「認められたい」は悪いことか?承認欲求を組織成長の武器にする視点とは(後編)【1600社の組織開発支援から見えてきた「強い組織」の裏側 Vol.4】
承認欲求にはネガティブなイメージが先行しがちです。特にマネジメントの現場では、承認欲求が高いメンバーは扱いにくい存在と捉えられてしまうことも少なくありません。
しかし、承認欲求を適切に満たすことで個人の成長と組織の成果を両立させる「よいモチベーター」になり得ることを前編でお伝えしました。後編では、承認欲求が高いメンバーに対する具体的なコミュニケーション方法と、マネージャー自身の感情との向き合い方について解説します。
承認欲求を「よいモチベーター」に変える実践的アプローチ
第3回の前編では、承認欲求は「悪」ではなく、満たされるべき自然な欲求であること、そして組織の成長エンジンになり得ることをお伝えしました。ここからは、承認欲求が高いメンバーに対する具体的なコミュニケーション方法を紹介していきます。
まず前提として、承認にはさまざまな種類があることを理解しておく必要があります。
・存在承認:その人がチームにいること自体を認める(「いてくれるだけでチームに刺激がある」「みんな頑張ろうと思えるよ」など)
・意識承認:結果を出そうとしている意識そのものを認める(「成果を出したいという気持ちが伝わっているよ」など)
・行動承認:具体的なアクションやチャレンジを認める(「まずは動いてくれたこと自体がよかった」など)
・結果承認:成果そのものと、そこに至るプロセスも含めて認める(「この結果を出せたのは、あなたの取組みがあったからだ」など)
重要なのは、結果が出ていない場面でも、存在・意識・行動の段階で承認できるポイントがあるということです。どうしても結果にフォーカスしがちになりますが、結果が出ていないからといって承認できないわけではありません。マネージャーがこの段階を理解しておくことで、ネガティブフィードバックが必要な場面でも、メンバーとの信頼関係を保ちながら伝えられるでしょう。
【ケース別】承認欲求が高いメンバーへの向き合い方
ここからは、マネジメントの現場で起こりがちな2つのケースをもとに、具体的な対処法を紹介していきます。
【ケース①】行動はしているが、精度・スピードが不足しているメンバー
あるメンバーが、指示したアクションに取り組んでくれたものの、精度やスピードが期待を下回っていたという場面は、マネジメントにおいて日常的に発生します。承認欲求が高いメンバーの場合、ここでのフィードバックの伝え方が、その後のモチベーションを大きく左右します。
まず押さえるべきは、行動を起こしたこと自体をまず承認するというステップです。何かしらの結果を出すために行動してくれたという事実、そして結果を出したいという意識を持っていること自体は、認められるべきポイントです。
そのうえで、「このスピード感だと結果にはつながりにくい」「この精度ではお客さまに提出できない」といったネガティブフィードバックを伝えます。ここでのポイントは、「~してはいけない」というネガティブ側ではなく、なってほしい状態(ポジティブ側)にフォーカスした伝え方です。
たとえば、「あなたの仕事は遅い」と伝えるのではなく、「今の2倍のスピードでできるようになれば、もっと多くのお客さまに価値を届けられるし、あなた自身の成長にもつながるよ」と伝えます。この伝え方であれば、ネガティブフィードバックでありながらも、相手への期待(承認)が込められています。
特にメンバーとの関係性が十分に構築できていない段階では、ネガティブなフィードバックだけ伝えても受け入れてもらえないでしょう。そのため、まずは相手を承認することで、フィードバックを聞く姿勢を整えられます。土台をつくってからネガティブフィードバックを伝えるという順序が、効果的なコミュニケーションの鍵となります。
【【ケース②】成果が伴っていないがアピールをするメンバー
パフォーマンスが期待を下回っているにもかかわらず、「もっと認めてほしい」「褒めてほしい」という姿勢が前面に出てくるメンバーに対しては、どのように向き合えばよいのでしょうか。
前提として、現時点のパフォーマンスが不十分な状態で安易に承認することは避けるべきです。期待されている水準以下の成果で承認されてしまうと、本人は「これでよいのだ」と認識してしまい、成長が止まるリスクが考えられるでしょう。
大切なのは、承認に至るための期待を本人と事前にすり合わせておくことです。たとえば、日々の1on1ミーティングを活用し、「今期はこういう活躍を期待している」「こういう成果を出せたときに評価で返したいと思っている」といった内容を共有します。
