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企業価値と成長力を高める人的資本経営の概要と取り組み方を解説。おすすめの支援サービスも紹介

2023.01.19
オフィスのミカタ編集部

企業の持続的な成長に欠かせない考え方として、急速に広まる「人的資本経営」。基本的な意味は理解しつつも、「具体的にこれまでの経営スタイルとは何が違うのかわからない」「どう実践すれば良いのかわからない」という方も多いだろう。そこでこの記事では、人的資本経営の定義や、注目される背景、具体的な取り組み方、おすすめの支援サービスまでまとめて解説する。

「人的資本経営」とは人材を資本とみなす経営手法

経済産業省は、人的資本経営を「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」と定義している。ここでは、まず人的資本経営が広まった背景から説明していこう。

世界中で注目が高まっている人的資本経営
人的資本経営が広まった背景には、SDGsやESG経営が注目される中で、企業にもサステナビリティが求められるようになったことがある。さらに、ISO30414(人的資本の情報開示に関するガイドライン)が公開され、国内外で人的資本の情報開示を行う企業が増加。すでにアメリカでは、上場企業に対して人的資本の情報開示が義務付けられている。

人材を資源とみなす従来の経営手法との違い
ここで、従来の経営手法と人材資本経営の違いを見てみよう。

(参照:経済産業省「人材版伊藤レポート2.0」

従来、経営において人材はモノやカネと同様、経営資源の1つと位置付けられ、管理の対象とされていた。一方、人材資本経営では人材こそ企業の競争力の源泉であり、価値が伸びも縮みもする資本であると捉えている。また、人材の価値を最大限に引き出すため、積極的な対話などによって成長を促すだけでなく、投資効果の見える化も求められる。

国を挙げて人的資本経営を推し進める方向にある
人的資本経営は持続的な企業成長に欠かせないものと認識されており、経済産業省でも2020年から「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」を開催。その報告書として2020年9月には「人材版伊藤レポート」が公表され、日本国内でも広く人材資本経営の考え方が広まることになった。さらに、続く2021年からは「人的資本経営の実現に向けた検討会」を開催し、2022年5月に「人材版伊藤レポート2.0」を公表。人的資本経営の実現に向けた実践のポイントなどを提示している。ここからは、この「人材版伊藤レポート2.0」の内容について紹介していこう。

人的資本経営の実践方法について議論した「人材版伊藤レポート2.0」

「人材版伊藤レポート2.0」は、人的資本の重要性を訴えた「人材版伊藤レポート」をさらに発展させ、具体的な施策や視点を提示するものになっている。ここでは、その内容を解説する。
(参照:経済産業省「人材版伊藤レポート2.0」

経済産業省が公表する人材戦略の実践方法のレポート
「人材版伊藤レポート2.0」は、経済産業省が開催した「人的資本経営の実現に向けた検討会」の報告書であり、企業が取り入れやすいようガイドする内容となっている。実践の手引きとしてぜひ活用してほしい。

3つの視点と5つの共通要素で構成されている
「人材版伊藤レポート2.0」は、「人材版伊藤レポート」で提示された3つの視点と5つの共通要素という枠組みに沿って、その実践ポイントを紹介する形で展開されている。
3つの視点と5つの共通要素は以下の通りだ。

【視点1】経営戦略と人事戦略の連動
【視点2】As is-To beギャップの定量把握
【視点3】企業文化への定着

【要素1】動的な人材ポートフォリオ
【要素2】知・経験のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)
【要素3】リスキル・学び直し(デジタル・創造性等)
【要素4】従業員エンゲージメント
【要素5】時間や場所に捉われない働き方

人的資本経営を具体化する際に重視したい8つのポイント
「人材版伊藤レポート2.0」では、前述の3つの視点と5つの共通要素の8項目で章立て、それぞれの実践のポイントを紹介している。その概要は以下の通りだ。

1. 経営戦略と人事戦略を連動させるための取組
最も重要な視点であり、この取り組みに着手することが人的資本経営実現の第一歩としている。具体的なアクションとしては以下の7つだ。
(1)CHRO(Chief Human Resourse Officer:最高人事責任者)の設置
(2)全社的経営課題の抽出
(3)KPIの設定、背景・理由の説明
(4)人事と事業の両部門の役割分担の検証、人事部門のケイパビリティ向上
(5))サクセッションプランの具体的プログラム化
(6)指名委員会委員長への社外取締役の登用
(7)役員報酬への人材に関するKPIの反映

