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【リモートワーク下における活力ある職場づくり】~安心感の土壌をつくる~

2022.06.02

前回は「リモートワーク下の“職場” 変わったこと/変わっていないこと」と題し、職場を巡る変化についてお話をしました。重要なポイントとして「メンバー間のコミュニケーションが減り、職場での安心感の土壌が喪失しているのではないか」ということをお伝えしました。

第2回のテーマは「安心感の土壌をつくる」です。前回お話ししたとおり、安心感の土壌をつくる必要性・難易度は職場によって異なります。今回は難易度が高い職場のエピソードを紹介しますので、自分の職場と対比しながらご覧ください。

エピソード“パソコンの前に8時間”

今回のエピソードは、インターネット業界の会社が舞台になっています。平均年齢が30代前半で比較的若い人が多く、就業形態がフルリモートということが特徴です。安心感の土壌づくりについては比較的難易度が高い会社群に入ると言えます。新人を預かるあるマネジャーから聞いた話です。
「うちの新人は、なにか仕事のお願いをしたら、“具体的にどう進めればいいですか?”とか“これってこれでいいですか?”って常に答えを求めてくるような人です。これはよくないと思って“1日8時間あるんだから、まずは自分で考えて”って伝えました。そうしたら、それ以来質問が減ったので、“お、いい感じになったかな”と思っていたんですけど、それがとんでもない間違いでした。一人で考えようとは思ったらしいのですが、考えても答えが出ず、本当に毎日8時間パソコンの前に座り続づけていたそうなんです。別のメンバーから“彼、やばいですよ”って聞かされて、確かに見るからにやつれていてメンタルダウン寸前だったんです。」

皆さんがこのマネジャーだったら、どんなことを感じ考えますか?

“これは極端だよ”と感じたり、“○○する”とすぐに対処策を考えたりした方はちょっと注意してください。
具体的にどうするかの前に、まずは相手の立場に立って、この状態を味わってみることが大事です。自分目線では気づかないことも、相手の立場に立つことで見えてくることは多いものです。

① 新人の立場に立つ
皆さんが新人の頃を思い出して考えてみてください。入社して以来数か月フルリモートで、職場の雰囲気や先輩たちの人となりに知る機会はほぼありません。そのような環境の中にいきなり放り込まれたうえに、これまでなら質問したら反応してくれていた上司から、急に手のひらを返したように“1日8時間あるんだから、まずは自分で考えて“と言われてしまう。
私が新人だったら、”上司は自分に関心がなくなったんだ、自分は何をしたんだろう?“とか”仕事の結果しか興味がないんだろうか?“というようなことが何度も頭をよぎり、一人不安で悶々としそうです。

② マネジャーとしてどうしたらよいか
こうして新人の立場に立って見つめてみると、マネジャーの人たちが思っている以上に新人は相当不安に感じやすいことが想像できます。そして不安が先行すると周囲からの働きかけをマイナス・警戒サインとして捉えてしまいます。ここで注意してほしいことは、マネジャーが良かれと思ってやった折角の行為が、かえって新人の不安状態を生みがちになるということです。

図1は、そうしたマネジャーの行為をまとめたものです。皆さんも良かれと思ってしたことがかえってメンバー側に不安状態を呼び起こしていないか確認してみてください。

そうした悪循環にならないためにどうするか。エピソードの続きを紹介しましょう。

エピソードの顛末

「よくよく振り返ると、自分が新人のころは上司と飲みに行って、酔いに任せて日頃感じている不満や不安を愚痴ってばかりいました。いくら飲みの席だからといっても、よくあれだけ色々聞いてくれていたなと思い出しまして。ひょっとしたら、新人の子もこちらが聞いてあげたら何か出てくるのかもしれないと思ったんですよ。これまでも2週間に1回1時間ほどオンラインで話す時間を作っていたんですが、どちらかというと私が伝えること・指示することで時間が一杯一杯になって、新人には最後に”で、何か質問ある?“って聞く程度になっていました。当然、何も質問はでてきません(苦笑)。そこで、その時間は彼が何を考えているか聞く時間にすると決めました。そのために、ミーティングに入る直前に3分使って、自分の聞くモードを整えることにしました。「これからは聞く時間。彼にも思っていること・感じていることはある。だから少しでも話してくれたら”ありがとう、OK“と言う」って自分に言い聞かせる時間(笑)。実際に、ミーティングでは最初に”どんなことを感じているのか知りたい“って伝えました。初めのうちは結構沈黙だったんですが、とにかく待ってたら、彼から小さな声で”何を言えばいいかわかりません“と言ってきたんです。”やった、話してくれた!“と思えたので”話してくれてありがとう!もう少し教えて“って。そんなことを続けていくうちにだんだん話が増えてきて、結構今はいろんな話をしてくれるようになりました。中には鋭い質問もあって、やっぱり蓋をしていたのは自分たちだったのかなと感じています。」

さて、このエピソードから何が言えるでしょうか?
「新人と話す時間を十分にとり、聞く時間に徹した。」
「話がでてきたら、まず“話してくれてありがとう”と伝えた。」
ということでしょうか?確かに大事な事です。でも、これだけなら、皆さんの中にも“同じような事をやったけど上手くいかなった”という人もいることでしょう。同じ行為でも不安を生み出すときもあれば、そうならないときもあるのが現実。その差は一体どこにあるのか。分かれ目を見出すためにも、もう一度エピソードをご覧ください。

改めてみてみると、具体的な行動の前に、以下2つの姿勢を固めたことがポイントになっていることが見えてきます。

① 自分の新人時代を思い起こし、“自分も新人の話をきいてみたい”という自分の育成姿勢
② “彼の中にも思うこと、考えていることがあるはずだと思った”という新人の潜在的な思いを信じる姿勢

この姿勢を土台に先ほどの行動が重なったので、新人が「自分のことを見てくれている、わかってくれている」という安心感を感じられるようになり、だからこそ、新人から安心して話すようになったと思います。

「安心感の土壌づくり」のポイント

①リモートワーク時代では、コミュニケーション機会、特にメンバー同士の交流機会が減り、メンバーはマネジャーが思っている以上に不安先行状態。せっかくの行為が悪循環を引き起こさないようにするためにも、「安心感の土壌づくり」は避けて通れない。
②ポイントは、「メンバーが“自分のことを見てくれている、わかってくれている、育てようとしてくれている”と感じること」
③まず、マネジャー自らが姿勢を固め、メンバーの中にある潜在的な思いを信じること

※マネジャーの姿勢
■マネジャーである前に、人と人。仕事・結果の前に「人としての存在感」を気にしよう
■メンバーの中には3つの思いがあることを信頼しよう
 ▫メンバーの中にある3つの思い
 ・仕事をできるようになりたい
 ・役に立ちたい/喜ばれたい/期待に応えたい/責任を果たしたい
 ・自分なりの工夫をして仕事したい
■育てようという思いを中心に置こう

さて、今回のコラムをご覧になって、“これって新人だからでは?うちの職場はベテランが多いんだよ”とか“メンバーの思いって言ってもメンバーによってだいぶ変わるんじゃないか”という疑問をもった方もいることでしょう。メンバーによって考え・思いに濃淡があってそれによって関わり方は変わります。そこで次回は「メンバーの持ち味を掴む」ことをテーマに、まずはメンバーの考え・思いを掴むとは何か、何をするのかについて考えていきたいと思います。