いまこそ「人的資本経営」に注目が集まる理由【前編】~コロナ禍を経て再認識された変化に対応する源泉は人という事実
この数年「人的資本経営」に注目が集まっている。改めて「人的資本経営」とは何か。どう実践していけばよいのか。バックオフィス担当者がしなければならないこととはなにか。株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRM 統括部 統括部長 梅田真治氏に解説してもらった。
人材を「資本」として捉える「人的資本経営」
「人」を知識やスキルなどの付加価値を生み出す資本とみなす「人的資本」。ヨーロッパでは1990年代から意識されてきたというが、この10年ほどで労働市場の変化や経済成長への課題感から数値化が求められるようになった。2013年には欧州統計家会合(CES)において人的資本測定タスクフォースが設置され、2016年には国際連合欧州委員会が「人的資本の測定に関する指針」を公表している。
この言葉に「経営」を加えた「人的資本経営」が、今回のテーマだ。
経済産業省によれば、「人的資本経営」とは、「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」。世界的に注目されているが、日本でトレンド化したのは、経済産業省が「人材版伊藤レポート(持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書)」を2020年9月に公表したあたりからだろう。2022年5月には具体的な取り組みを示した「人材版伊藤レポート2.0」も公表されている。
投資の観点から「人的資本」が世界的に重視されつつある
日本はもちろん、グローバルで注目されるのは、「投資」が絡むからだろう。
労働人口減少、環境問題が取りざたされる中、人が生み出す知的財産などの無形資産が企業価値に占める割合は高まり、競争力の源泉とみなされるようになってきている。つまり中長期的にESG(Environment=環境Social=社会、Governance =ガバナンス)経営を適切に行えている企業かどうかが、投資判断の上で大きくなってきたのだ。株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRM 統括部 統括部長 梅田真治氏も「このところの人的資本経営の情報開示は投資家からの期待という側面が強い」という。
コロナ禍により求められた変化。対応するための源泉は“人”
梅田氏によれば、日本でも世界でも
①株主資本主義からの脱却。ステークホルダー資本主義
②無形資本が企業価値に与える影響への着目
③働く人の就業意識の変化。社会的価値・貢献>ビジネス
の3点から人的資本経営が注目されている。
「リーマンショックから15年を経て、企業のあり方が短期利益追求から社会への貢献や価値創造へと徐々に転換してきています。その中で環境保護や社会的な責任に関する規制やガイドラインが示されるようになり、企業はこれまで以上に、自社の従業員や社会全体に対しての貢献・利益という観点を意識することが求められるようになっています。そして無形資本が企業価値に与える影響が大きくなる中で、人的資本の重要性も高まってきているのです」
特に日本では少子高齢化による労働人口の減少が喫緊の課題となっており、多様な労働の参加を促進する必要があるのはご承知の通り。働き方改革の推進が急がれているが、充分ではない。
梅田氏によれば、世界的にも気候変動の話も含め環境保護という側面での規制やガイドラインが提示され、その流れの中で、IFRS財団傘下の国際サステナビリティ基準審議会(International Sustainability Standards Board:ISSB)による人的資本に特化したガイドラインが2016年ごろから審議されるようになった。
2018年12月には国際標準化機構(ISO)が「ISO30414:社内外への人的資本レポーティングのガイドライン」を出版。これは内部および外部のステークホルダーに対する、人的資本に関する報告のための指針だ。労働力の持続可能性をサポートするため、組織に対する人的資本の貢献を考察し、透明性を高めることを目的として発表されたという。加えて新型コロナウイルス禍が与えた影響もある。中期経営計画の前提が崩れ去った組織も多かっただろう。
「計画を立てて着実に遂行すること以上に、予期せぬ変化に対して適応できるかどうかが問われたのがコロナ禍でした。その中ではっきりしたのは、変化への適応の中心は人だということ。その意味で、人的資本の重要性への認識がより高まっています」