2.「As is-To beギャップ」の定量把握のための取組
目指すべき姿(To be)を設定し、現在の姿(As is)とのギャップを定量的に把握することは、人材戦略が経営戦略と連動しているかを判断し、人材戦略を見直していくのに役立つ。具体的なアクションとしては以下の3つが挙げられている。
(1)人事情報基盤の整理
(2)動的なポートフォリオ計画を踏まえた目標や達成までの期間の設定
(3)定量把握する項目の一覧化

3.企業文化への定着のための取組
企業文化は人事戦略の実行を通じて醸成されるものであり、人事戦略策定の段階から目指すべき企業文化を見据えることが重要だとしている。具体的なアクションは以下の3つだ。
(1)企業理念、企業の存在意義、企業文化の定義
(2)社員の具体的な行動や姿勢への紐付け
(3)CEO・CHROと社員の対話の場の設定

4.動的な人材ポートフォリオ計画の策定と運用
人材ポートフォリオとは、人的資産の構成内容のことであり、どこにどのような人材が何人いるかを示したものである。現時点での人材やスキルを前提とするのではなく、経営戦略の実現という将来的な目標からバックキャストして、必要な人材の要件を定義し、採用・配置・育成を戦略的に進める必要がある。具体的アクションは以下の4つだ。
(1)将来の事業構想を踏まえた中期的な人材ポートフォリオのギャップ分析
(2)ギャップを踏まえた、平時からの人材の再配置、外部からの獲得
(3)学生の採用・選考戦略の開示
(4)博士人材等の専門人材の積極的採用

5.知・経験のダイバーシティ&インクルージョンのための取組
イノベーションの原動力となるのは、多様な個人の掛け合わせであり、専門性や経験、感性、価値観といった知と経験のダイバーシティを積極的に取り込む必要がある。具体的なアクションは以下の2つだ。
(1)キャリア採用や外国人の比率・定着・能力発揮のモニタリング
(2)課長やマネージャーによるマネジメント方針の共有

6.リスキル・学び直しのための取組
経営環境の急速な変化に対応するため、社員が将来を見据えて自律的にキャリアを形成できるよう、学び直しを積極的に支援することが重要となる。具体的アクションは以下の5つだ。
(1)組織として不足しているスキル・専門性の特定
(2)社内外からのキーパーソンの登用、当該パーソンによる社内でのスキル伝播
(3)リスキルと処遇や報酬の連動
(4)社外の学習機会の戦略的提供(サバティカル休暇、留学等)
(5)社内起業・出向起業等の支援

7.社内エンゲージメントを高めるための取組
社員が能力を十分に発揮するには、社員ややりがいや働きがいを感じ、主体的に業務に取り組むことができる環境の整備が重要になる。具体的アクションは以下の5つだ。
(1)社員のエンゲージメントレベルの把握
(2)エンゲージメントレベルに応じたストレッチアサインメント
(3)社内のできるだけ広いポジションの公募制化
(4)副業・兼業等の多様な働き方の推進
(5)健康経営への投資とWell-beingの視点の取り込み

8.時間や場所にとらわれない働き方を進めるための取組
働き方が多様化する中で、マネジメントのあり方や業務プロセスの見直しを含め、組織としてどう対応できるかが重要になる。具体的なアクションは以下の2つだ。
(1)リモートワークを円滑化するための、業務のデジタル化の推進
(2)リアルワークの意義の再定義と、リモートワークとの組み合わせ

内閣官房による「人的資本可視化指針」が発表され、さらなる推進が予想される

2022年8月30日に内閣官房の非財務情報可視化研究会から「人的資本可視化指針」が公表された。これは、資本市場への人的資産の情報開示のあり方についてまとめたものである。金融庁は23年度にも、上場企業に人的資本に関する情報を有価証券報告書に記載することを義務付ける方針を示している。こうした流れから、今後も人的資本経営のさらなる推進が予想される。

