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【第7回】いまさら聞けない総務のあれこれ!?シリーズ~「ファシリティコストと経営インパクト」~

 新型コロナの影響で今後中長期において働く場、オフィスやファシリティに対するニーズも大きく変わろうとしています。リモートワークの浸透と個々の働き方の変化を受けて、まずは本社オフィスのリアルスペースについて再考がテーマとなっており、国内においても「本社スペース50%削減」などをベースに、オフィスのあり方や機能、デザイン、社員への働き方推奨、ジョブ型職務と評価システムの積極導入とそのトレーニングなどの大幅な改革を表明する企業も増えてきました。おそらく、改革の動きが早い企業と遅い企業では大きなビジネスの差が出るのは自明でしょう。それこそがポストコロナ経済競争と呼べるかもしれません。
そのようなトレンドの中で、さて総務部としてそのサイフ(総務サイフ)として大きな部分を占める「ファシリティコスト」を今一度財務的な観点できちんと理解しておく必要があります。財務的という意味は、第三回でもご紹介しましたとおり経営視点で「財務3表をベースに数字を表現する」ということを意味します。経費の世界だけで数字を語っていては総務は所詮オペレーション(日常運営)のレベルにとどまってしまいます。「戦略総務」を目指す上では財務的な観点で数字を理解しておいた上で社内提案や稟議に臨む必要があります。

 ファシリティコストに関してはJFMA(日本ファシリティマネジメント協会)の発刊する公式ガイドーファシリティマネジメントによるFMコストの詳細区分が参考になります。(図1)

 また図2にその一般的な割合をベンチマークとして示します。ビジネスの分野(製造業、小売、金融、サービス業など)によりもちろん違ってきますが概して一番大きなコストは「不動産コスト」となりベンチマーク的には50%を占めます。その他のコストは光熱費や清掃、メンテナンス、社員サービス関連のいわゆるオフィスサービスコスト、修繕や改修、セキュリティなどに分類されます。

 一人頭の数字に置き換えるとファシリティコストは、一人年間100万円〜150万円くらいかかります。(図2)その半分、つまり50万円〜75万円くらいが不動産コストとなり、大半の企業ではこれは「オフィス賃貸コスト」となります。本社ビルを建設し固定資産化(バランスシートへ乗せる)しているケースは、この部分は「減価償却費」として毎年PL(損益計算書)にて処理するコストとして計上します。本社ビルが相当古く償却もだいぶ終わっているケースはこの不動産コストの割合%は下がるということです。その分、維持費、修繕費が増えます。およそこの程度の基礎知識があればマネージ(総務財布のやりくり)できる土台はできます。

 総務部としてはこのようなファシリティコストを年間ベースで適正なレベルで予実管理するのがその重要な職務の一つでもあります。

 さて、ここまでがまずは基本的なファシリティコストの理解です。その理解の上で、「with/After コロナの新時代」に向けて、このコストバランスがどのように変わろうとしているのか、ということを具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。

 イメージしやすいように、下記の条件ケースをセットします。

本社人員  :1000人
オフィス賃貸面積 :10,000m2 (約3000坪)
一人頭の面積 :10m2(賃貸契約の全体エリアで)
座席 :固定席がベース

 これは昭和から平成にかけた一般的ないわゆる「バックオフィス」(工場や営業現場を除いた管理オフィス、または本社オフィスなど)のケースですが。(未だそのようなスタンダードのオフィスもまだ多いです)

 ベンチマークからのこのケースのファシリティコストは、

1000人x 150万円=15億円 / 年

ということになり、そのうちのオフィス賃貸コスト想定は、

15億円 x 50% = 7.5億円 / 年 となります。

 これを坪単価から逆算して計算すると、オフィスの場所を例えば品川近辺で少し駅から離れた場所、坪単価=2万円くらいを想像して、

2万円/坪 x 3,000坪x 12ヶ月= 7.2億円 / 年 

となり、ベンチマークからの数字と積み上げの数字がだいたい合うのを確認できますね。もちろん坪単価が1万円のところですと単純にこの数字は半分になります。それでも年間コストとしては非常に大きな数字です。

 ここまで数字のイメージをつかんだ上で、冒頭の昨今のアフターコロナへのトレンド〜「オフィスを50%削減する」を数字で計算するには、まず一人あたりのオフィス面積が半分になるということを意味します。

本社人員  :1000人
オフィス賃貸面積 :5,000m2 (約1500坪)
一人頭の面積 :5m2(賃貸契約の全体エリアで)
座席 :??

