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~介護と仕事の両立支援~ 「離れて暮らす高齢の親との付き合い方」実家をデジタル化するメリット

2021.02.09

 新型コロナウイルス一色だった2020年は“オンライン元年”でもありました。仕事もテレワーク化が進み、学校教育、イベントやセミナー、飲み会などのあらゆる場面でオンライン化が普及しました。また、政府も、お盆やお正月に帰省しないで「オンライン帰省」を推奨する事態にもなりました。子どもや孫の帰省を楽しみにしている親世代も多いと思いますが、この一年、思うように帰省できない状態が続いています。
 そんな状況を踏まえ「オンライン帰省」をやってみよう!と思った人も多いのではないでしょうか、しかし、親がガラケーを使っている、実家にWi-Fi環境がない、親が興味を示さないと、家庭によって温度差があったのも事実。定期的に帰省できないいま、離れて暮らす親の健康状態が心配な方もいるでしょう。外出自粛で運動不足になると認知症の発症リスクが高まるとも言われています。私たちはこの課題にどう向き合うべきでしょうか。
 その突破口となるのが進化の著しいデジタル機器を使った「実家のデジタル化」なのです。そこで今回から3回に渡って、実家のデジタル化について導入の工夫や、最新のIoT機器などを紹介していきます。

デジタル化で親の”変化”に気付く

 初回は「リモート時代の親との付き合い方」と題して、ビデオ通話で親を見守る方法とデジタル化のメリットについてお伝えします。

 私がデジタル化を推奨する一番の理由は「親の変化」に早く気付いてほしいからです。
 なぜ変化に気付く必要があるのか。それは体調不良や認知機能の低下など心身の変化に早く気が付くことで、状態の悪化や重大な事故を防ぐことにつながるからです。

 私は介護施設の入居アドバイザーとして1,500名以上の入居相談に乗ってきました。相談のはじめに「施設入居を考えたきっかけ」についてうかがいます。すると、次のような回答が非常に多かったのです。

「実家に帰るとゴミだらけで足の踏み場もなかった。親は几帳面な性格だったのに…」
「久しぶりに帰省したら冷蔵庫に賞味期限切れの食材が大量にあった」
「人付き合いが激減した。自治会の集まりにも一切顔を出さなくなった」
「郵便ポストがいっぱいでご近所から通報があった」
「外出先から帰ってこれず警察に保護された。1度や2度ではない」

 これはほんの一例です。もちろん、こうした出来事だけで原因がすべて認知症であると結論づけることはできません。しかし、認知症の症状として同様の報告は多く、無関係ともいえないでしょう。また、認知症をもつ人の行方不明者数は年間約1万7,000人(※1)にものぼり、この数字は現在も増加傾向にあります。

うちの親はまだ大丈夫。本当にそう言い切れる?

うちの親はまだ大丈夫。本当にそう言い切れる?

 「そうはいっても、うちの親はまだ元気だし。見守りなんてまだ早い。」
私も団塊の世代ど真ん中の親がいるので、そう思いたい気持ちは分かります。
 しかし、本当に大丈夫だと言い切れるのでしょうか?

 認知症は主に加齢が原因で発症し、通常の生活を送ることが困難になる状態をさします。80代以上が最も多いため、「高齢者の病気」と認識する方が多いのですが、65歳未満の「若年性認知症」の人も全国で3万人以上(※2)となり、決して他人事ではないのです。

 現在、認知症の症状を劇的に改善させる薬や、根治させる薬はありません。しかし症状の進行を遅らせる薬はあります。薬以外にも、進行を緩やかにする専門的な認知症ケアが全国の介護現場で実践されているのです。

 親の変化に早く気付き、適切な医療と介護につなげることは、親のQOL(生活の質)向上へとつながります。

※1 警視庁「令和元年における行方不明者の状況」(P5)

※2 東京都健康長寿医療センター「若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システム」(P6)

「実家のデジタル化」の第一歩「ビデオ通話」でわかる親のきもち

 親の見守り法として最初におすすめしたいのがビデオ通話です。現在、多くの職場でZoomなどのビデオ通話を導入していますよね。チャットや電話と比べて情報量が違います。みなさんも相手の表情を見ながら会話することで感情も伝えやすく、スムーズなコミュニケーションを実感していると思います。

 親を見守る場合も同じで、何よりも「顔が見える安心感」があります。親の元気そうな様子を見ただけで何だかホッとしますよね。もちろん電話でも親の声を聞いて、ある程度様子をうかがい知ることはできます。

 それに加えてビデオ通話は、その表情から「喜び、不安、怒り、悲しみ」といった感情をよみとることができます。電話だと、本当は体調悪いけど心配かけたくないから「うん、元気にしてるよ」と言ってしまうときってありますよね。

