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元企業人社労士から見た企業を取り巻く今~マネジメント育成編~

2020.03.13

マネージャーの使命(ミッション)とスキル・知識

 私は現在、社会保険労務士として、中堅・中小企業における「人財育成」の領域で仕事をさせていただいています。その多くは、マネジメントに携わる方々、これから携わろうとする方々に対して、Off-JT(=研修)で「管理職(前)研修」を行うというものです。この研修の中では「マネージャーとして、これだけは心に留めておいて欲しい」との想いで「使命」を、また、この使命を達成するために身に付けておくべき「スキル・知識」をお話ししています。この「スキル・知識」は「マネージャー」として十分にその役割を果たしていただくために必要となるもので、これまで「プレイヤー」としてのキャリアの中で習得された「スキル・知識」とは、その本質的な内容が異なるものだと考えています。
 前回の繰り返しとなりますが、私の考えるマネジメントに携わる方々の「使命」は、
ⅰ)業績の達成(目標の設定も含めて)
ⅱ)メンバー(部下)の育成
ⅲ)自己の成長

の3点です。また「スキル・知識」は「カッツモデル(※1:図1参照)」に倣い、プレイヤー時代の「テクニカル中心のスキル」よりも、「(課題の発見・及びその解決が求められる)コンセプチュアルスキル」の比重が増すこと、また対人関係能力である「ヒューマンスキル」の重要性は変わらないことをお伝えしています。

図1:カッツモデル(Robert L. Katz ハーバード大教授が提唱)(※1)
図1:カッツモデル(Robert L. Katz ハーバード大教授が提唱)(※1)

 以下、カッツモデルに関する説明を引用します。(※2)

 テクニカルスキルは「仕事遂行スキル」と呼ばれます。テクニカルと言うと、技術と受け止めそうですが、技術に限りません。技術も含みますが、商品知識や使い方、販売先、業界知識、他社との競合のこと、今後の方向など、あらゆることに関して承知して、実際の仕事を推進していくためのスキルが必要だというものです。

 二つ目のヒューマンスキルは「対人関係能力」と呼ばれます。上司や部下、同僚、お客様、得意先、関係先など、仕事を進めていく上で多くの人と接触しますが、そういう人たちとのコミュニケーションや人間関係を良好に保つスキルということです。ちなみに、コミュニケーションはラテン語で「共通する何かを持つ」という意味ですが、言葉だけでなく、正しく共通認識を持つということも入っています。

 三つ目が、コンセプチュアルスキルで「概念化能力」と呼ばれるものです。仕事を遂行していく上では、目の前の様々な事象や状況を的確に捉え、問題の本質を見極め、手を打っていくわけですが、それらを整理し、まとめ上げ、何をするかなどを分かりやすくすることなども含まれます。

 コンセプチュアルスキルは、コンセプト化する能力とも言えますが、コンセプトはもともとコンセプション、つまり赤ちゃんが生まれる妊娠から来ています。無から有を産み出す、形のないものを形作るということです。物事は大概の場合ロジカルの捉え、分析しますが、そこで終わりではなく、周囲の人に分かりやすくする、共感を呼ぶ工夫をする、行動を動機づけるというというようなクリエイティブなところも含まれています。
    
※1)出典サイト:bizhint.jp
「コンセプチュアルスキルとは?構成要素や高め方、参考書籍もご紹介 | BizHint(ビズヒント)- 事業の課題にヒントを届けるビジネスメディア」
https://bizhint.jp/keyword/69994

※2)出典サイト:Tactical Media
「カッツの理論とは?」
https://tactical-media.net/%E3%82%AB%E3%83%83%E3%83%84%E3%81%AE%E7%90%86%E8%AB%96%E3%81%A8%E3%81%AF/


 私がお手伝いしている人財育成部門の方々からのリクエストが多いのは、やはり「リーダーシップ(の開発)」や「コミュニケーション(能力)」です。こうしたヒューマンスキルの育成が重要であることに異論はありませんが、個人的には今後は「コンセプチュアルスキル」にも焦点を当てていくべきではないかと考えています。何故なら「VUCA(※3)の時代」と言われる現代においては、リーダー・マネジメント層には「正解」などない問題解決が求められる訳ですから、問題・課題の発見やその解決に向けて組織を動かすスキル・知識こそ重要になってくると考えるからです。もっとも、コンセプチュアルスキルに関する研修を実施するに際しては、
ⅰ) 研修自体のプログラミングが難しいこと
ⅱ) 研修内容の習得が難しいこと
ⅲ) 研修成果を実際の職場で活かすことが難しいこと、従って研修の効果測定も
   難しいこと

