリングの実践や制度見直しなど熱中症予防を万全にしておくことは、従業員の健康を守るだけでなく事業推進の大きな一手となり得るだろう。