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スタートアップの広報戦略~広報部立ち上げのベストタイミングとは?~

2021.01.18

今回は、企業の広報部門立ち上げコンサルティングを行う私の元によく寄せられる、「企業が広報部を立ち上げるベストタイミングはいつか?」という疑問にお答えします。広報部を立ち上げようとしている会社によくある誤解や広報をはじめる前に“揃っていないと危険”な5つのポイントなどをお伝えします。

みなさん、こんにちは。令和3年もよろしくお願い致します。今回は、前回の記事でも少し触れた、企業の広報部門立ち上げコンサルティングを行う私の元によく寄せられるご質問の一つ、「企業が広報部を立ち上げるベストタイミングはいつか?」についてお話ししたいと思います。すでに広報部を立ち上げ済みの企業の方も、この記事を参考に自社の広報活動の考え方や体制に問題がないか改めて振り返ってみていただければと思います。

広報活動をはじめるための最低条件とは?

私は、仕事がらスタートアップや中小企業の代表の方とお会いする機会がよくあります。そうした企業の方から受ける質問が、広報活動をはじめるタイミングについての質問です。起業したてのスタートアップが早々に広報部門を設置しようとするなど、10年前と比べると大きな変化が起きているなと感じます。

ただ、お話を聞いていると一定の割合で、明確な目的を持って広報活動をはじめるわけではない企業があります。そうした企業は、「一通りの広告施策はやってしまったので、他に何かないか?」という理由で広報活動を検討するようです。しかし、この考え方は大きく間違っています。

第1回記事のなかの「意外と理解されていない、『広報とは何をする活動なのか?』」でも説明しましたが、広報活動とは「いかにメディアに露出するか」を主に追求する活動ではありません。

広報活動とは、メディアも含む「自社を取り巻くさまざまなステークホルダーと相互に利益をもたらす良質な関係性を築く」活動です。これは、情報発信による企業の「信頼醸成」活動とも言えます。中長期的な視点が必要で、さらに「○○をすれば必ず○○になる」と一概に言えるものでもありません。

こうした点を踏まえて、これから広報活動をはじめようとしている企業向けに、広報活動をはじめる際に最低限必要な5つの条件をお話ししたいと思います。

広報をはじめる前に“揃っていないと危険”な5つのポイント

1.自社オリジナルの強みがある

これはあまりにも当たり前のことですが、意外と客観的な判断ができていないケースがあります。ビジネスそのものが確立できていないスタートアップだと「先月と言っていることが違う」となったり、企業によっては「他社と言っていることが同じ」といった情報発信になりかねません。

お金を払えば出稿できる広告とは違い、こうしたレベルの情報がメディアに取り上げられることはまずありません。自社の強みは広報できる状態にあるのか、まずは客観的かつ冷静に判断する必要があります。状況によっては、“強み作り”を優先すべきケースもあるはずです。

2.広報活動の目的が明確化している

次に重要なのが、広報という活動の目的を正しく理解した上で、自社の広報活動の目的を明確にすること、またその内容について企業トップの合意を得るということです。

広報が「ステークホルダーとの良好な関係性づくり」を行う活動だとしたら、短期的に潜在顧客や新規顧客を獲得しようとする広告と広報は性質の違うものだと気づくはずです。広報という活動を正しく理解した上で、自社の広報活動の目的を定めることが重要です。

多くの場合、各社の広報活動の目的は「市場における認知獲得」「ブランディング」など大局的なものになると考えられます。

それを実現するために、社内外のステークホルダーと良好な関係性を築くという中長期にわたる活動をする、という合意をトップと得るのです。“良好な関係”や“信頼”は一朝一夕には築けません。時間をかけて地道に行う認識をトップと共有することが重要です。

(参考)あなたの会社の広報活動の目的は?

(※広報活動の目的の設定については、 第1回コラム「スタートアップの広報戦略~ 何からはじめる? 編 ~」に詳しく書きましたのでご参考にしてください)

3.一定の予算が確保できる

先程も書いたとおり、関係構築や信頼醸成には時間がかかります。目立った効果が出なくても、地道に活動をし続けていくための予算を確保するという決断が求められます。

例えばある企業が、ある日突然、“とっておきの新サービス”を紹介するためにメディアにコンタクトをとっても、「自分が知らない」「無名」企業からの連絡に反応する記者は稀でしょう。とっておきの新サービスが出る前から、企業やサービスについて情報提供し信頼関係を築いておく必要があります。

