在宅介護か施設入居か。介護離職を防ぐために知って おくべき介護サービスの基礎
前回は「介護休暇」「介護休業」取得者に、介護をするな!と伝えるのが人事部の役目、復職に向けた体制の整えかた」と題して、休業中に介護体制を整えるための心構えと職場復帰までのステップについて解説しました。
では実際に、親の介護が始まったらどのようなサービスを使えばよいのでしょうか。介護サービスは大きく二種類、「在宅サービス」と「施設サービス」に分かれます。どちらを選択しても仕事と介護を両立することはできるでしょう。ただし、在宅介護には限界があるということも理解しておかなければなりません。
今回は在宅と施設の大まかな違い、代表的な在宅サービスのご紹介と在宅介護の限界についてポイントをまとめます。管理職の方が介護の知識を持っていることで、親の介護がはじまった部下の方が、少しでも安心して仕事と介護の両立に前向きに取り組めるような風土になることを期待したいです。
在宅か施設か。介護離職防止の観点で考える
・在宅サービス
在宅サービスとは、自宅での生活を継続するために必要な介護サービスを受けること。みなさんもホームヘルパーの訪問や、デイサービスの車に乗る高齢者の姿を目にしたことがあるでしょう。現在、要支援・要介護高齢者は600万人以上にものぼりますが、その大半は在宅サービスを利用しながら生活しています。後述する各種サービスを組み合わせることで、仕事との両立を実現します。
・施設サービス
施設サービスは、介護施設に住み替えてスタッフのサポートを受けながら生活を送ります。食事・入浴・排せつを基本とする必要な介助がすべて受けられ、家族の介護負担をほぼゼロにすることが可能です。施設入居と聞くと、寝たきりの高齢者をイメージする方が多いかもしれません。しかし、近年は介護施設も多様化し、元気な高齢者を対象とした施設も増加中。介護予防をしながら充実したシニアライフを送る人も増えています。
介護負担を軽減する在宅サービス①訪問サービス
在宅サービスには、自宅に来てもらう「訪問サービス」と、施設に通う「通所サービス」の大きく二種類に分類されます。それぞれの代表的なサービスをご紹介します。
まず訪問サービスは、ホームヘルパーや看護師、理学療法士などの専門職が要介護高齢者の自宅を訪問して提供するサービスです。
■訪問介護(ホームヘルプ)
在宅介護をするうえで欠かせないサービスの一つ。スタッフが要介護者の自宅を訪問して介助を行う。着替えや入浴、排せつなどの「身体介護」と、買い物、掃除・洗濯といった「生活援助」に分かれ、一日に複数回利用するケースもある。
■訪問看護
看護師が訪問して療養生活をサポートする。訪問看護が提供するサービスは、血圧・脈拍測定などの健康チェックから、注射・点滴などの医療処置。ほかにもリハビリテーション、低栄養の改善、認知症介護のアドバイスまで多岐に渡る。
■訪問リハビリテーション
理学療法士や作業療法士といったリハビリ専門士が訪問し、運動機能の改善や要介護者の自己実現をサポート。身体機能の改善だけでなくQOL(生活の質)向上を目的としている。通院が難しい高齢者など、主治医が必要と判断した場合のみ利用可能。
■訪問入浴介護
家族介護では入浴できなかったり、自力での入浴が困難な要介護者が対象。看護師を含む専門スタッフが持ち運び式の浴槽を使って入浴支援を行う。アパートやマンションでも2~3畳程度のスペースがあれば実施可能。体調によっては入浴を控えて清拭(せいしき)を行う。
介護負担を軽減する在宅サービス②通所サービス
通所とは、施設に通いレクリエーションや機能訓練、食事の提供を受ける介護サービスのこと。同世代の高齢者が多く、利用者同士の交流も盛んなため「孤独や自宅の閉じこもりを防ぐ」という役割もあります。
また介護者としては、通所サービス利用中は介護から解放されるので、その間は家事や仕事に集中できるというメリットもあります。もちろん何もせず休息することも大切です。
