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IPOに必要な内部統制・ガバナンスと、キモとなるバックオフィス。デジタル稟議で土台の構築を

2021.06.10

前回は、スタートアップ企業、二代目経営者、事業承継者と3つの経営ステージを例に、稟議を経営目線で見渡しながら、デジタル稟議によってどのように経営に影響を与えていくかについてお伝えし、日常で取り組んでいる稟議が、実はダイナミックに経営に繋がっていること説明しました。今回は、企業にとっても大きな節目でもある、新規株式公開、つまりIPOを例に挙げ、そのために欠かせないコーポレート・ガバナンスや内部統制と、を踏まえながら、デジタル稟議の重要性をお伝えします。

内部統制の6要素。デジタル稟議は横断的にそれら要素を満たすツール

 前回お話しした3つの経営ステージは、いわば企業の成長過程です。最初はスタートアップ、もしくは歴史のある会社であれば創業者から二代目への経営引継ぎ、またM&Aによる事業承継があるでしょう。そして各ステージの先に、IPOがあります。

 IPOを目指すうえでは、上場審査の項目にある「企業のコーポレート・ガバナンスや内部管理体制の有効性」をクリアするため、上場準備の段階で内部統制が有効となるように社内の管理体制を構築する必要があります。

 内部統制には「統制環境」「リスク評価と対応」「統制活動」「情報と伝達」「モニタリング」「ITへの対応」の6つの構成要素があります。そのなかでもデジタル稟議が非常に有効となるのが「ITへの対応」です。

 「ITへの対応」は内部統制に利用するシステムの管理、開発、保守を行ったり、アクセス権限を管理したりすることなどを指します。つまり、デジタル稟議のようなシステムを導入することで、効率的で健全な経営を実現するということ。そして「ITへの対応」は、その他5つの構成要素の有効性を確保するうえでも効果を発揮します。

 例えば、「リスク評価と対応」要素では、統制上の要点となる業務であるキーコントロールにデジタル稟議を導入することにより、業務プロセスを可視化してアナログによるリスクに対応することが可能です。

 また、企業の職務権限規程に定められた承認フローをデジタル化することにより、抜け漏れのない情報伝達を行い、かつ閲覧権限の設定による情報統制を行うことができ「情報と伝達」の要素にも対応することができます。

社会の公器として求められる、経営の相互牽制

 デジタル稟議の導入によって稟議や各種プロセスを明確化、迅速化することは、コンプライアンス強化にもつながります。そしてIPOに向けたコーポレート・ガバナンスや内部統制の構築および継続的な業務プロセスの評価と改善が可能となります。

 また、「いつ」「誰が」「なにを」承認したのかという証跡がデジタル化されることによって検索も容易になるため、モニタリングや監査対応の効率化も実現できます。

 他方、コーポレート・ガバナンスの評価軸として、社外取締役を迎えて相互牽制の機能を有効に働かせることが求められます。相互牽制とは、いわば理想と情熱をもってビジョンを語るCEOと、事業を円滑に回すCOO、そして社内外の状況や数字を客観的に見ながら経営を管理するCFOが、それぞれ自分の役割をきちんと全うし、バランスを取るということです。

 この相互牽制を機能させるためには、意思決定を可視化させることが重要です。意思決定の可視化とは、口頭で決まった結果だけを記録するのではなく、経緯を含めてログが残る方法を使うこと、つまりデジタル稟議で文書化するということです。

 意思決定の記録は会社が歩んだ経営手法の歴史であり、財産となります。デジタル化させて検索を容易にすることで、未来の経営の参考にすることができるとともに会社を守ることにもつながります。情報化や多様化でコンプライアンスの優先度が高まり、リスク管理が欠かせなくなった今、デジタル稟議は重要なツールなのです。

あらゆる経営ステージに必要とされる、デジタル稟議

 内部統制は、IPO準備の手前に構築できるのであれば、それに越したことはありません。前回挙げた3つの経営ステージでも有効です。スタートアップ企業の多くはIPOを目指し、創業されています。事業の進行や成長スピードも速く、タスクやニーズが増えて社内が複雑化する前に体制を整えられれば、事業規模拡大に伴って危険性を増すリスクもカバーしやすいといえるでしょう。

 また、デジタル稟議はあらゆる局面で活躍します。前回もお伝えしたように、創業者から経営を引き継いだ二代目が抱える課題の一つが、初代のカリスマ性を生かしたトップダウン経営から、現場とのコミュニケーション、協調を重視したボトムアップ経営への転換です。デジタル化により稟議プロセスを整え、社内ルールやガイドラインを整備し、不正やミスが起こりにくい組織へ。このような風通しが良く守りに強い体制が内部統制のメリットです。デジタル稟議と同様に、各種業務のDXを促進し、イノベーションを実現する地盤固めができるのです。なお前回記事と同様にさらに詳しく知りたい場合には、こちらのページ( https://www.atled.jp/digital-approval/)でもまとめているので、ぜひご覧ください。

 さらに、事業承継、M&Aなどで創業者が会社を譲渡するケースも有効です。そのときに重要なのは企業価値を高めることですが、内部統制や管理体制が弱い場合は評価額が下がってしまいかねません。デジタル稟議で業務の流れを見える化し、透明性を高めることが大切です。また、社内ルールなどの管理体制を整えて、業務の再現性を高めることも事業承継に重要なポイントです。

 前回と今回で、経営目線から見たデジタル稟議について様々お話ししてきました。大きな話に感じられるかもしれませんが、これら稟議の仕組みを整備する部門は、総務などバックオフィス部門が中心となることが多く、視点を変えれば、バックオフィスが経営の価値を作っている、ということでもあります。特に、IPOでは、精緻な情報の整理が求められ、バックオフィスの活躍なしにIPOはできません。そのためにも、デジタル稟議は有効です。ぜひ日々の業務の中で、これら経営への繋がりを意識してみてください。