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バックオフィスの変革は稟議から。デジタル稟議がもたらす未来

2020.12.14

 今までワークフローを通じてバックオフィスの変革についてお伝えしてきましたが、そのなかでも本丸となるのが「稟議」です。稟議は企業の意思決定そのものであり、
それゆえ重要度も高い。そして、どの企業、どの部署でも稟議は日常的に行われています。したがって、この「重要であり」「頻度が高い」稟議を変えていくことが、バックオフィス、そして企業にとってインパクトを与えることになると考えています。
 本稿では、稟議に焦点を絞り、どのようにあるべきか見ていきたいと思います。

脱ハンコをもう一度捉え直す

脱ハンコをもう一度捉え直す

 脱ハンコ化は望ましい流れだと思います。しかし、現在表立っている議論では、単純に
ハンコをやめることが目的となっているように感じています。本質はそこではありません。今までの慣習において、意思表示にハンコを用いていたとすれば、意思表示をハンコ以外の何で行うのかという本質を議論すべきです。

 誰が、何を、どのように確認し、そして最終的に判断するかという「行為そのもの」は、ハンコがあろうがなかろうが必要です。目的は、その行為が誰にとっても扱いやすく、効率化できることです。私は、一連の脱ハンコ化をきっかけに、どういう意思表示の仕組みがあり、対象者がどう確認したのかがワンセットであるべきだと思います。

 ビジネスにおける業務的なものは効率化が重要であり、脱ハンコも推進されるべきです。ただし結婚や出生時の申請など、プライベートなものは伝統的な意味合いもあり、こちらに関してはハンコが重要視されるべきでしょう。あるべき姿は、今回の脱ハンコ化をきっかけに意思表示の本質を議論すること。そのうえで業務を設計することが大切です。

 コロナ禍におけるテレワークの浸透で、遠隔で打ち合わせなどを行うコミュニケーションが当たり前となり、訪問や出張も減り、一方で在宅勤務は増えました。これはデジタルが
生み出した利便性ですが、直接会うことがゼロになったかといえばそんなことはありません。出社に関しても同様です。

 それは、対面コミュニケーションならではのメリットもあるからです。紙とハンコの問題にも同じことがいえます。たとえば、提案書は画面で見るだけではなく手元に紙としてあったほうが、説得力が増すといったケースもあるでしょう。デジタル化には、選択肢を残して臨機応変に対応できる柔軟性が大切だと思います。

バックオフィスDXの一歩目が「デジタル稟議」

バックオフィスDXの一歩目が「デジタル稟議」

 コミュニケーションのデジタル化について述べましたが、これはあくまでインフラが整った状態。次のステップはこのデジタル基盤を使って、ビジネスを今まで以上に円滑に進めることです。より具体的に言えば、最新テクノロジーの力で、ビジネスの仕組みや経営を再構築すること。効率化を図り、生産性とともに競争力も上げる。これがデジタルトランスフォーメーション(DX)の本質です。

 そのためにはまず、社外におけるビジネスの効率化が欠かせません。テレワークの浸透とともに請求書や契約書の電子化が一気に進み、その結果として物理的、人的コストが削減されました。また、業務のスピードアップが実現した、正確性がアップした、ログが残せて
紛失の恐れもなくなったなど、デジタル化のメリットが話題となっています。

 その一方、社内の効率化は何かという議論も生まれています。ここで押さえておくべき
テーマは何か。それは、事業やビジネスを企画提案し、承認や意思決定されるプロセスを見直すことです。この見直しが、社内のビジネス効率化において重要なポイントです。誰かが起案し、依頼して決定されるという一連の繰り返しが仕事であり組織で言えば稟議です。企画をはじめ、契約、購入、採用、事業提携など、多くの仕事には稟議があります。特に、新しい物事を起案するプロセスは稟議に集約されます。

 新しい物事の起案とはつまりイノベーションであり、企業の発展にはイノベーションが起こりやすくすることが大切だと考えます。そのためにはデジタル化により稟議を行いやすい環境を整え、新しいアイデアを生み出しやすくすることが大切です。これを私は「デジタル稟議」と提唱します。