 ビデオ通話では、そういった声に出さない微表情をよみとることで「いつもより元気ないけど何かあったの?」と聞き本音を探ってみることもできます。

生活の様子をみて病気のサインを見逃さない

生活の様子をみて病気のサインを見逃さない

 ビデオ通話は、家の様子や暮らしぶりもわかるので親の変化にも気付きやすくなります。

例えば、
・几帳面な性格だった親の部屋が散らかっている。
・料理好きだった親の食事内容が質素なものになっている。
・身だしなみに無頓着になった。昼になっても寝巻のままでいる、など

 これらはからだの不調や病気のサインかもしれません。コロナ禍で自宅にこもる時間が増えたことで運動量や栄養などが不足し、「フレイル(虚弱:要介護一歩手前の状態)」になる高齢者が増加しています。こうしたサインに気付き、早めに手を打つことでフレイルや要介護状態を回避することができます。

 ビデオ通話は、スマホやタブレットがあればLINEなどのアプリですぐに始められます。ぜひ導入を検討してみてください。

アナログな親をデジタル化させる3つのキーワード「寄り添う・低コスト・便利」

 「実家のデジタル化をしたいのはやまやまだけど、親の重い腰が上がらない」。きっとそういった家庭も多いと思います。誰しも加齢とともに面倒なことは避けるようになるもの。特に生活に困ってなければなおさらです。

 そんな親のデジタル化を進めるうえでポイントとなるのが「①寄り添う、②低コスト、③便利」の三つ。ここを押さえることでデジタル化も進めやすくなるはずです。

①新しい“寄り添い方”で家族をより身近に感じる
 リアルに会えないことの代替手段として、「オンライン帰省を試してみない?」と提案してみます。
例えば、
「いつでも会えるし、離れていても孫たちの成長を見ることができるよ」
「電話とちがって、家族みんなで同時に顔を見ながらおしゃべりできるよ」
「面倒な設定は私が手伝うから試してみない?」

 親も子どもたちを身近に感じられるので、「そばにいてくれる」という安心感につながります。

 また、親も外出を控えて友達と会いづらい状況が続いているはず。これも顔の見えるビデオ通話であれば、電話よりも会話が弾むかもしれませんね。

 親が関わりたいのは子どもや孫だけでなく、同じ世代や同じ趣味をもつ人たちです。そういった点も考慮して、デジタル化の「親にとってのメリット」を伝えてあげましょう。

②実は“低コスト”でデジタル化できる
 例えば、新聞を定期購読している親世代は多いと思いますが、毎月4,000円くらいかかりますよね。スマホやタブレットはただでニュースを見るこが出来ます。ですので、「新聞の定期購読をやめてタブレット端末に切り替えてみてはどう?」。というコスト面からの提案もいいでしょう。

 新聞よりも更新が早く、親の興味関心に最適化されたニュースを見ることができるし、毎月のコストを下げることもできます。頻繁にビデオ通話をしないのであれば、データ容量の低いプランや格安SIMを選ぶことでコストを抑えることができるでしょう。スマホに比べて画面の大きいタブレットは文字も読みやすく、タッチパネル初心者に最適なツールといえます。

③便利さ実感!シニアこそデジタルの恩恵を受けるべき
 前述したニュース閲覧だけでなく、親世代はネットスーパーを積極的に活用しましょう。スーパーなど人が密集する場所は感染リスクが高まります。さらに厳しい暑さ・寒さのなかで買い物に行くには多大な労力を要します。

 お米や洗剤などの重い荷物を自宅に持ち帰るのも一苦労。親の住まいがエレベータのない集合住宅の場合は転倒の危険性もあります。

 最初は生鮮食品をネットで買うことに抵抗があるかもしれませんね。しかし、ネットスーパーの多くは利用者宅の最寄り店舗から配送されるので、実際に利用したことがあるスーパーから配送されるなら心理的なハードルも下がると思います。

 デジタル化するとこんな風に生活が便利になるということを丁寧に伝えてください。そしてデジタルを使う生活に興味を持ってもらいましょう。

親は未知のものに触れようとしている

最後にお伝えしたいのは、親は「アナログ世代の高齢者である」ということです。
みなさんは初めてスマホを触った瞬間のことを覚えていますか?きっと「こんなの使いこなせるのかな」「ガラケーのままでよかったかも」と一抹の不安を感じながら使い始めたことでしょう。

 それを今から高齢の親に始めてもらおうとしているのです。
親は当然不安な気持ちになったり、戸惑ったりすることがあるでしょう。デジタル化は機器を導入して完了ではありません。その後のフォローが大切なのです。

 親子とはいえ一人の人間同士。親の気持ちを尊重しつつ、困っていたら丁寧に伝えていく配慮も必要であることをぜひ覚えておいてください。

「さっき教えたよね」、「なんで分からないの」などイラっとして発してしまう言葉をグッと押さえて、ゆったり構えて付き合っていくというマインドを持ってくださいね。

 今回はビデオ通話で親を見守る方法とデジタル化のメリットを中心に解説しました。
次回は親に適したデバイス・選び方の注意点や、デジタル機器導入後のフォローについてお伝えします。