望まない介護離職を防ぐために人事部・管理職が知っておくべき新常識
家族の介護のために仕事を辞める人が年間10万人にものぼります。これは2000年代初頭から横ばいの数字です。政府は2015年に「介護離職ゼロ」を掲げ様々な施策を講じているものの抜本的な解決に至っていません。
一方、離職者は企業の中核を担う40代以上が多く、有能な人材を失うことは企業にとっても大きな損失といえるでしょう。今回から介護離職を防ぐために管理職が知っておくべき新常識として、その現状と対策について連載でお届けします。
介護離職の現状を知る|人生100年時代の到来
「親の介護なんてまだ先のこと」そんな風に親の将来について漠然と考えているビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。そう思うのも無理はありません。“アクティブシニア”という言葉が登場して久しくなりましたが、現在のシニア層の健康意識は高く、食生活や運動習慣に関心をもつ方が増えました。日中にスポーツジムへ行くとシニア世代の利用者も多く健康意識の高さが伺えます。時間とお金にも余裕ができ、昔に比べて元気な高齢者が増えたことは間違いないでしょう。平均寿命も毎年更新しており、人生100年時代もいよいよ現実味を帯びてきたのです。
介護者の約6割が仕事をしながら介護をしている
元気なシニア層が増える一方で、年間10万人もの人が家族の介護を理由に離職しているという事実をご存知でしょうか。総務省が5年おきに行っている「就業構造基本調査」では、直近2017年の調査において「介護・看護のため」に離職した人は9万9千人にものぼります。さらに介護をしている人の数は約628万人。そのうち仕事をしている人は346万人 と、約6割もの人が仕事をしながら介護をしているということがわかります。
また、離職者の年代別内訳では男女ともに50代以上が大半を占めているものの、20代~30代の若年層も含まれており、これは現役世代にとって決して他人事ではないのです。
生産年齢人口の減少という社会課題を抱え、コロナ禍の採用活動も思うように進まず、追い打ちをかけるような離職者の増加は企業に深刻な影響を与えます。また、離職者自身も年齢や仕事のブランクが再就職のハードルとなっている現実があります。こうした望まない介護離職をする人が増えているなかで、部下をもつ管理職はどのように対応すればよいのでしょうか。次の項ではその考え方について解説します。
実践編|上司がかけるべき最初の言葉
介護相談を受けた管理職が最初にすべきことは、その社員の置かれた状況を正しく理解することです。予期せぬ親の介護で当人も焦りや不安でいっぱいのことでしょう。介護はいつまで続くのか、仕事は続けられるのか、お金はどれくらい必要なのか、誰に相談すべきなのか...。そんな焦燥感を抱える部下にかけるべき最初の言葉は「それは本当に大変だね。決してムリだけはしないでほしい。どうすれば親御さんの介護と仕事を両立できるか一緒に考えよう。私も最大限協力するよ。」と、まずは部下の心情に寄り添い安心させることが先決です。
●「介護=離職」ではない
そのうえで離職しない方法を模索します。そもそも介護離職する理由は親の介護に専念するためですが、一日中付きっ切りで介護が必要な状態というのは稀なこと。要介護レベルにもよりますが、多くは起き上がり・着替え・食事・入浴・排せつなどの部分的な介助が多くを占めています。例えば、一日に訪問介護サービスを複数回利用することで生活している独居の要介護高齢者もいらっしゃいます。状況にもよりますが、介護保険サービスを適切に利用することで、仕事と介護の両立も可能であるということを覚えておきましょう。
仕事を休ませる|介護休暇と介護休業の活用
「介護休暇」や「介護休業」という名称を耳にする機会が増えたと思います。どちらも介護が必要な家族のために取得できる制度のこと。しかし、それぞれ意味合いが異なるので正しく理解しておきましょう。
●介護休暇
家族に介護が必要となった際に年次有給休暇とは別に取得できる休暇のこと。対象家族一人当たり年間5日、時間単位で取得することもできます。
●介護休業
対象家族一人当たり通算93日まで、計三回に分けて取得することができます。雇用主からハローワークへ申請が必要で、一定の条件を満たすことで休業中の介護休業給付金が支給されます。
こうした休暇制度を用いて、まずは部下に休みを取ることを推奨します。ただし、休暇中に行うべきは介護そのものに専念することではなく、あくまで介護の体制を整えること。例えば介護保険サービスを利用するにはいくつもの行政手続きが必要です。仕事をしながら平日の役所に相談することは難しいため介護休暇を活用します。
平均介護年数は約4年以上!「介護は介護のプロに」が鉄則
成長と共に手を離れていく育児とは対照的に、介護は終わりが見えず、長引くほど介護者の負担が増加していきます。平成30年度に生命保険文化センター が介護経験者に行った調査によると、平均介護期間は4年7カ月という結果になりました。しかしこの数値はあくまで平均であり、「10年以上続いた」という人も14.5%存在しています。
数年に及ぶ可能性のある介護を、家族だけでみることは現実的に不可能です。そのため介護はプロに任せることが介護離職防止の鉄則といえます。
この介護保険サービスは「在宅介護サービス」と「施設介護サービス」に分けられます。在宅介護サービスは訪問介護のようにヘルパーを要介護者の自宅へ派遣し介護サービスを提供します。
また、デイサービスのように通いでサービスを受けたりすることで介護負担の一部を解消することができます。施設介護サービスでは、家族を介護施設に預けることで介護負担のほぼすべてを解消することができます。この場合、在宅介護サービスと比べて費用は割高になりますが、安心して仕事にも集中できるでしょう。
介護が始まる前に相談先を調べておく
いつ始まるか分からない介護ですが、備えることでスムーズに対処できる場合もあります。まずは相談先を調べておくこと。初めて介護に直面する子世代は何から始めればよいかわかりません。介護と仕事との両立は?介護保険サービスはどう使う?施設入居を検討すべき?こうした疑問に対し、適切な助言をしてくれる頼れる相談機関が「地域包括支援センター」です。
ここは地域住民の「介護予防」を主業務の一つとしており、介護が始まる前から相談することもできます。インターネットで「〇〇市(地域名) 地域包括」というように探したい地域名を入れて検索すると最寄りのセンターの名称が出てきます。介護に関する総合相談窓口としてぜひ覚えておきましょう。
次回は「介護休暇・介護休業ですべき行政手続き」について解説します。