4.担当する人員が確保できる

活動の継続にとって欠かせないのが、継続できる体制づくりです。採用するにしても、社内異動をするにしても、無理のある体制ではないか気を配る必要があります。また、一人の担当者が辞めたらすべての関係性が途絶えた、とならない仕組みにすることも大切です。

5.トップが広報活動にコミットしている

これまで4つの項目をお伝えしてきましが、すべてに共通する最重要ポイントがあります。それが企業トップのコミットメントです。上記に挙げた社内リソースの確保や目立った効果が見えない状態でも我慢強く活動を継続するためには、トップによる決断、判断が不可欠です。

筆者の経験上、トップのコミットメント度合いと広報活動の成果は確実に比例します。逆にトップのコミットメントがない状態で、リソースの少ない会社が広報をはじめようとするとほぼ確実に担当者が疲弊します。

今回のテーマである「広報部立ち上げのベストタイミング」という意味では、ここまでに挙げた5つのポイントがクリアになった時点が、広報部立ち上げのベストタイミングと言えるでしょう。

 

広報は「ちょっとだけやって、ちょっとだけ効果を出す」ことはできない

また、上記のポイントをまとめると、広報活動は「ちょっとだけやって、ちょっとだけ効果」を出すことはできない活動だと言えます。

例えば、何かの「ネタ」を持ってメディアにアプローチをする場合にしても、事業継続年数が短いスタートアップなどは特に、会社そのものの「信頼性」が必ず問われます。企業基盤はしっかりしているのか? サービスについて社長が話している内容には信憑性があるのか?などです。

媒体によっては、「新聞に取り上げられていることが取材の要件」とはっきり言われる場合もあります。記者の立場に立って考えても、それまでその企業のことを全く知らず、他のメディアにも取り上げられておらず、Google検索してもほとんど情報が出てこない企業を記事に取り上げることは相当勇気がいるはずです。

コップの水が溢れるように、ある程度活動を継続して信頼の貯金が貯まった“ある時点”を境にさまざまな広報効果が出てくる、というのが実際の所だと思います。

メディアに取り上げる価値がある会社(情報)だと思ってもらうためには?

では、まだメディアと信頼関係が築けていない、ほとんど情報発信をしたことがない企業が信頼を獲得し、取材獲得に繋げていくためには、まずはどんな情報発信からはじめていけばよいのでしょうか?

企業としての信頼を獲得するという意味で、例えば以下のような情報発信からはじめてみるのはいかがでしょうか。この情報発信の考え方は、広報という視点だけではなく事業戦略そのものと紐づく部分があります。

●会社・事業に関する情報
・資金調達
・顧客の質の高さが分かる情報
(社会的に信頼がある大企業や有名企業が顧客である、特定領域でシェアが高い、ことなどが分かる事例)
・社会的に信頼がある企業・組織との提携 など

●商品・サービスの情報
・サービスローンチとそれによって見込まれる成果・影響 
・サービスに関する(特定の分野でもよいので一定の)成果 など

●その他、メディアが求める情報
・(自社のビジネス領域を扱う専門メディアに)メディアの個別ニーズに応える情報

メディアに取り上げてもらうためには、メディアが求めている情報を提供することが大前提です。そのため「自社の言いたいこと(この場合は、企業としての信頼を醸成できる情報)」で、かつ「メディアが求める情報」を提供することが必要です。その視点で上記のような情報を挙げました。

また、まずはメディアとリレーションを作ることにフォーカスするなら、専門メディアの個別ニーズ(どんな特集をしているのか、どんなコーナーがあるのかなど、媒体を読むと見えてきます)に合う情報を提供すれば、読者にとって有用な情報として取材してくれたり、企業やサービスに興味を持ってくれたりする可能性があります。

こうした情報を丁寧にコンスタントに発信し続けることで、会社やサービスを知ってもらい信頼を獲得していくことができます。

“とっておきの新サービス”のような情報でも、得体の知れない企業の情報は扱われにくいものです。訴求力の高い素材がある時だけ急に広報活動をして、「一見さんお断り」とならないように地道な活動が重要と言えます。

以上、スタートアップや中小企業が広報活動をはじめたいと思った時に確認すべきポイントについて解説させていただきました。特にスタートアップなどビジネスをスタートしたばかりの企業では、事業の状態が時々刻々と変化します。広報担当者の方は、企業トップと密なコミュニケーションを取りながら、自社にとって最適な広報活動を模索してください。