すり合わせが有効に働く理由は、承認の基準がマネージャーと本人の間で合意されるためです。基準が共有されていれば、仮に承認が得られなかった場面でも、本人にとってそれは「自分を否定された」という体験ではなく、「合意した地点にまだ届いていない」という現在地の確認になります。承認欲求が高いメンバーほど「認めてもらえない=自己否定」と結びつきやすいため、この認知の転換がすり合わせの効果といえるでしょう。
ただし、期待値を伝えた段階で「そんなに求められても困る」「正当に評価されていない」と防衛的な反応が出ることもあります。こうした場合は、期待を一方的に伝えるのではなく、「あなた自身はどうなりたい?」「どんな成果を出せたら納得がいく?」と本人の意志も引き出しながら共同で決めることが重要です。それでも反発や萎縮が見られるときは、存在承認や意識承認に立ち返り、関係性の土台を整え直してからすり合わせに戻るという判断も必要になるでしょう。
そして、すり合わせた方向で実際に成果が出たときには、結果だけでなくプロセスに対してもしっかりと承認を伝えます。「ここまでのプロセスは正しかったね」「この工夫がよかったからこそ、この結果につながった」と伝えることで、本人のなかでどのような行動を取れば承認されるのかという学習サイクルが生まれるでしょう。
なぜマネージャーは承認欲求にいら立ちを感じるのか
ここまで、承認欲求が高いメンバーへの具体的な向き合い方を紹介してきました。しかし「理屈はわかるが、実際にはそこまで手間をかけて対応したくない」と感じた方もいるかもしれません。
実はこの感情こそが、マネジメントを振り返るうえで重要なポイントとなります。承認欲求が高いメンバーにいら立ちを感じるとき、その感情の裏側にはマネージャー自身の心理的な背景が隠れています。私のこれまでの支援経験から、マネージャーがいら立ちを感じる背景には主に3つのパターンがあると考えています。
1つ目は、成果に見合わない承認要求への不満です。パフォーマンスが伴っていないにもかかわらず認めてほしいというアピールに対して、純粋に不満だと感じるケースです。
2つ目は、自分自身の過去との比較から生まれる不公平感です。自分が過去に上司から手厚いフォローを受けた経験がない場合、なぜ自分がそこまでしなければならないのかという思いが生まれます。
3つ目は、メンバーのレベルに合わせることへの不安や焦りです。たとえば極端な話、「ちゃんと時間通りに出社しましょう」のような低いレベルのフィードバックをしなければならない状況に直面したとき、「自分の組織はこのレベルなのか」「自分のせいでレベルが低下してしまったのではないか」という不安が湧いてきます。承認欲求の高いメンバーに丁寧に向き合う行為自体が、そのレベルに合わせているように感じられて、焦りやいら立ちにつながるのです。
こうした感情が生まれること自体は自然なことです。しかし、感情はあくまで判断の材料であり、行動の根拠にしてはなりません。フィードバックをやめれば問題は消えるのではなく、先送りされるだけです。結果として最も割を食うのは、成長の機会を失うメンバー自身です。
マネージャーのミッションは、組織の成果を最大化するために、メンバーのパフォーマンスを最大化することです。メンバーのレベルに不満を感じていたとしても、今の組織を成長させない限り、その不満が解消されることはありません。なぜ自分がいら立ったのかを内省して感情の出どころを理解することで、感情に左右されず前向きな行動を選択できるようになるはずです。
承認欲求と向き合うことが、強い組織をつくる
承認欲求は、排除するものでも、ネガティブに捉えるものでもありません。承認は「あなたの能力が活きている」という有能感と「あなたはこのチームに必要だ」という関係性の実感を伝える行為です。これを適切に行い、よいモチベーターとして活用することで、メンバーの自己実現や他者貢献への意欲を後押しすることができます。
マネジメントにおいては、存在・意識・行動・結果という承認の種類を理解したうえで、ネガティブフィードバックが必要な場面でも部分的な承認を忘れない。そして、承認されるべき行動の方向性を事前にすり合わせておく。この2つを意識するだけでも、承認欲求が高いメンバーとの関わり方は大きく変わるはずです。
そして、マネージャー自身もいら立ちを感じる自分の感情を見つめ直し、感情と行動を切り分けて承認欲求と正面から向き合う姿勢が、チーム全体のコミュニケーションの質を高め、結果として強い組織をつくる土台となります。
承認・称賛のコミュニケーションは、特別なスキルではなく、日々の小さな積み重ねです。まずは今日、隣にいるメンバーの「当たり前の頑張り」に目を向けて、言葉にして伝えることから始めてみてはいかがでしょうか。







