1on1を成長支援の場に【知ってるつもり?職場の定番施策再入門 Vol.6】
多くの企業で1on1を導入するようになり、「上司・メンバーの関係性が良くなった」という声を耳にするようになりました。一方で、導入から時間が経つにつれ、「1on1が形骸化してきた」という新たな問題を抱える企業も増えています。
なぜ、1on1は形骸化してしまうのでしょうか。どうすれば、形骸化を防ぎ、1on1をより効果的な場にしていけるのでしょうか。
本稿では、1on1が形骸化する要因を紐解きながら、1on1を継続的な成長支援の場にしていくためのポイントを解説します。
1on1が形骸化する要因とは
1on1を導入する企業が増える一方で、導入して半年が経つと、次のような悩みを抱える企業も少なくありません。
このような声が聞かれる場合、1on1の形骸化が始まっている可能性があります。この状態のまま1on1を続けても、十分な効果を得ることは難しいでしょう。
なぜ、このような1on1の形骸化が起こるのでしょうか。その要因を考える上で重要なのが、1on1には5つのレベルがあるという考え方です。
形骸化が起こりやすいのは、レベル3「関係性構築」にとどまっている状態です。
このレベルでは、上司とメンバーが本音で対話できています。上司は、研修や学習を通じて1on1の意義や手法を理解しており、メンバーの本音を上手に引き出せているのでしょう。一見すると、悪くない状態です。
しかし本音で対話できるようになると、図表1に示すように、「率直に話せているし、関係性もできている。これ以上、継続して1on1を行う意味やメリットが分からない」という状態に陥ることがあります。
その結果、既存メンバーとの1on1の頻度が減り、新しいメンバーとだけ関係性構築を目的とした1on1を実施するようになります。これが、1on1が形骸化していく一つのメカニズムです。
1on1を効果的に運用するには
では、どうしたら1on1の形骸化を防ぎ、継続的に価値を生み出す場にできるのでしょうか。
答えは、「経験学習サイクル」を回し、レベル4「成長支援」やレベル5「成果創出」へと、1on1のレベルを高めていけばよいのです。
経験学習とは、自らの業務経験を振り返ることで学びを深める学習のことです。経験学習を最大化するには、「経験→省察→概念化→実験」の経験学習サイクルを回すのが最も効果的だとされています。
ただし、日々の業務に追われる中で、メンバーが経験学習サイクルを一人で回し続けるのは容易ではありません。そこで、1on1を活用します。
上司がメンバーに仕事の振り返りを促し、「そこから何を学んだのか」「次はどうしてみるのか」を一緒に考えるのです。上司がメンバーの省察・概念化・実験をサポートすることで、1on1はレベル4の成長支援、さらにはレベル5の成果創出へとつながっていきます。
経験学習サイクルは、回せば回すほど効果が高まります。例えば、4月の1on1で取り組むことを決め、5月の1on1でその取り組みを振り返り、そこからどのような実験をするかを対話する。6月の1on1では、その実験の結果を振り返る。
このように経験学習サイクルを回していけば、「1on1で話すテーマがない」という状態も起こりにくくなります。
しかしながら、経験学習サイクルを回す関わり方は、上司にとっても簡単なことではありません。上司が投げかける問いの質がメンバーの経験学習の質を決めるため、上司は問いの立て方を知っておく必要があります。
省察のポイントとは
ここからは、経験学習サイクルの中でも特に難しいとされる省察のポイントを解説します。
省察とは、自分自身の経験を多様な観点から振り返ることです。省察には、自身の成功要因を知って再現性を高めたり、同じ過ちや失敗を繰り返さないようにしたりする効果があります。つまり、メンバーが振り返りの習慣をつけると、成功を増やすと同時に、失敗を繰り返さないようになっていくのです。
ただし、メンバーに省察を促そうとしても、「何を振り返ればよいのか分からない」「どこまで振り返ればよいのか分からない」と言われ、思うように進まないケースが散見されます。
そこで、質の高い省察を促すための3つのポイントをご紹介します。
1つ目のポイントは、メンバーの成長につながる仕事経験を意識的に選ぶことです。
メンバーに「今月の仕事を振り返ってみようか」と投げかけても、なかなか言葉が出てこないケースは少なくありません。このような時は、ストレッチ経験や、メンバーにとって印象深い経験を振り返ってもらうと学びにつながります。加えて、失敗事例だけでなく、成功事例にも焦点を当てることを伝えましょう。
例えば、メンバーがプロジェクトを成功した際には、「なぜ、うまくいったと思いますか?」と質問するのです。人は、失敗したことに焦点を当て、反省という名の振り返りをすることは得意です。一方で、うまくいったことは自分にとっては当たり前のことなので、あえて振り返らないことが多いのです。上司のサポートによって成功要因が明確になれば、メンバーは成功確率を高められるでしょう。また、成功事例をめぐる対話が、さらに良い方法を思いつくヒントになる可能性もあります。
2つ目のポイントは、振り返りの解像度を高めることです。
上司がメンバーの話を映像として再現できるほど具体的に振り返ることが必要です。営業職であれば、「自分やお客様がどのような言葉を使ったのか」「自分の言葉に対して、お客様の表情はどうだったのか」「そのとき、自分は何を考えていたのか」といったことを細かくヒアリングするのです。
経験を具体的に思い出すことによって、メンバー自身も「なぜ自分はその行動をとったのか」「別の方法はなかったのか」と考えやすくなります。振り返りの解像度を高めることが、より深い省察につながるのです。
リモートワーク環境下では、上司がメンバーの仕事ぶりを間近で見ることができません。業務プロセスをできるだけ具体的に振り返ってもらうことは、リモートワーク下でのメンバーの仕事ぶりを理解するうえでも重要です。
3つ目のポイントは、メンバーの成長課題と照らして振り返ることです。
メンバーの成長課題を、折にふれて投げかけることで、より効果的に成長を促進できます。
期初の目標設定面談やキャリア面談などで、「今期は提案力を高めていきましょう」あるいは「今期は企画力を能力開発のテーマに置きましょう」といった形で、成長課題を事前に設定しておくのです。期中の1on1では、「成長課題に設定した提案力向上の観点で、学びや気づきはありますか?」といった問いを投げかけることによって、メンバーは自分でも何を振り返ればよいかが見えるようになっていくでしょう。
まとめると、省察のポイントは以下のようになります。
最後に省察のテーマ例と質問例をご紹介します。メンバーがテーマを選ぶのが原則ですが、メンバーからの提案がない場合や、学びの多そうな経験がある場合は、上司から投げかけることも有効です。
おわりに
経験学習サイクルを回して、1on1をレベル4「成長支援」、さらにはレベル5「成果創出」に高めていくうえで、最も重要なスタンスがあります。それは、弱みや課題への着眼ではなく、強みや兆しに着眼することです。メンバーの強みや変化の兆しに着眼するスタンスを根底に持つことが、メンバーの成長を後押しし、成果を高めることにつながっていくのです。
本稿が、1on1をより効果的に運用していくための一助となれば幸いです。












