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これからの「採用」は どう変わるのか?~ ジョブの小口化で「働く」の可能性が広がる

 急激な少子高齢化、労働人口の減少、サービス経済化、デジタル社会への転換、AIの進化など、社会構造は大きく変化しています。働く個人の生き方や働き方に対する意識も大きな変化を遂げつつあり、そこに向き合う企業も採用戦略の新たな在り方が問われ始めています。
 
 そんな中、コロナ禍を受けて急速に進行している「ジョブの小口化」とその可能性について、詳しく解説したいと思います。

社会構造の不可逆な変化を背景に、ジョブの小口化が進む

 ここ数年、日本の労働市場において「ジョブの小口化」の動きが高まっています。そして、コロナ禍を受けたテレワークの拡大に伴い、その動きがますます顕著になっています。

 なぜこのような事象が起きているのか。背景には、この連載でも何度かお伝えした「不可逆な社会構造の変化」があります。

 日本はものづくりによって発展してきましたが、今では日本のGDPの多くを第三次産業が占めており(※1)、また、就業人口の半数以上がサービス業に携わっています(※2)。サービス経済化が進むと、目に見えないものがどんどん価値を持ちはじめるようになり、「ものづくり」から「コトづくり」へと価値の中心が移り変わっていきます。すなわち現代社会においては、ものではなく目に見えない便利な体験に、より価値を感じる傾向が強まっています。

 そして、テクノロジーが一気に進化し、人とデジタルが融合することで、人間の能力が刷新されます。今や誰もがスマートフォンを所有し、デジタルと密接につながった生活を送っていますが、テクノロジーがさらに進化することで、ますます「技術」と「生身の人間」が切っても切り離せない時代になると見られます。

 これらの変化を背景に、「働く」の在り方も急速に変化しています。

 会社にわざわざ出勤する、正社員としてフルタイムで働くなどといったこれまでの当たり前が崩れ、昼休みの1時間だけ、平日夜の2時間だけといった「生活の中のすき間時間」に、別の会社の「コトづくり」に参加する人が出現したり、人の能力とインターネットがつながることで、都心にいながら地方企業の仕事を手伝う人が増えたりしています。
(※参考:株式会社リクルートキャリア「2020年 キャリアトピック「ふるさと副業」 地方企業と都市部人材との新たな共創のカタチふるさと副業」:
https://www.recruit.co.jp/newsroom/recruitcareer/news/pressrelease/2020/200203-01/)

ジョブの小口化+テレワークで、多様な才能が開花

 ジョブの小口化の流れは、この「働く」の変化、すなわち「すきま時間にコトづくりに携わりたい」というニーズに対応したものです。
実際、いち早く業務の「小口化」に踏み切り、自社の可能性を広げている企業が増えつつあります。ここでは2社の取り組みを紹介しましょう。

 Webサイトやシステム構築などを手掛ける株式会社ライトカフェでは、AIアノテーションというITスキルが必要とされる業務において、60代のシルバー人材を活用しています。

 AIに正しい情報を学習させるには、「教師データ」という正解データが必要です。その教師データに関連する情報タグを付加していくことを「アノテーション業務」と呼びますが、語彙力が豊富であり、かつ今ではあまり使われないような日本語も知っているシルバー人材が力を発揮できるのではないか?と着眼しました。

 シルバー人材の雇用拡大は社会的なテーマですが、「AIに日本語を教える」という業務を切り出し小口化したことで、これまであまり発想されていなかった「AI×シルバー人材」を実現した好例といえます。

 株式会社スタッフサービス・クラウドワークでは、他社に先駆けて2016年1月より通勤困難な重度身体障がい者の在宅就労事業をスタート。現在、300名規模で就労機会が少ない地方在住の身体障がい者に対し、完全在宅就労による雇用を実現しています。

 通院や生活の介助などが必要な身体障がい者の生活に合わせつつ、一人ひとりに合ったシフトを組めるようジョブを小口化し、身体障がい者にとって最も安心・安全な場所である「自宅」にいながら、就労する機会を提供しています。ICTの活用に加えて、ミーティングでは雑談を推奨する工夫など、Webコミュニケーションでのチームワークや働きがいづくりにも成功しています。

テレワーク・マネジメント力が企業の必須スキルに

 2社の事例は、年齢の壁や身体的自由の壁など、従来の労働市場ではなかなか能力が発揮できなかった人たちがジョブの小口化とテレワークで新たなチャンスを得て、才能を開花させることができた好例です。そしてこれらの前提となるのが、企業の「テレワーク・マネジメント力」です。

 テレワークをマネジメントするには、ゴール(目標設定)、ロール(役割分担)、エール(達成支援)、ループ(仕上検証)が重要。ジョブを小口化するだけでなく、目標を定め役割を決め、工数や期間を示しながらフォローし最後まで伴走することが、成果を上げるポイントになります。前述の2社では、このテレワーク・マネジメントが徹底されていました。

 変化の激しい時代を生き抜くには、多様な人材がそれぞれの才能を開花させることでイノベーションを生み出す「ダイバーシティ経営」が重要ですが、2社の事例を横展開すれば、子育て中の人、介護中の人、通院中の人、大学院に通っている人、趣味に注力している人、さらには海外に住んでいてすぐに日本には通えない人…などいろいろな制約を持った人が力を発揮できるようになるでしょう。

 多様な才能を引き寄せる「求心力」を高めるためにも、仕事の小口化、そしてテレワーク・マネジメントの強化は、これからの企業にとって必要不可欠な取り組みだと思われます。


(※1)参考:経済産業省レポート:
https://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/shinsangyou/pdf/report_002_02_08.pdf
(※2)独立行政法人 労働政策研究・研修機構 図4-1(産業別就業者数の推移:第一次~第三次産業1951年~2019年年平均)・図4-2(産業別就業者数の推移:主要産業大分類 1951年~2019年 年平均)
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0204.html