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キャリア自律の再考──「自律して考える」の先に 【知ってるつもり?職場の定番施策再入門 Vol.5】

2026.10.05
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「自分のキャリアは自分で考える」。そうは言われても、仕事の割り当てや異動など、成長機会の多くを組織が決めるなかで、個人が将来を描くのは容易ではありません。本稿では、キャリア自律を明確な将来像を持つことだけではなく、個人の意思を実際の仕事・経験・配置へつなげていく施策として捉え直します。変化のなかで自分なりの選択肢を持つために、本人、管理職、組織には何ができるのでしょうか。

【過去のコラムはこちら!第1回/第2回/第3回/第4回】

導入

「キャリア自律」という言葉が、企業の人材育成やキャリア支援の場で使われるようになって久しくなりました。技術革新や事業構造の変化によって仕事そのものが変わるなか、自分のキャリアを自分で考え、必要な能力を主体的に身につける必要性は一層高まっています。

ただし、必要性が理解されていることと、実践できることは別です。弊社が実施した「若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査」(2021)※1では、81.7%が「自律的・主体的なキャリア形成をしたい」と回答する一方、64.8%が、それを求められることにストレスや息苦しさを感じています。また、76.3%が「多くの人にとって自律的・主体的なキャリア形成は難しい」と回答しました。

※1:若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査

こうした背景には、キャリア形成の責任は本人にあるとされる一方で、担当する仕事や異動先、得られる経験の多くは組織との関係のなかで決まるという現実があります。「キャリアは自分で考えてください」と伝えても、その意思が実際の仕事や経験につながらなければ、本人の自己分析だけで終わってしまいます。

キャリア自律とは何か

キャリア自律とは、自分の強みや価値観を理解し、仕事や組織を取り巻く環境を捉えながら、自分のキャリアの方向性を考え、必要な学習や行動を自ら選んでいくことといえます。つまり、自分の将来像をあらかじめ明確にし、その実現に向けて一直線に進むことだけを意味するものではありません。人は、自分が知らない仕事を希望することはできませんし、実際に経験する前から、自分に向いている仕事や発揮できる強みを十分に理解できるとも限りません。むしろ、組織から任された仕事に取り組み、周囲からフィードバックを受け、新しい役割を試すなかで、それまで気づかなかった強みや関心が見えてくることがあります。キャリアについて考える材料そのものが、仕事の経験を通じて増えていくのです。弊社の実施した「2040年働き方イメージ調査」(2024)※2では、「キャリア形成は自分自身の責任である」と回答した人は55.7%でしたが、5年後の具体的な活躍イメージがある人は22.6%にとどまりました。責任感はあっても、進む方向はまだ見えていない人が多いのです。

※2:働く人々のキャリア自律に向けて

キャリア自律とは「どこへ行くか」を早く決めることよりも、経験を重ねながら自分自身への理解を深め、次の選択肢を考えられる状態をつくることだといえます。仕事や組織を取り巻く環境が変われば、求められる役割や、自分が価値を発揮できる場も変わります。その変化を捉えながら、自分なりの選択肢を持ち、必要に応じて新しい仕事や役割へ踏み出していけることが重要ではないでしょうか。

よくある誤解・失敗パターン

上司が部下の自律を促すうえで、よくある誤解・失敗パターンを3つ紹介します。

1つ目は、キャリアをめぐる上司との対話と仕事の設計がつながっていないことです。1on1で希望を聞いても、実際の仕事は目先の成果や現在の得意不得意だけで割り振られ、挑戦が先送りされることが多いと、「話しても何も変わらない」と感じてしまいます。

2つ目は、本人の希望を「そのまま実現するか、退けるか」の二択で捉えてしまうことです。たとえば「企画をしたい」という希望があれば、企画部門への異動可否だけで判断するのではなく、課題発見、構想、意思決定など、本人が何に魅力を感じているのかを掘り下げることが大切です。希望を能力、経験、役割へ翻訳すれば、現在の職場でも得られる機会が見えてきます。

3つ目は、キャリア支援と人材配置を別々に運用してしまうことです。弊社調査※3では、自律的・主体的なキャリア形成の尊重と組織主導の人事施策の両立を難しいとする回答が約7割に上りました。また、本人の意向や事情を尊重する必要が高まり、適時適切な配置が難しいことを課題とする管理職も37.9%ありました。一方、人材配置がうまく機能している企業では、会社主導だけでなく、従業員本人の希望も組み合わせて配置に反映する傾向が見られています※4。

※3:配置・異動とキャリア支援施策に関する実態調査
※4:人材マネジメント調査2025~労働力不足の新時代を切り拓く、これからの人材マネジメント~

キャリア自律を再考する

キャリア自律において重要なのは、最初から完璧な将来像を持つことではありません。現在の経験を振り返り、仕事や組織の変化を知り、次に試したい選択肢を考え、実際に行動し、その結果を踏まえて方向性を更新していくことです。

そのためには、組織からの情報と機会の提供が必要です。今後どのような仕事が増えるのか、どの能力が求められるのか、現在の経験が何につながるのかを理解することで、個人はより具体的に将来のキャリアを考えることができます。

キャリア自律に関連する施策は、単に個人の意識変化を促すものではなく、個人の意思と、組織が提供する仕事、経験、配置を接続する仕組みとして捉える必要があるでしょう。

実践に向けて

では上司としては、何を意識すればよいのでしょうか。
上司が担うべき3つの役割を紹介します。

1つ目は、対話を通じて、現在の経験から選択肢を引き出すことです。1on1などの面談の機会で当人にキャリアの方針を聞くとき、「5年後どうなりたいですか」と尋ねるだけでは不十分です。「最近、手応えを感じた仕事は何ですか」「どのような問題を解決したいですか」「何に責任を持ちたいですか」「今の経験のうち、別の仕事でも生かせるものは何ですか」と現在や過去の経験について広く問いかけることが大事です。こうした対話を通じて、職種名や役職といったラベルだけではなく、能力、提供価値、担いたい責任から選択肢を考えることを支援します。

2つ目は、対話で得た情報を実際の経験へつなぐことです。少し難しい仕事、他部署とのプロジェクト、後輩支援、短期間の兼務など、現在の立場から試せる機会を設ける試みが重要です。実際に挑戦ややりがいのある経験が得られなければ、主体的な行動は期待できないでしょう。

3つ目は、組織の方向性を率直に共有することです。どの事業を伸ばし、どの仕事が変わり、今後どのような能力が求められるのかを伝えます。本人の意思だけを聞き、組織側の情報を示さなければ、対等なキャリア対話にはなりません。

キャリア自律の支援とは、本人の希望をすべてかなえることではありません。本人の意思と組織の必要性が異なるときも、その違いを説明し、接点を探していく試みこそが、支援につながるのではないでしょうか。

まとめ

キャリア自律とは、明確な将来像を一人で決め切ることではありません。自分自身と仕事を取り巻く環境を理解し、次の選択肢を考え行動し、その結果を踏まえて方向性を更新していくことです。

そして、キャリア自律の支援とは、「自分で考えてください」と本人に委ねることではありません。組織の方向性を伝え、本人の意思を聞き、試すための仕事や学習の機会を設け、それらを将来の役割や配置につなげていくことです。

本人が考えることと、組織が機会をつくること。その両方を行き来できる状態をつくることが、変化の時代におけるキャリア自律といえるでしょう。