2023年中小企業実態基本調査を読み解く~今後の予算立てや採用の参考に~
2024年3月29日、2023年の中小企業実態基本調査(2022年度決算実績)速報が取りまとめられた。全国の中小企業における過去3年間の従業員数や資産、売上高、設備投資の状況などが分かる資料なので、ぜひ自社の今後の方針を決めるときの参考にされたい。
中小企業実態基本調査とは
中小企業実態基本調査とは、中小企業庁が11産業、約11万社を対象に毎年行っているもので、企業の概要や決算、設備投資、研究開発、事業承継など12の事項を対象に調査票がつくられ、対象企業が自ら記入返送する形で回答を行う。
調査期日は毎年8月1日で、提出期限は1ヶ月後の9月1日。よって2023年版なら、2022年度の決算実績などが反映されたものとなる。
この調査では、過去3年間における調査対象企業の従業員数、資産及び負債、純資産、売上高及び営業費用の推移が分かる。よって中小企業にとっては、2024年度以降の予算立てや採用に向けて参考となるだろう。また事業継承や設備投資の状況も分かるため、取引先の状況を知る上でも活用したい資料だ。
※参考元:中小企業実態基本調査(中小企業庁)
令和5年中小企業実態基本調査速報(要旨)
速報は「従業員数」「負債・純資産」「売上高及び営業費用」「設備投資とリース」「事業承継」の5章に分けてデータを抽出、分析している。それぞれの内容をまとめると次の通り。
※画像元:令和5年中小企業実態基本調査速報(要旨)(令和4年度決算実績)
一方で減少しているのは「生活関連サービス業、娯楽業」「宿泊業、飲食サービス業」の2分野。ただ、総務省統計局労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果の要約によれば、「宿泊業,飲食サービス業」の平均就業者は前年と比べて増加している(※1)。これは労働人口全体の統計データのため、全体としては好調だが、中小企業に限っては従業者数が減少していることが考えられる。
※1 参考元:労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果の要約(総務省)
資産及び負債・純資産
法人企業の1企業あたりの資産は3.7億円で、前年度の3.3億円から11.5%増加。負債は1企業あたり2.2億円、純資産は1.6億円となった。産業大分類別の資産トップは「不動産業、物品賃貸業」(6.3億円)。次いで「製造業」(6.0億円)、「卸売業」(5.8億円)で、特に卸売業は流動資産の割合が多いのが目立つ。
売上高及び営業費用
中小企業の1企業あたりの売上高は2.1億円(前年度比15.9%増)。特に増加が目立つのは「運輸業」「郵便業」(前年度比31.1%増)、「サービス業(他に分類されないもの)」(同25.2%増)などだ。産業大分類11産業全てが売上増加傾向にある。
経常利益で見ると、1企業あたり978万円と前年度比で12.4%の増加。特に増加傾向にあるのは「不動産業、物品賃貸業」(前年度比27.8%増)を筆頭に9産業となった。
企業が事業活動によって生み出した付加価値額は、1企業あたり9671万円(前年度比9.7%増)。「不動産業、物品賃貸業」の23.4%増を筆頭に、10産業で増加傾向にある。
設備投資とリース
設備投資を行った法人企業の割合は21.9%で、前年度よりも0.3ポイント減。また新規リース契約を行った法人企業は12.5%で、前年比0.7ポイント増となった。新規リース契約を行った企業が増加しているのは「建設業」(2.6ポイント増)、「生活関連サービス業、娯楽業」(同1.7ポイント増)など。
事業承継
企業の後継者不足は深刻化しつつある。帝国データバンクが全国・全業種約27万社を調査した結果、後継者が「いない」、または「未定」とした企業が14.6万社にのぼり、全国の後継者不在率は53.9%となった(※2)。
中小企業実態基本調査では、中小企業の社長(個人事業主を含む)の就任経緯について調査がなされた。結果、「創業者」が47.6%、「親族内での承継」が41.4%となった。「創業者」は「学術研究、専門・技術サービス業」(72.1%)などで高く、「親族内での承継」は「製造業」(58.1%)l「不動産業、物品賃貸業」(56.0%)などで高い。
なお、事業承継の意向を尋ねた結果も出ており、親族内での承継を考えている企業が多いなか、「現在の事業を継続するつもりはない」との答えも多くみられた。
まとめ
従業員数・売上・付加価値など全体的に増加傾向がみられたが、設備投資を控える傾向にあることをみると、先行きの不透明さや借入負担の大きさに不安を感じている企業が多いのではと推測できる。
ただ、2023年4月に行われた帝国データバンクの意識調査によると、設備投資計画がある企業は、「すでに実施した」「予定している」「実施を検討中」を合わせて60.5%。調査結果から、今後デジタル投資や省エネ対策のための投資が上向くと予測されている(※3)。
自社の方針を決める際には、このたびの実態基本調査を参考にしつつ、経済状況を見据えながら時代に即した対応を行っていきたい。
※3 出典元:特別企画 :2023年度の設備投資に関する企業の意識調査(TDB景気動向調査)