バックオフィスを「価値創造部門」に── 三菱総研グループが提唱する新時代の人材育成
生成AIの普及やデジタル技術の進化に伴い、バックオフィス部門でも人的資本を強化する動きが活発化している。最新のITを使いこなせる人材を育成・確保することが企業活動の根幹を支え、事業発展に大きく貢献するという考えが、今や経営戦略上の重要な要素の一つとなっている。こうした人材を取り巻く課題に対し、民間企業はどのように向き合うべきなのか──。株式会社三菱総合研究所の石井和氏と、三菱総研DCS株式会社の古屋裕久氏に、三菱総研グループが提唱する人的資本強化の重要性や具体的手法などについて話を聞いた。
専門的な知見・データと技術力・開発力を融合
──まずは両社の事業内容について教えてください。
株式会社三菱総合研究所 人材・キャリア事業本部長 石井和氏(以下、石井) 三菱総合研究所は、1970年創業の総合シンクタンクです。三菱の創業100周年を機に、グループ各社の共同出資により設立されました。官公庁や自治体、民間企業、各種団体などに向けて、幅広い分野の調査・研究、コンサルティングなどを行っています。政府への提言など官公庁事業が中心と思われがちですが、売上高ベースでは官民比率が概ね7:3という構成です。2020年に50周年を迎え、経営理念を刷新し、三菱総研DCSとともに「社会課題解決企業グループ」という新たな姿を目指して取り組んでいるところです。
三菱総研DCS株式会社 執行役員 産業・公共部門 サービス事業本部長 古屋裕久氏(以下、古屋) 三菱総研DCSは、三菱総研グループに属するシステム開発企業です。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)の受託計算部門から分離独立した会社で、ソフトウェアの設計・開発・運用やコンサルティング、人事給与計算のアウトソーシングサービス、DX推進支援など総合的なITソリューションサービスを提供しています。創業ビジネスである給与計算事業は多くのお客様に支えられ、今では月間約55万人の給与処理を手掛けるまでに成長しました。
──グループ間ではどのような連携をされているのでしょうか。また、それによりどのようなシナジーが生まれているのでしょう。
古屋 三菱総研DCSではサービスの開発・設計やコンサルティングなどに、三菱総合研究所の調査・研究結果を活用しています。特にIT関連サービスにおいては、総合シンクタンクとして三菱総合研究所が保有する知見や各種データを活用し、三菱総研DCSの技術力・開発力を融合することで、付加価値の高いサービスを生み出し、提供しています。
石井 三菱総研グループでは、VCP(Value Creation Process=価値創造プロセス)経営に取り組んでいます。グループ一体となり、【研究・提言】【分析・構想】【設計・実証】【社会実装】までの一貫した連鎖的な好循環を目指す取り組みです。グループ内で機能分担・連携し、このプロセスを循環させることで、お客様の経営課題・社会課題解決に貢献できるよう努めています。
古屋 VCPの考え方に基づき、シンクタンク・コンサルティングサービスとITサービスを、一気通貫でサービス提供できる点は、両社の距離感が近いからこそ実現できています。これは他社には絶対にマネができない圧倒的な強みです。
三菱総研グループのVCP経営
出典)三菱総合研究所HPより作成
デジタル人材を育成して管理部門を戦略的に強化
──昨今話題の生成AIをはじめデジタル技術の活用により、仕事そのものの概念が大きく変わる時期が来ているのではないかと思っています。民間企業のバックオフィス部門における環境の変化について、お二人はどのように捉えていらっしゃいますか。
古屋 給与計算に関して言えば、少し前までは表計算ソフトなどを活用して、人海戦術で対応することが多かったのですが、近年はシステムを導入することが当たり前となっています。企業によっては業務自体をアウトソーシングする企業も増えています。これは“テクノロジーの進化”による効果を誰もが享受しやすくなった側面もありますが、大局的な視点で見れば、バックオフィス部門に求められる業務の量や質が年々増加傾向にあることに加えて人材不足が加速していることが大きな要因です。
