オフィスのミカタとは
従業員の働きがい向上に務める皆様のための完全無料で使える
総務・人事・経理・管理部/バックオフィス業界専門メディア「オフィスのミカタ」

人材開発と人材育成の違いと企業に求められる人材開発のあり方についてわかりやすく解説

2022.03.24
オフィスのミカタ編集部

労働人口の減少によって人手不足が深刻する中、人事業務の中でもとりわけ重要度が増しているのが人材開発・人材育成分野だ。今回の記事では人材開発・人材育成の定義から、人材開発の目的や課題について解説していく。

人材開発と人材育成の違い

人材開発と人材育成。どちらもよく使われる言葉だが、その意味に違いはあるのか見ていこう。

人材開発と人材育成は、ほぼ同義
結論から言うと、人材開発と人材育成はほぼ同義だ。どちらも社員に教育や訓練を課すことで能力を高め、パフォーマンスの向上を図る取り組みを指す。ただ、それぞれの対象となる人材に微妙な違いがある。

人材開発は企業の社員全員を対象にしたニュアンス
人材開発は人材を経営資源として捉え、企業の発展に役立つ能力を発揮できるよう、スキルの向上を図るニュアンスが含まれている。従って、全社員を対象にしたものといえるだろう。

人材育成は企業の新入社員を対象にしたニュアンス
人材育成はその字の通り、人材を育てて成長させるものだ。会社の目標や所属する部署の役割に基づいて、必要なスキルを身につけさせるニュアンスが強く、新入社員に向けて行われることが多い。

自社にて活躍する人材を育てる目的
人材開発も人材育成も、どちらにもおいても目的は自社で活躍する人材を育てることというのには変わりない。目的からぶれない人材開発・人材育成を行ってほしい。

人材開発が企業人事に必要になった背景

就職・転職市場が売り手市場の場合、企業側にとっては人材が確保しにくい状況となる。それでも人材確保に力を入れていくと、採用コストが増大してしまう。しかし、コストが増えたところで、確保できる人材が自社にとって役立つ社員となるかは、入社後数年は分からない。

そこで企業が考えたのが、人材開発への投資だ。すでに自社に所属している社員に対して人材開発を行って企業成長を促す方が、結果的に投資対効果が高いということに気づいたのだ。少しずつ人材開発に力を入れる企業が増えていることにはこういった背景がある。

人材開発の目的と手法

人材開発の手法にはいくつか種類がある。ここでは種類ごとの詳しい内容や手法について詳しく見ていこう。

実務でのフィードバックによるパフォーマンス向上を目指すOJT
OJT(On-the-Job-Training)とは、配属先の先輩社員や上司が直接現場で、新入社員や他部署から移動してきた社員に対して指導をする方法だ。実務に即した指導ができることが大きなメリットだ。ただ、指導にあたる社員は、通常業務以外に指導時間も増えるため負担が増えてしまう。指導役の社員の業務を軽減するなど配慮を忘れないようにしたい。また、指導役ごとに教育内容にバラつきが出ることを防ぐため、指導役となる社員にはマネジメント研修を受講してもらうようにしたい。

座学での学びにてパフォーマンス向上を目指すOff-JT
Off-JT(Off-the-Job-Training)とは、研修やセミナーなど座学の教育手法だ。専門的な知識を持った講師が体系的に教えてくれるため、なんとなく行っていた業務について理解度を深めることができる。

ただ、外部の講師に依頼することでコストがかかることや、内容が実務とかけ離れていてあまり身にならないというケースが起こりうることがデメリットとして挙げられる。コスト削減については、参加者の対象を絞って選抜して行う、研修・セミナーの内容は現場の課題に即したテーマを慎重に選ぶなど、下準備をしっかりすることで解決するだろう。

自発的な学習環境を整えパフォーマンス向上を促す自己啓発支援
社員の自発的な学習を支援するため、仕事に関連する書籍の購入費や資格取得のための通信教育やスクール費用を補助といった取り組みも有効だろう。また、スキマ時間を活用できる点からe-Learningを導入するのも一つの手だ。