 デジタル稟議によって現場の声をライトに拾って反映し、経営者との距離を近くし組織を強くする。これは特に中小企業に重要です。なぜなら、中小企業は稟議の仕組みができていないといったことや、従業員数が少なくても社長の権限が強く現場社員との距離があるという会社も少なくないからです。気軽に起案できるデジタル稟議という仕組みで社内制度を作り、イノベーションを起こしやすくするのです。

デジタル稟議でバックオフィスが経営に貢献

 デジタル稟議のメリットにはまず、脱ハンコやペーパーレスによるコスト削減のほか、
オペレーションの簡易性、即時性、正確性も挙げられます。いつ、誰が、何をどのように判断して承認・決裁されたかと、ログが残ることでいつでも参照でき、知見として資産化、コンプライアンス面でもメリットがあります。

 そして、時間や場所にとらわれないので無駄な会議がなくなります。稟議では複数の関係者が提案内容を理解した上で承認が行われますが、時間や場所にとらわれないため、きちんと冷静に承認者も検討が可能です。つまり、稟議の質が向上します。同時に意思決定も早くなり、中小企業に重要なスピード経営が実現します。そのうえで、新しいビジネスやイノベーションが生まれやすくなるのです。

 デジタル稟議はバックオフィスのDXであり、これがフロントオフィスに良い影響を与え
ます。バックはフロントの支援業務なので、結果的に全体の効率化につながり会社の売上がアップしていきます。

 デジタル稟議は表面的にはペーパーレス化に見えますが、本質は業務の効率化であり、
社内業務の変革なのです。稟議が進化すれば、社内の知見(意思決定)が溜まり、確実に今後の仕事に活きてきます。また、参照が容易になることで、繰り返し発生する同じような問い合わせ対応も劇的に削減することが可能です。バックオフィスが経営に対してインパクトを与えられる、それがデジタル稟議です。

コラボレーション型経営をデジタル稟議で実現する

 経営視点でデジタル稟議を考えてみます。稟議という仕組みは、現場が会社や経営に対して起案し、それが承認されたら実行されるという仕組み、すなわちボトムアップ型です。
日本は農耕民族であり、強烈なトップダウンで進めるというよりも、一つひとつ合意をとりながら進めることが文化として根付いています。稟議は、この伝統的な文化にもフィットした制度なのです。そして、これは高度経済成長時代を支えてきました。

 では現代はどうか。企業は日々事業や業務の改善を行っていますが、その改善施策は、
従来の延長線上になることがほとんどです。なぜなら、現場が主体的に改善する範囲は、どうしても目の前の担当業務になるためです。そのため、「イノベーション」はなかなか生まれません。モノづくりが主流だった頃、この延長線上の改善の積み重ねで大きく成長してきました。しかし、環境が昔と変わった現在では、これでは大きな成長は望めません。 

 トップダウンがいいのかというと、日本は欧米ほど革新的施策を打ち出せる強いリーダーシップは、リーダー文化の違いによるアレルギーなどがあり、あまり受け入れられず、機能しないことが多くあると感じます。この、なんともいえない停滞感は“失われた30年”などと問題視される現状ともリンクしています。

 そのうえで、これからの意思決定はどうすればよいか。日本は欧米と比べた場合、良くも悪くも経営と現場では、それぞれの能力や報酬、そして持っている情報にそこまで大きなギャップがないことが特徴だと思います。となると、経営陣と現場がともに考え創発していく姿勢こそが重要です。そのうえで特に大切なのは、現場がタッチできない経営側の情報をうまくすり合わせることです。このすり合わせを、「稟議」の活用で行うのです。

 稟議というのは、経営と現場でともに力を合わせていくプロセスであると言えます。私はこのような経営をコラボレーション型経営と言っており、役職や立場に関係なく、オープンな意見が交換され、事業を加速させていく。これを実現する貴重な仕組みであると考えています。経営と現場がともに考え、創発するコラボレーション型経営をデジタル稟議で実現する、ここがバックオフィス変革の第一歩だと考えます。