以下の記事では人的資本経営への企業の関心について調査した結果を紹介している。ぜひ参考にしてほしい。
36%の企業が「人的資本経営」を優先度が高い事項として議論

人的資本経営を推進することのメリット

ここであらためて、人的資本経営を推進するメリットについて説明しよう。

エンゲージメント向上や生産性向上に寄与する
1つ目のメリットは、企業が人材に投資をすることでエンゲージメントや生産性の向上につながることだ。能力を発揮しやすく、働きやすい環境を整えることで、離職率の低下にも結びつくだろう。

企業価値と社会的イメージの向上を促す
2つ目のメリットは、企業イメージが高まることだ。人材を大切にする企業だという印象を持たれれば、採用力が高まるだけでなく、社会的信頼の向上にもつながるだろう。

ESG投資による投資の可能性が高まる
3つ目のメリットは、自社が人的資本に投資をすることで、ESGの面で投資家からの評価が高まることだ。ESG投資への関心は年々高まっており、人的資本経営を推進し、積極的に情報開示を行うことは、資金調達力にも好影響を及ぼすのだ。

人的資本経営のためにすべき具体的な業務

次に、人的資本経営を実践するための具体的な業務について見てみよう。

経営戦略に人的資本の考え方を取り入れて企業内浸透を進める
人的資本経営を実践できる基盤を作るために、まずは人的資本経営の考え方を踏まえた上で経営戦略の策定を行う必要がある。CHROの設置やKPIの設定、人事情報基盤の整備など、経営層がイニシアチブを取ることが人的資本経営には欠かせない。

人的資本の強化に向けて従業員の能力強化に向けた教育環境を整備
研修制度の構築やリスキリングの環境構築など、従業員個々の能力を引き出すための教育環境を整えよう。また、人的ポートフォリオ計画のギャップ分析を定期的に行うなど、投資効果を見える化する仕組みづくりも必要になる。

従業員エンゲージメント向上に向けた取り組みを推進
従業員エンゲージメントを高めて、意欲的に働ける環境を作ることは、人的資本の価値向上につながる。経営理念やパーパス(存在意義)の浸透や、適正な評価制度の構築、ポストの公募制化といった施策を検討・実施するとともに、エンゲージメントサーベイなどを活用して定量的に計測できる環境を整えよう。

働き方の多様化を進めるとともにマネジメント力を強化する
時間や場所に捉われない働き方の推進や、多様な人材が活躍できる環境の整備も重要だ。多様な知と経験を取り込むことは、イノベーションの原動力となる。同時に、多様な人材・働き方に対応できるよう、マネジメント力の強化も必要だ。

人的資本経営を網羅的にサポートするサービスを紹介

最後に、人的資本経営の推進をサポートしてくれるサービスを紹介しよう。

アドバンテッジ ウェルビーイング DXP
人的資本の情報開示に向けて人事労務データを一元化管理できるプラットフォームだけでなく、課題に合わせたソリューションも提供している「アドバンテッジ ウェルビーイング DXP」。健康経営支援や、エンゲージメント向上、ハラスメント防止対策など、人と組織に関するさまざまな課題に対応。課題の発見から、施策の提案・実施、効果検証までワンストップで支援してくれる。
https://www.armg.jp/solution/info/advantage_well-being_dxp/

人的資本経営支援ソリューション
パソナのグループ企業で人材育成事業などを行うキャプランが提供する人的資本経営支援ソリューションは、広範な支援が魅力。人的資本の情報開示に向けた戦略策定や可視化プラットフォームの導入支援、課題に基づいた育成計画の策定・研修実施、ISO30414取得に向けたコンサルティングまで対応可能だ。
https://lp.caplan.jp/houjin/humancapital/01

CHROFY
「CHROFY(クロフィー)」は、人的資本経営をデータで支えるサービスを提供。現在利用中の人事情報・労務管理情報・給与情報といった複数のシステムのデータから統合データベースを構築し、社内外に報告するためのレポートを自動で作成できるようにしてくれる。50種類を超える豊富な分析手法に対応しているため、企業のKPIに適合した運用が可能だ。
https://corp.chrofy.co.jp/home

まとめ

一気に広まりを見せる人的資本経営は、決して一過性のものではなく、企業の持続的な成長に欠かせないものとして世界中で定着しつつある。従来の経営手法からの変革が求められる中で、すでに上場企業での情報開示義務化の方針が示されており、人的資本経営の推進は急務となっている。今回紹介したポイントやサービスを参考に人的資本経営を進め、企業価値の向上につなげてほしい。