 さてもうお分かりの通り、このケースでは座席はもちろん「固定」では無理です。大半のケースは在宅やシェアオフィスを中心にしたテレワーキング制度をセットで立ち上げ、オフィスに来る人数を制限コントロールしながら、一方で人事制度を変革し「ジョブ型評価システムを導入」するという一手を取す企業も増えくるでしょう。

 ロジック的にはそのような戦略となりますが、ここで肝心なのは50%になった本社の5000m2にどのような「機能」を置くか(社員が期待するか)を明確にしておくことです。それ無しにただ面積を半分にして、何となくフリーアドレスゾーンやコラボゾーンを創り「会社に来た時には自由にお使いください」的なルール(ぜんぜん機能するルールではない!)をユーザーに押し付けるパターンだと過去の例からみても大半は失敗するでしょう。(混乱、生産性低下、もとに戻る。。)

 先がどうなるかわからない未曾有のオフィス戦略を今後総務部は他部門やユーザー事業部門と連携して策定していかなければなりません。急いで外部セミナーへ参加し知識を得る必要は当然ありますが、ただ他社の真似をするだけではうまくいきません。
このような時こそ、過去の同様の試みや失敗経験、成功体験などを参考に、まずは自分たちを見つめる(経営ビジョン、戦略、DNAなど再確認)ことで自分達らしい答えが自ずと見つかります。

総務はピンチをチャンスに変える新たな提案をせよ

 オフィスコストを削減したとしても社員がバラバラになっては本末転倒です。それを回避するには例えば一つの提案ですが、相当の「正しい投資」を新たに実行することではないでしょうか。具体的には「福利厚生関連サービスの充実」や「ワークプレースデザインの変更」、「ITツールの充実」などが挙げられますが、これらをバックオフィスの予算全体を抱き合わせた総合戦略とプロジェクト立ち上げによって、社員のモチベーションUPと快適なワークライフが実現可能となるはずです。これは総務が下げたコストを人事部やIT部門へ振り分けることで実現します。
 
 一方でこれをコストだけでなく財務的な観点でみると、バランスシートとP/Lコントロールすることで結果的にROA(総資本利益率)が向上する土台ができます。具体的には新国際会計基準IFRSにより、2019年から3年間の間に企業は「オペレーティングリース」の資産計上の選択を余儀なくされるのが一つの環境要因でしょうか。つまりこの変化は、例えば5年定期借家契約のオフィスコスト(前述の例だと5年間で35億円程度)を資産計(B/Sへ載せる)する必要がある、ということです。これはROA%へ大きくインパクトあり企業として頭が痛いところです。新型コロナをきっかけとした一つの打開策として今回の多くの企業のオフィスコストの見直し機運は、働き方の改革とともに上手く機能すれば、まさに財務的な観点では「ピンチをチャンスに変える」という要素も含みます。そのことに気づいて戦略的なアクションを取れる企業がより競争有利に立つでしょう。では戦略的にどのようなゴールを持つことが重要でしょうか。

ゴールは社員のエンゲージメントと生産性向上

 賃貸オフィスやスペース再配置およびそのコストの削減は目的ではなく、あくまで手段であることを忘れてはいけません。ただの削減だけではコロナ生活で疲弊してオフィスに戻ってきた社員のモチベーションがさらに下がってしまいますし、そもそも会社への信頼感など持てなくなってしまいます。退職する優秀人材も増えかねません。

 新型コロナによる被害は大きいものの、その一方で諸々の働き方の変化や人々の考え方のパラダイムシフトによって、結果的にこの「新しい、ポジティブな目標設定」ができるチャンスを与えられたのも事実です。真の目的(ゴール)である、社員のエンゲージメントとパフォーマンスの向上に向けて、総務はまさに今こそ経営へのインパクトと影響力を出すチャレンジ提案すべき好機だと考えます。

次号〜
第7回「いまさら聞けないオフィス内公私融合サービス提案〜」へ続きます