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アフターコロナに向けて 総務部が主導で進められる「街全体でのオフィスレイアウト変更」

コロナによる諸々の社会的な影響がある中、総務業務へ与えるインパクトが大きいものとして「オフィス変革」があります。感染を極力防ぐためのソーシャルディスタンシングを取るレイアウト変更から、家具の変更、再配置、またはオフィスのあり方など不動産全体の変革まで強いられながら悪戦苦闘しています。そのような総務の現状に役立つ諸々の豆知識と、その先にある「街全体でのオフィスレイアウト変更」プロジェクトへの実践的な考え方を今回整理いたしました。

ソーシャルディスタンスはどう確保する?

 まずはオフィス内で確保すべきなのはソーシャルディスタンスですが、既存のデスクレイアウトのまま2mを確保するのは簡単ではありまあせん。なるべく工事をしないで、既存レイアウトのまま「利用制限」を行うことでその距離を保つという方法がまずは効果的ですが、これはオフィス内に限らず一般的な公共の施設でも実施されているのでわかりやすいかと思います。
 
 図1のように席飛ばしなどで利用を制限することで人と人との距離はた保たれます。厳密に2m確保すべきか1.5mでよしとするかはオフィス内の実際の利用率、回転率(利用時間の長さなど)など企業により様々ですが、それらを総合的に判断し社内の規定をつくることになります。

 

 

 会議室などでも、なるべく既存のレイアウトのまま図2のような利用制限とその標識をわかりやすく見せることで利用者は自然と距離を置くことが可能となります。特に社外の方を招き入れる共用部の会議室などではそのビジネスによっては日本語、英語、中国語表示など必要となります。
 
 図3のように、社内のサーキュレーション(内部廊下)などでもその方向や右左通行の制限など、接触と感染リスクを減らす工夫も必要です。

 

 

 

 

 

 また飛散防止という観点では、机上面から50cm〜70cm程度の高さ(口元が隠れるくらい)にローパーティションや、飛散防止アクリル板を設置することも有効です。こちらもレイアウト変更を伴わずに簡単な工事で対応可能な範囲です。

 

 

 

ワークポイントの考え方とは?

 オフィス運用には「ワークポイント」という言葉があります。これはコロナ以前からも一定時間(通常2時間)の連続執務に適した座席で、落ち着いて仕事ができるキョリ感を維持する適切なパーソナルスペースを確保できる席を1WP(ワークポイント)としてカウントするという考え方があります。これはレイアウト変更をしないでコロナ対応をサポートする考え方としても効果的です。(図5参照)

 「座席数(椅子の数)」と「ワークポイント」という考え方が既に社内に浸透している会社では、そのまま規定のワークポイントにてオフィスを運用することで適度なソーシャルディスタンシングが自動的に図れます。まだワークポイントの考え方を導入されていない企業の場合は、今回のコロナを機に導入することをお勧めします。社員の集中力や生産性の観点でも、満員の図書館のような「ぎゅうぎゅう詰め」の状態での作業は、とても生産性が高いとは言えませんので、ワークポイントでの業務をそもそも標準とすることで快適な業務が可能となりかつソーシャルディスタンスが取れるようになります。これは継続性があり、コロナ後もそのまま運用することをお勧めします。大掛かりなレイアウト変更は結果的にやり直しも多くあまりお勧めしません。一方で時にはチーム会議など、必要な時は必要なので「椅子の数」はそのまま確保しておく意味はあります。

 

 

 

アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)とは?

 目先のそのような臨機応変な対応に加えて、withコロナの長期化に伴いまたafterコロナの新しい働き方(ニューノーマルな働き方)に備えて、総務として戦略的にオフィスレイアウト変更や多様な働く環境を整える必要もあります。

 その上では、ABW(Activity Based Working)という考え方が参考になります。2015年前後から日本国内でも事例が出始めていますが、働く社員(ペルソナ)のアクティビティ(行動や業務作業)の内容によって最適なデスクや空間、雰囲気を多様な観点でオフィスレイアウトや家具を提供します。(図6参照)

 社員は自分の働く内容、例えば集中業務をしたい、パワポ資料を作成したい、2人チームで作業したい、4人で画面を見ながらディスカッションしたい、ブレーンストーミングをして新しいアイデアを創出したい、などによってその目的応じて成果を最大化させる場所で業務行うことができます。

 いかにも贅沢なレイアウトオフィスで高価な印象ありますが、実際には「回転率」という考え方があり(次項参照)、固定席と比べて「長時間、人がいない無駄な空席」も抑えられてオフィスを効率的に利用でき、コストの面でも通常の固定席を中心としはオフィス(図の左側:通常1人9m2 – 12m2が必要)と比べると6m2程度でオフィスプランも可能で、うまく運用することでオフィスコストを50%くらい下げる効果もあります。多くの企業でwithコロナをきっかけにこのABWを推進する動きも見られ、それらは「働き方変化に合わせたオフィス」という側面と「オフィスコストを下げる」という両面での意味を持ちます。

