採用活動で内定辞退を減らすノウハウ3選・前編【中小企業の“令和流” 若手・第二新卒採用を成功させる秘訣 Vol.4】
採用市場の売り手市場化が進む中で、良い人の応募を獲得できても「選考中に辞退されてしまった」「内定を出したが辞退された」といった悩みを伺うことが増えてきました。採用活動の経験が長い方であれば、「採用したい!」と思った応募者から辞退連絡をもらう落胆を味わったことがあるでしょう。ほとんどの応募者が他社にも応募する以上、内定辞退をゼロにすることは難しいですが、いくつかのポイントを押さえることで内定辞退を減らすことは可能です。今回は内定辞退を減らすノウハウ3選を紹介します。
なお、応募者の志望度を上げるための基本姿勢は連載の第3回で紹介しましたので、ご覧になっていない方はぜひご確認ください。
4つのアプローチをバランスよく織り交ぜる
第3回(応募者の志望度を上げるための基本姿勢)で紹介した通り、内定辞退を減らすためには応募者を「口説く」ことが必要です。ここでいう「口説く」とは、応募者に自社を「選ぶ理由」を提供して志望度を高めることです。
では、そもそも「志望度」とは何でしょうか。志望度とは何かを定義しておかないと、志望度を高め内定辞退を減らすアプローチも、ふわっとした曖昧なものになってしまいます。
私たちは志望度を、応募者が「自分の望む未来を、この会社で叶えられそうだと思う度合い」と定義しています。「自分の望む未来を、この会社で叶えられそうだと思う度合い」が低下したり他社に負けていたりすると内定辞退するわけです。そして、アプローチを通じて「自分の望む未来をこの会社で叶えられそうだとワクワクして確信している状態」を生み出せれば内定承諾になります。
志望度を高めて内定辞退を減らすには、2つのアプローチで応募者に働きかけることが大切です。ひとつめは「望む未来を明確にする(共に創る)」働きかけです。望む未来が曖昧な状態だと、判断軸も曖昧になります。そうすると、「何となく有名」とか「何となく雰囲気が良い」「待遇が少し良い」といった理由での意思決定になったり、優柔不断で決められなくなったりします。
若手層の場合、応募者本人も「自分の望む未来」が曖昧であることは珍しくありません。従って、選考プロセスを通じて望む未来を明確にする(共に創る)、時にはその中で自社に有利な判断基準、考え方を啓蒙することも大切です。
望む未来が明確になれば、次のアプローチは、「望む未来が叶えられる」と思わせることです。連載第3回でお伝えしたワクワクする情報と安心させる情報の織り交ぜながら、「叶えられる」、また「望まない未来にはならない」ことを伝えていきます。
「望む未来の明確化」と「望む未来の実現性」という2つのアプローチで働きかける際には、感情的(右脳)な働きかけと理性的(左脳)な働きかけを織り交ぜることも大切です。
感情的(右脳)な働きかけとは、たとえば、目に浮かぶようにビジョンを具体化する、応募者に力強く断言する、ストーリーを語るといったアプローチです。これに対して、理性的(左脳)とは、なぜ成長するかに関して根拠がある/論理だった説明をする、制度を紹介する、数字を交えて実績を紹介するなどのアプローチです。
このように志望度を高めて内定辞退を防ぐアプローチは、「望む未来の明確化」と「望む未来の実現性」という2つのアプローチ軸×「感情的(右脳)」と「理性的(左脳)」という働きかけの掛け合わせで4つに分類できます。選考ステップ内で、4つのアプローチをバランスよく織り交ぜて実施していくことが大切です。
自社が今やっている選考を振り返ってみて、会社説明~内定出しまでのプロセスで志望度を高めるためにしている現状のアプローチを「いつ、誰が、どんな働きかけをしているか」という視点で整理してみてください。
「望む未来」を明確する、また、思い出してもらうためにどんなアプローチをしているでしょうか。「自社で叶えられそう」と思わせるためのアプローチは何をしているでしょうか。誰がそれを担っているでしょうか。
整理すると、十分にできているアプローチと不足しているアプローチが見えてきます。不足しているアプローチをどこに入れると良いかを考えてみてください。
「応募者側」と「選考側」で役割分担をする
志望度を高め、内定辞退を減らすためには、採用企業内で「応募者側」と「選考側」で役割分担することも有効です。応募者側に立つ人をここではリクルーターと呼びます。リクルーターは、応募者と年齢が近い、性格が合いそうな社員がベストです。選考前半に面談を入れて応募者とリクルーターを会わせる、また、場合によっては初期選考が終わった後は人事がリクルーターの役割を担っても良いでしょう。