等を考えれば、企業の人財育成を担っている方々にとっては、こうした研修を企画することが、一種の「冒険」になってしまうのかもしれません。これらの課題をクリアできていないが故にキチンと研修企画を提案できていない、私自身の「至らなさ」も大いに反省すべきとも考えますが。

※3)VUCA
V:Volatility (不安定性) U:Uncertainty (不確実性)
C:Complexity (複雑性) A:Ambiguity (曖昧さ)

スキル・知識があれば十分なのか?

 最近、「スキル・知識」に関する研修を提供していながら、ふと私自身が「これで良いのか?十分なのか?」と不安に思うことがあります。テクニカル〜ヒューマン〜コンセプチュアルといった「スキル・知識」を身に付け、その上で一定のトレーニングを積めば、立派なマネジメントができるようになると錯覚されないかという懸念です。もちろん、マネジメントを行うために、最低限のスキルや知識、テクニック等の習得・トレーニングは必要でしょう。しかし、それはマネジメントの必要条件ではあっても、十分条件とはなり得ないのではないかと思うのです。
 では、何がさらに求められるのか? それは……。
 これまで私は、色々な企業の人財育成に携わっておられる方々と意見交換をさせていただきました。マネジメントに関して、すべての方が口を揃えて「これだ!」と仰るという訳ではなく、むしろ曖昧な表現をされる場合が多かったと思います。私なりにおおよそ話をまとめてみますと、企業の人財育成に携わっておられる方々は、リーダー・マネジメント層に対して、マネジメントに携わる「前段」として「こうあって欲しい」「せめてこんな考え方は持っておいて欲しい」とお考えになっていることがあるように思えます。
 それは、まず第一に「人間性・人間力」、「倫理観・道徳観」といった、組織を牽引する立場に立つ人間として有しておいて欲しい、人間的な魅力であったり、社会人として最低限備えておいて欲しかったりする価値観のようなもの。そして第二には「企業の理念・Visionへの共感」という、共に同じ会社で働く限りは、担う仕事の内容こそ違え、共通の目標に向かって仕事をしているという、一体感・連帯感のようなものを指しているように思います。

図2:マネジメントに求められる素養
図2:マネジメントに求められる素養

Layer1 人間性・人間力、倫理観・道徳観
Layer2 経営理念・Vision
Layer3 スキル・知識

 ただ、Layer1「人間性・人間力(倫理観や道徳観等を含めて)」に関して言えば、企業・組織においてマネジメントに携わる方々に対し、いかに納得いただき、能力を育んでいただくかということは、とても難しい問題です。そうした人間性や道徳観を育むプログラムなど、そもそも企業・組織が準備すべきものかという疑問も湧きますし、逆に「そうした素養を備えた人財だからこそマネジメント職に登用したのだ」と考えることもできるでしょう。  
 また、Layer2「経営理念・Visionへの共感」にしても、経営トップ自らが企業理念を体現した経験談等を語る機会を設ける、従業員との対話の場を設ける等いくつかの手法はあるとは思いますが、一日二日で定着するものではないでしょう。企業文化・組織風土にも密接に関連するため、日々の業務の中での何気ない行動や振る舞い、考え方や発言を通して、また階層を経由して伝えられ育まれるものだと思います。それ故、企業・組織に根差した方法、例えば今現在実際に行われている「朝礼」という場・機会や、多くの企業で用いられている「目標管理」制度、最近流行のOKR、1on1等の「伝える・話し合う」機会を活用し、目的・目標を定めて計画的・戦略的に進める必要があると考えます。

難しいからこそ……

 いずれにせよ、私のような個々の企業から見れば門外漢となる研修講師にとっては、潜在的にはスキル・知識の習得よりも要望の多い(≒重要と考えられている)Layer1、2に携わることができれば、それは紛れもなく私のビジネスにとっての「キラー・コンテンツ」になると思っているのですが……。