 ABWへするために既存オフィスからのコンバージョンも必要ですが、壁や固定デスクを取る方向なので工事もしやすくコストもさほどかけずにゾーンの取り方や家具のタイプなど工夫を入れるだけでクイックなABW化は実現可能です。まずは自社の社員の働くスタイルや業務内容を分析してみることをお勧めします。(手法はいろいろあります)

 ABWの最大の効果としては「社員が選択できる」ということです。それは働く席を選べるという意味だけでなく、「感染リスクをを避けて安全(そう)なところで自分で判断してそこで仕事ができる」という選択肢を与えることで、それ自体が感染リスクを減らせるということも意味します。固定席で近くの人がマスクをしながらも咳が時たまでている状況でも、気になりながらでも仕方なく自席で仕事を継続しないといけない固定席制(拘束)と、このABW(自由)のどちらが今後のニューノーマルとなるか、それは総務の提案次第でもあり、またそのセンスをどう見るかの会社の判断となるでしょう。

換気回数の確保の方法は?

 ニューノーマルに向けたオフィスレイアウト変更も重要ですが、一方でいずれのケースでも「オフィス内の健全な換気」は重要となってきます。これは業者まかせやビル任せとなってはいけません。総務部として専門的に現状把握と対策を練り、専門業者やビルに対して自分たち的な「要件」を出す必要があります。

ポイントとしては、換気の強弱は「換気回数」であることを理解することが重要です。そもそも換気回数とは1時間に何回その空間の空気全部が外気と入れ替わったかを指します。
(換気1回/1時間=1時間に一回その空間の空気が新鮮になったということ)

換気回数の目安としては、通常のオフィス設計では0.5回程度、感染症やウイルス対応には2.0回程度が必要(一般ガイドライン)とされます。例えば、タバコ部屋などは10回、20回が適当です。給気も排気も機械的に行うシステムを一種換気と言います。二種換気は、給気は機械設備で行い排気は(排気口や隙間から)自然に行うシステムで、クリーンルームや病院の集中治療室などで活用されます。(オフィスでは ほとんど利用はないです)三種換気は、給気は自然に入り、排気を強制的に機械で行ういわゆるトイレやお風呂などでの換気を指します。四種換気はいわゆる自然換気で外気を100%取り入れる方法です。
中間期(春や秋)などでは外気温度が冷房送風温度(15℃~20℃)に近いのでそのまま換気することが有効であり、健康にも良いです。

総務として知っておいて損のない数字ですが、ちょっとした「密」な会議では二酸化炭素(CO2)の濃度が7,000ppmを超えているケースも多いという事実です。労働安全衛生法の基準でもあるとおりCO2のオフィス内濃度の基準値は1,000ppmです。オフィス内でCO2を発生する大半は「人の呼吸」ですので、その中に感染者がいたら一気に感染してしまう、ということがこのCO2濃度からも簡単にイメージできます。ビルやオフィス設計によっては現在の換気能力に限界あるケースも多いです。その場合は「ウイルス集塵型のフィルター」「湿度調整のコツ」「VAV、ペリメータ空調のバランシング」などのあの手この手で総務は対処する必要があります。ポイントとしては「とにかく測ること」です。CO2メーターもそのような事情と要件を伝えて上で、ビル管理の方や業者さんにお願いしたら、その法的な必要性を超えて協力してくれるはずです。そのようなビルとの普段からの協力体制と信頼関係を築いておくことも総務としても重要な能力の一つとなります。

今回のコロナ対策をしながらも、空調設備や換気の基本を学べる機会でもあります。その意味ではコロナが去ったあとでもこのような換気の知識は今後ずっと有効であり、オフィスレイアウトやデザインだけでなく、設備的にもユーザーの快適で健康的なオフィス環境を演出できるスキルの土台ともなります。

社員の分散ワークを推進するロジックの組み立て方は?

 オフィス内でのレイアウト変更や換気回数や空気質への配慮ができたとしても、「オフィス外」におけるワークポイントに関して総務としては配慮が必要です。

 図8はスペース戦略を立てる上での考え方ロジックですので参考ください。もともとオフィスにいた社員が全員戻ってくるならおそらくオフィスレイアウト変更は「スペース拡大=YY」をベースに考える必要ありますが、働き方変革(在宅ワークやその他)が一気に加速していますので、オフィスに来る社員が減ることによりオフィス側からしたらその回転率を計算する必要があります。結果的に必要オフィス面積(=ZZ)は下がる傾向にあります。

 その場合「本社の役割」も明確にしておかなければなりません。本社オフィスは社員間のコボレーションを図る場所、学びの場所、イノベーションを誘発する場所、イベントを行う場所、などは定番です。そうなるともうオフィスとは呼ばないケースも出てきます。ワークプレースではなく、カルチャープレースと呼んだり、ワクワクプレースと呼んだり個性が出てきます。その要件にあったレイアウト変更も必要となってきます。