リクルーターの大切な役割は、応募者と信頼関係を作り、本音を聞き出すことです。とくに自社への懸念事項、競合情報を教えてもらえる関係性になることが大切です。「選考側」として接していると、応募者から本音を教えてもらえる信頼関係を築きにくい側面があります。そのため「選考側」は、リクルーターが聞き出した応募者の本音に合わせて、効果的なアプローチをする役割に徹するのがよいでしょう。
リクルーターの基本姿勢は、「応募者が内定を獲得する、また応募者にとってベストな選択ができるように支援する」ことです。リクルーターは「あなたの味方であり、応援者である」「私はあなたと働きたいと思った。だから、内定獲得に向けて応援するし、あなたが納得して悔いのない意思決定できるように支援する」と応募者にきちんと伝えることが大切です。
なお、人材紹介サービスを使っており、エージェントが信頼できる場合は、エージェントにリクルーターの役割を任せても良いでしょう。
「口説きプラン」を作る
内定辞退を減らして内定承諾の確度を高めるためには、勝つための「口説きプラン」を作ることも大切です。口説きプランの考え方は営業の商談設計と同じであり、3Cのフレームワークで整理することが有効です。
口説きプランを作成する際は、まず「採用ターゲットのニーズ」を整理します。先ほど紹介した「望む未来」に関する定量/定性の情報がここに入ります。「望まない未来」、いわばNG条件等について把握しておくことも必要です。
次に「自社の魅力」を当てはめます。求人票を作成する際などとは異なり、採用ターゲットのニーズに対応させていくように考えていきます。口説きプランの作成は、顧客への提案プランを考える際と同じです。初めに来るべきは「顧客のニーズ、課題、解決したいこと」であり、採用プランであれば「応募者のニーズ」です。
次に「競合のアピール」をチェックしましょう。意外とやっている方は少ないのですが、採用競合の採用ページ、公開されている求人情報は確認しておくことがお勧めです。そこでどんな魅力が打ちだされているかを確認しておきます。応募者から「採用競合で魅力に感じている点」を聞けていれば、それも反映しましょう。
採用ターゲットのニーズ、自社の魅力、競合のアピールという3つが埋まったら、次は、「採用ターゲットのニーズを満たしており、かつ、競合より自社が優れている“勝てる”ポイント」、そして、「競合のアピールに対して、自社も同じだと打ち出せる“負けない”ポイント」を考えます。
ここで大切なのは、“勝てる”ポイントと同時に、競合のアピールを踏まえて“負けない”ポイントをしっかり設計することです。
“負けない”ポイントは、たとえば以下のようなイメージです。
⇒自社も目指しているし、トップシェアの事業もある
競合は新規事業など新たなチャレンジを続けている
⇒現在並行して3つの新規事業を手掛けているし、これからも創る予定だ
競合では、若いうちから大きな仕事にチャレンジできる
⇒20代の支店長や役員がいるし、これからも若手を抜擢する予定だ
競合では、新しい商品・サービスを生み出す仕事ができる
⇒オンリーワンのサービスをいくつも出しているし、これからも出す予定だ
競合では、早く成長して力をつけることができる
⇒独自商品を世に出す方針なので、企画も営業も難易度が高いが、その分成長出来る
“勝てる”ポイントと“負けない”ポイントは、それぞれ定性的な情報プラス具体的な数字やエピソードまで落とし込みましょう。右脳(感情・感覚)と左脳(理性・論理)、双方へのアプローチが大切です。とくに第1回や第2回でも紹介した通り、抽象的な話だけで魅力を伝えようとすると、今の若手は「ブラック企業ではないか?」という不信感を持ちます。必ず具体的な情報も伝えられるようにセットで準備しましょう。
口説きプランを作成したら、志望度を高めるアプローチを実行していきます。実行の基本的な考え方は、「望む未来」の明確化と「自社で叶えられること」の共有です。これを忘れないように実行していきましょう。
次回は、「内定辞退を減らすノウハウ」後編
若手・第二新卒の採用活動で、志望度を高めて内定辞退を減らすためのノウハウを紹介しました。志望度とは、自分の望む未来を、この会社で叶えられそうだと思う度合いです。「望む未来の明確化」と「望む未来の実現性」という2つの軸で、感情的(右脳)な働きかけと理性的(左脳)な働きかけを織り交ぜてバランスよくアプローチしていきましょう。
アプローチする上では、応募者の本音や自社に対する懸念、競合状況を知ることが重要です。応募者側(リクルーター)と選考側の役割分担で応募者の本音を掴んだうえで、商談設計と同じ感覚で「口説きプラン」を作ってアプローチしていくことがお勧めです。
次回の「内定辞退を減らすノウハウ」後編では、中小企業でありがちな失敗を踏まえた「内定辞退を減らすための細かいポイント」をご紹介します。