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若手中堅が仕事に集中して取り組む機会、テーマはどう渡せばいい?─「力強い中堅社員」を育てるための「若手育成」の処方箋Vol.5

「力強い中堅社員を育てるためには、若手がいかに目の前の仕事に集中して取り組む状態をつくるか」。
その集中への入り口をつくるには、若手が「きっと意味がある」と信じて飛び込ませること(第3回)。より強い意味を付与するためにも、協働の地図を提供し、「仕事」と「仲間」への価値実感を創造していくこと(第4回)」と提示させていただきました。第5回では、「取り組む機会・テーマ」という点から、事例をご紹介します。

保守の仕事にマンネリ感で希望と違う仕事だし…とぐるぐるループで悩むHさん

Hさんは、企業のWEBホームページやモバイル・スマホ向けの販促サイト等を開発している企業で働く若手社員です。規模は小さいながら高い技術力をもち、エンドユーザーとの直接取引が多い会社で、Hさんも新しい開発の仕事に携わりたいという思いをもってこの会社に入社しました。しかし私が出会った頃のHさんは、入社してからずっと「保守」の仕事をしていました。

当時Hさんが、仕事への問題意識について話してくれました。

「それなりに仕事には取り組んでいるが、仕事のマンネリ化を感じています。自分の希望ではない今の仕事に対して『多少不満があったとしても押し殺して、目の前のことを一生懸命やろう』と言い聞かせてやっているところがあります」

「もちろん、まったくチャンスがないわけではありません。年に一度のリニューアルのタイミングは数少ないチャレンジ(顧客への提案)の機会です。本当は挑戦したい気持ちもあるんですが、今の自分の実力では難しいかな……うまくできないんじゃないか……とも思います。それにビジネスにつながる提案となると、1回、2回のミーティングではまとまらない。時間もかかります。途中で保守の仕事に何かしら不具合が起きた場合、対応が大変。余裕がなくなってしまいます」

「そもそも目の前の仕事は自分の希望している仕事とは違います。そこまでやる必要があるんでしょうか」

そんなふうにぐるぐるループして悩んでいる、というのが最初の印象でした。

「集中して取り組むようになった」のはなぜか

1年半後に再会した時、Hさんは

「年に一度のリニューアル機会を逃さず、自分で取り組みたいと思ったことを提案しています」。希望ではない保守の仕事に対しても「保守の仕事をちゃんとわかっておくことは、いざ上流工程の仕事に取り組んだときに、仕事の振り方などで必ず生きると捉えて取り組んでいます」と元気に語ってくれました。

「一体、この1年半で何があったの?」と聞いてみました。

誰がみてもわかるようなドキュメントづくりに「集中して」取り組む

Hさんの変化のきっかけは、3月のサービスインの機会を利用して、ドキュメントづくりに取り組む、と決めたことだそうです。しかも「システム運用や保守に関して誰が見てもわかるようなドキュメントを残すこと」。モヤモヤしながらも、今のままでいいとは思っていなかったので、上司と話をしながら決めたそうです。

Hさんは自分なりにドキュメントの残し方を考え、工夫するなど、集中して取り組んだそうです。道中いろいろと苦労はあったそうですが、「例年にないものを残すことができたし、強い達成感を得られ、自信にもなりました。その仕事を通して、保守の仕事の大切さも実感しました。それが一つのきっかけになり、仕事の中でチャレンジする対象が見つけられない中でも『モチベーションを上げるきっかけになるものを見つけたい』と感じるようになりました」と話してくれました。
Hさん曰く、「ドキュメントづくり」を通じて自分の成長や仕事の意味を実感できるようになり、仕事への取り組み姿勢を変えていくことにつながった、とのことでした。

このHさんの変化を構図で表したのが図表1です。仕事への取り組み方を変えたポイントは「ドキュメントづくりに集中して取り組んだこと」であり、そのことを通して若手の時期に育むべき土台(第1回コラム参照)が積みあがっていたのだと、私には見えました。結果、環境や仕事内容は変わっていませんが、Hさんの行動は明らかに変わっています。

改善の余地ある「誰が見てもわかるドキュメントづくり」をテーマにしたマネジャー

当時、Hさんのマネジャーも、Hさんにどう関わり、育てていけばいいか悩んでいたそうです。というのも、マネジャー自身は若い頃から新しい開発に携わって育ってきたため、自分自身の育ち方が参考にならなかったからです。この会社が急成長を遂げて上場し、安定収益源として保守の仕事も拡大するようになり、自分が育ってきた頃の仕事とは様変わりしていたのです。以前は徹夜も当たり前のような時代だったが、今は働き方も変わってそのような働き方をさせられない、ということもありました。

従来とは異なる環境下で、自らの創意工夫を盛り込んだ仕事がしたいHさんにどんな機会を任せていくか……真剣に考えていた時、ドキュメントに統一感がなく、属人的であることに改善の余地を感じていたこともあって、Hさんに取り組んでもらうことにした、とのことでした。

「うちの会社は規模が小さいながらも『技術力』を強みに成長してきた会社です。でもその原点にあるのは、どんな仕事にも面白がって、追求していくことなんじゃないかと思っています。会社が成長して社員は増えたけど、何とかその原点を大事に働く社員を育てたいと思っています」とも語ってくれました。

私も数年間お付き合いがあった会社ですが、「山椒は小粒でもピリリと辛い」という諺がとても似合う会社です。成長を遂げ上場しても尚、「ピリリと辛い山椒集団」であり続けることは簡単なことではありません。Hさんの育成にとどまらず、自社らしい働き方を伝承するという大変重要なテーマだと思っています。

この事例から学ぶべきことは何か?

■集中の力を発揮させるためには、創意工夫を注ぎ込める、的・ターゲットを明確にすることが重要である

ドキュメントに集中して取り組め、と指示したところでHさんの「集中」の力は引き出されなかったように思います。ポイントは「誰がみてもわかるような」という工夫・改善の余地が見いだせる的・ターゲットを設定したことです。「Hさんのエネルギーと創意工夫を注ぎ込める価値ある的・ターゲット」をはっきりさせられたことが、強い「集中」の力を発揮したポイントのように思います。

■創意工夫を注ぎ込める的・ターゲットを探索・創造できるマネジャーが今、まさに求められている

第2回コラムで述べてきた通り、若手を取り巻く環境が様変わりしたことで、マネジャーにとっては、過去に自分が通過してきた仕事を経験させてあげることができません。また効率化への追求が進み、工夫の余地のある仕事が簡単には見つけづらい状況です。逆に言えば、若手が集中して取り組む価値ある機会を、職場の中でいかに見つけ出し創造できるか、が求められているのです。

まずは渦中から離れて、様々な視点から職場に工夫・改善の余地を見つけることから

プレイングマネジャーも増加し、マネジャーの多くが目の前の業務遂行に追われています。若手の成長に相応しいテーマは何か?是非、視野を広げて職場の改善課題を見つめてみてください。ひょんなことから若手に任せられる課題が見つかることも少なくないのではないでしょうか。

とはいえお読みいただいて、「価値があると思ったテーマを若手に任せたとして、本当に集中して取り組んでくれるのだろうか?」と疑問に思うのではないでしょうか。

次回は最終回ですので、このあたりのことについても触れながら、「力強い若手を育てていくためのポイント」を整理していきたいと思います。