社員の自主性を重んじる方法のため、経営陣が思ったように自己啓発が進まない可能性もある。資格取得者にインセンティブを出す、人事考課に自己啓発を組み込むなど、社員のやる気を引き出す運用側の手腕も問われる。

経営戦略達成のために社員の目標やマインドを醸成する1on1・面談
1on1・面談は、上司と部下が定期的に行うミーティングだ。小さな一歩ではあるが、部下の成長を促し、信頼関係を構築することは企業の成長には欠かせない。ただし、上司に傾聴するスキルやコーチングスキル、アサーティブスキルが備わっていないとこの方法は成功しない。部下一人ひとりを我が子のように大切に思う気持ち、相手の意見を聞きながら成長させたいという思いを持って接してほしい。

組織としての最適配置を個の特性により行うタレントマネジメント
タレントマネジメントとは、社員の持つタレント(能力・資質・才能)やスキルを一元管理して最適な配置・育成することを指す。

経営戦略に人事の面から積極的に関わっていく戦略人事では、タレントマネジメントの実施は外せない。次世代のリーダー候補を見出して育てていくために、タレントマネジメントを行う必要があるのだ。タレントマネジメントの手法やメリット・デメリットについては以下の記事で詳しく解説しているので一読してほしい。

タレントマネジメントとは?社員の個々の才能や素質を生かした人事制度

日本における人材開発の課題・伸び悩み

人材開発が企業成長には欠かせないものだということは、ここまででお分かりいただけたことだろう。しかし、日本において人材開発は伸び悩んでおり、課題も抱えている。ここでは人材開発における問題について紹介しよう。

戦後高度経済成長期からのジェネラリストを育てる社会風土
高度成長期から、日本の企業では満遍なく業務をこなせるジェネラリストを育ててきた。それにより、専門性に特化した社員が不足しており、指導できる人材も不足している。

終身雇用制度の制度疲労により転職・独立が増える社会風土
終身雇用制度に危機感を抱き、転職・独立する社員が増えたことも一つの課題だ。せっかく人材開発をしても、社外に出て行かれてしまっては元も子もない。そうならないためには、会社への満足度の向上を図ることが大切だ。給与アップはもちろんのこと、福利厚生の充実や柔軟な働き方の受容など、多くの社員が「ここで働き続けたい」と思えるような制度を取り入れていってほしい。

スペシャリスト育成と人材の長期雇用の維持・囲い込みに難あり
前述したように終身雇用制度が破綻しつつある現在では、スペシャリストの育成と人材の長期雇用を維持することは、かなり難しい。だからといって人材開発を辞めてしまっては、自社の魅力が低下していく一方だ。社員のボトムアップ、スペシャリストの育成を続けることは、企業としての魅力が高まり、人材流出の抑制や優秀な人材の呼び込みにも一役買う可能性は高い。優秀な人材に来てもらえる企業づくりも人材開発と並行して行っていくことが重要となる。

人材開発は社員の「個」と全社の「組織」の2側面からアプローチ

人材開発には、社員の個を生かして伸ばす側面と、組織全体としてパフォーマンスを向上させていく側面がある。両方が噛み合わないとせっかくの効果も半減してしまうため注意したい。

個のパフォーマンス・スキルアップを支えるフィードバック機能
OJTを活用してインプットしたものを成績や業務に還元できているのかをしっかり見極め、業績に応じてインセンティブや給与にフィードバックすることが、社員のやる気につながるだろう。OJTで教えたら終わり、ではなく、スキル等が定着するまでしっかりとフォローするようにしてほしい。

組織のパフォーマンスを経営戦略から最適化するマネジメント機能
個のパフォーマンスを強化した上で、それぞれに合った配置を行うところまでが人材開発だ。企業は社会の変化によって経営戦略を変化させていくため、スキルアップした社員をどう配置転換したり、チーム強化のために協力してもらったりするのかまで対応できて、はじめて人材開発ができているといえるだろう。

まとめ

人材開発は企業成長のためには欠かせない手法の一つ。旧来のようにOJTやOFF-JTをして終わり、というのではなく、経営戦略の変更への対応や適材適所の人材配置を行っていく必要がある。人材開発と企業の魅力向上の両輪を進めることが成功への近道となるため、しっかりとこの2つを並行して進めていってほしい。