 ではそれ以外の一般業務の場所はどこに向かうのでしょうか。そのすべてを「在宅で良い」と言い切れる会社はまだその本質を理解していないと思われ今後の苦労が予測されます。現在はwith コロナなので窮屈な在宅勤務へのガマンと家族がいる方はその一定の理解は得られながらそのガマンを継続し多少肩こりや腰痛も一時しのぎならガマンできます。ただアフターコロナに向けて長い時間の在宅勤務は少なくとも日本の住宅事情や共働き世代が中心となっている現在においては限界がすぐに来るのは自明なことであり、社員が長く苦しむ環境を会社として継続することはできません。このようなことは社員へのアンケートだけでは明らかになりませんので要注意です。総務部としては社員へ聞くだけではなく、自己の調査や外部知識を取り入れ少し先の未来を自ら予測しながら戦略的にオフィスレイアウト(本社内)、在宅割合(%)、シェアオフィス、プロジェクトオフィス(主にチームワーク)、ワーケーションなど幅広い選択肢を社員へ提供できるソリューションを今から考えておく必要があります。

 そうでないと自宅から出て駐車場の車の中でzoomを3時間も行う、という悲劇的な事態が多く起こります。在宅とオフィス以外の働く場の設定に関しては、その必要論、不必要論など社内議論も重要ですが、こういったことはリーダーシップをとって先に提案しトライできるかどうか(失敗も含めて)が優秀人材獲得の面でも、生産性向上の面でも最終的に勝ち組になる秘訣です。

ワーケーションとは?

 多様な働き方の選択肢の一つとしてワーケーションの仕組みと制度をいち早く導入する企業も出てきています。「仕事中に休暇を取る」のか「休暇中に仕事をする」のかの議論も必要ですが、要するに仕事(ワーク)と休暇(バケーション)がバランスよく融合する形で、普段とは違った働き方と意外な生産性向上を目指すことができるようになります。休暇中に仕事をするなんてもっての他!と一刀両断する考え方は、おそらく休暇の取り方が下手(そもそも有給休暇が溜まる)な考え方であり、実際に「有給休暇を消化できない」という結果では本末転倒です。それよりは割り切って休暇が実際に「取れる」ことと、それを支える「ややゆるい」会社の制度、そしてもっとも重要なのは「休暇から帰った膨大なメールと仕事滞留が無い」ことが社員のストレスを低減するというファクトです。

 その観点に立つと、ワーケーションも現実的なメリットとその意味が出てきます。総務部としてまず考えるのは、本社からの距離(例えば新幹線で1時間以内)、または施設の規模(例えば対象社員数の5%)に加えて必要設備(例えばWifi,カフェ機能、個室ブース席)などのビジネス部門とヒアリングしながら調整し要件をまとめることが重要な任務となるでしょう。(図10参照)

 

 

 

プロジェクトの予算はどう確保する?

 さて「街全体でのオフィスレイアウト変更」のプロジェクトを推進する上で、その予算はどのように確保するのが正しいやり方でしょうか。それは一言で言うと「ハード」の予算を「ソフト」(サービス)へ切り替えるということに尽きます。

 総務は全体コストとして一人あたり年間100万円〜150万円の経費サイフを握っています。1000人の会社であれば、年間10億円〜15億円の会社経費です。これは人件費の次に大きいと言われ、経営的には「固定費」と思われ(信じられ)てきたコスト、総売上の3%程度、総経費の12%程度が一般的オフィスのベンチマークです(@JFMA)。

 その内訳を見てみますと、「不動産コスト」が約50%を占めていることがわかります。これは例えば坪単価2万円程度のオフィスに1000人が入居し、一人あたりの面積が(before コロナの平均値)が10m2程度の一般モデルでみると、

1000人 x 10m2 / 3.3 x 20,000円坪 x 12ヶ月=727M JPY (約7億円)

と計算でき、この数字(オフィスコスト)を2倍すれば全体総務コスト=14億円、となり前述の数字とほぼ合致しますのでその感覚は理解できるかと思います。ただこの不動産関連コストは経営的に必要悪である「固定費」と見てきた風潮は否めません。

 さてこの「総務サイフ」の中身に今、まさに変革が起きている(起きて行く)ということです。

 このwith/after コロナで多くの企業の足元で議論となっている一例として、前述のとおり在宅やシェアオフィス、ワーケーションなど様々な働き方が、テクノロジーなどの進化も同時に起きています。

 それらのコスト(追加コスト)を補う原資としてこの不動産コスト(本社コスト)がその代表とされるのは自明なことです。(会社経費の優先順位変更とコンバージョン) 前述の1,000人の会社のケースでその半分の不動産オフィスコスト(年間3.5億円)が削減されると、それは社員1人に換算すると年間35万円となり、そのお金がつまりソフトへの投資(OPEX)への原資となります。そのような総合的な観点で総務が主導して、働き方改革に伴うプロジェクトを人事、ITと一緒に推進することが重要です。

 今回の記事ではwith/afterコロナにおけるオフィスレイアウト変更術から、本社のあり方検討、自宅、シェアオフィス、ワーケーションなど多岐の働く場の選択肢を与えることで、社員がイキイキと業務に専念できる環境を整えるための総合的な考え方と、その財源の確保手段を解説しました。

「総じて務める」(=総務)という役割が、まさに大きな使命を持つ時代がやってきました。

皆さまの活躍と成果へ、この記事が微力ながらもお力になれたら幸いです!