石井 一昔前まで“縁の下の力持ち”的な存在として捉えられていましたが、社会環境や事業環境が大きく変化していく中で、今やバックオフィス部門を戦略的に強化しなければ、企業としての事業成長は見込めないほど重要なポジションになっています。そのための手段として、人事・総務・法務などの管理部門でも、AIの活用やDXによる業務効率化が進められています。
古屋 バックオフィス部門でも、AIやDXの活用に関しては攻めの投資が当たり前のように求められるようになっています。この投資の差が数年で大きな差となり、事業運営に直結することでしょう。
──DX推進はバックオフィス部門における最重要課題のひとつですが、ツールなどを使いこなすにはある程度「人」への投資も必要ですね。
古屋 おっしゃるとおりで、ツールを導入するだけでは意味がなく、それらを使いこなして初めて価値を生み出すものです。あくまで人の作業を支援するためのものなので、それらを使いこなす人材の育成や、従業員の考え方そのものを変えることが必要です。
石井 これからは「ノンルーティン人材」や「イノベーティブ人材」の育成が欠かせません。AIが得意とする大きな判断を必要としない定型的な業務はAIに任せ、人間、は新しいことへのチャレンジや、創造的なタスクの実行ができる人材をいかに増やすかに注力していくべきです。
「FLAPサイクル」に基づいて学びの機会を提供
──新時代の人材育成には、どのような心構え、そして企業としての仕組みが必要なのでしょうか。
石井 三菱総合研究所では「FLAPサイクル」を提唱しています。自らの適性や業務に必要な要件を知り(Find)、キャリアシフトやスキルアップに必要な知識を学び(Learn)、自らが目指す方向へと行動し(Act)、新たなステージで活躍する(Perform)という一連のサイクルのことです。これを社会全体、企業内、個人単位でスムーズに循環させていくことが重要です。企業においては、経営戦略・事業戦略に基づき、将来的に必要とする人材の質・量をしっかりと見定め、そのために人材ポートフォリオを組み替えていく取り組みが必要になりますね。人材育成はそのカギとなる手段です。
──バックオフィス部門の強化において、三菱総研グループが貢献できる点はありますか。
石井 企業・組織の人材戦略のコンサルティング、人材育成やキャリア形成を支援するためのコンサルティング業務を行っています。リスキリングに関するセミナーや勉強会を定期的に開催するなど、人的資本の強化に向けた情報発信も積極的に行っていますので、ご興味のある方はぜひ一度チェックしてみてください。
古屋 従業員の皆様が中身のあるリスキリングを継続的に行うにあたり、企業はどのような支援を行うべきかという課題もありますよね。「何のためにやるのか」という明確な意味づけと適切な場を提供することが成功のカギだと思います。
石井 そういう意味では先ほどご紹介した「FLAPサイクル」に基づき、「人的資本を高めることで企業価値が上がる」というロジックを経営から社員まで落とし込むことが大切です。経営は、経営戦略に即した人材ポートフォリオの組み替えの必要性や求める人材像・要件を社員に伝えるともに、社員一人一人のキャリアプランとのバランスも考えながら、人材育成を行うことが重要です。三菱総研グループではそうした課題を解決するための戦略づくりから実践のお手伝いもさせていただいています。
──次の10年に向けて、バックオフィス部門が優先的に取り組まなければならないことは何だとお考えですか。また、その実現に向けてどのような支援が可能でしょうか。
石井 この先5年、10年でバックオフィスは“価値創造部門”に変わらなければいけないと感じています。やはり企業の基盤となるのは人事、経理、総務などのバックオフィス部門だと考えており、この強化が企業としての強さを大きく左右することになります。
先ほどご紹介した人材戦略に関するコンサルティングに加え、イノベーション人材育成のサービスなども提供させていただいています。また、デジタル人材の育成に関しては、コンサルティングと人材育成コンテンツの一体的な提供を目的に、サイバー大学様と包括的な業務提携を検討中です。共同コンテンツの開発なども進めており、より幅広い学びの機会を提供できるよう努めています。
古屋 総合シンクタンクとしての知見と、高度なITソリューションを一気通貫で提供できるのが三菱総研グループの強みです。バックオフィス部門の変革を支援するため、今後はグループ内の連携をより強化し、提言や助言にとどまらない事業支援を手掛けて参ります。情報収集の場としても、是非ご活用ください。