■デイサービス(通所介護)
心身の活性化や身体機能の維持を目的とし、レクや機能訓練、食事や入浴サービスを提供。営業時間は朝~夕方頃までが多く、夜間(20時頃)まで営業するところも。利用中は家族が仕事や休息にあてられるという側面もあり、介護サービスのなかでも特に利用者が多い。
■デイケア(通所リハビリ)
医師や看護師、リハビリ専門士が配置され、専門的なリハビリを受けられるデイサービスのこと。一般のデイサービスと同じく送迎車で通い、リハビリだけでなくレクリエーションや食事の提供、入浴サービスも受けることができる。
■認知症対応型デイサービス
認知症の診断がある要介護高齢者を対象としたデイサービス。一般のデイとサービス内容は近いが、定員が12名と少数でスタッフの人員配置も手厚く個別ケアにも注力している。管理者は認知症専門研修を修了しており、より認知症に特化したケアが受けられる。
■ショートステイ(短期入所生活介護)
老人ホームなどの介護施設へ短期間宿泊し、身の回りの介護や支援を受けながら生活するサービス。介護者の出張や冠婚葬祭、退院直後の一時的な利用など様々な場面で利用される。介護疲れのレスパイト(休息)のために定期的に利用する家庭も多い。
生活環境を整えるその他の介護サービス
要介護者の暮らしを支えるのは訪問や通所サービスだけではありません。「福祉用具の レンタル」にも介護保険が適用され、その対象は全部で13種類あります。
例えば、標準的な車いすをレンタルすると定価で月5,000円ほどかかるのですが、保険適用で一割負担の方であれば500円で済みます。福祉用具は身体に合うものを選ぶことが大前提。身体状態は刻々と変化するので、購入はせずそのときに合ったものをレンタルする方がよいのです。
また、「廊下に手すりを付けたい」「玄関の段差を解消したい」「トイレを和式から洋式へ」といった住宅改修にも介護保険が適用されます。こちらは住宅一戸につき20万円まで支給されるのですが、所定の手続きが必要となるので、介護休暇・休業中にケアマネジャーや業者へ相談するのがよいでしょう。
在宅介護の限界を迎える前に施設入居の検討を
冒頭で「在宅介護には限界がある」とお伝えしましたが、限界とはどういった状況かイメージはつきますか?加齢とともに身体機能や認知機能が衰え、誰しも「できないこと」が増えていくもの。どんなに栄養や薬をとっても、リハビリや脳トレをしても、身体の衰えを完全に止めることはできません。
介護の初期は週1回のホームヘルパーで間に合っていたはずが、数年後には寝たきりで常時見守りが必要になることも。また、認知症の症状が進行し「トイレ以外の場所で便をする」「外出先から帰ってこれない」といった場合も見守りが必要となります。
下記は東京、神奈川、広島など7自治体の調査結果によるものです。介護が進行し要介護3以上になると、家族は「認知症への対応」や「夜間の排せつ」に対する不安が大きいことを表しています。
常に目が離せない状況で、果たして親をサポートしながら仕事で成果を出し続けることは可能でしょうか。加えて、夜間に何度もトイレ介助で起こされて不眠が続くと、肉体的・精神的負担も限界に達し、介護者も共倒れするケースも。これが在宅介護の限界なのです。大切なのは、この限界を迎える前に施設入居の検討をすることです。
下記のグラフも同じ調査結果によるもので、要介護度が重くなることで介護負担が増え、施設検討者が増加することを表しています。
もちろん、限界を迎える前に持病の悪化や老衰で亡くなり介護期間が終了することもあるでしょう。しかし、介護者は誰しも共倒れをする可能性があるということだけは忘れないでいただきたいと思います。
次回は介護サービスの基礎・第二弾として、家族の介護負担をほぼゼロにする「施設サービス」について解説します。