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長時間労働の実態と、削減に向けた対策とは

2019.05.16

 2019年4月から働き方改革関連法案が施行され、労働時間や残業時間に対して実質的な限度が設けられるようになった。働き方改革法案は、そういう名前の法律があるわけではなく、労働基準法や男女雇用機会均等法など労働に関わる一連の法改正のことを指す。

 また、働き方改革関連法案を施行しなければならないほど日本の労働時間は世界的にも長いとされており、長時間労働における過労死もニュースになるほどだ。では、長時間労働の実態はどうなっているのか。ここでは、長時間労働の原因や実態にふれたうえで対策などについて具体的に見ていく。

長時間労働の原因と引き起こされるもの

長時間労働の原因と引き起こされるもの

 日本の平均労働時間を見てみると2017年の段階では、年間で1720時間ほどであり、決して長すぎる労働時間ではない。韓国やロシア、メキシコ、アメリカなどの国々よりも労働時間のみで見れば、低いということになる。
※日本はグラフ中央部の黄色線。年間労働時間は1710時間。

 しかし、長時間労働の定義である週間で45時間以上働いている労働人口の割合を見てみると日本では2割を超えており、アメリカやカナダ、イギリスなどの欧米諸国とは比較にならないほどの倍率だ。韓国や香港は日本以上にその割合が高いものの、国際的に日本の労働時間は長いと言えるだろう。ちなみに、平均の労働時間が短く見えるのは、パートや短時間勤務者も調査対象に含まれているためだ。


 また、厚生労働省の調査結果として、時間外労働と休日労働を合わせて月間で45時間を超えた場合、健康に障害をきたす可能性が高いとされている。月に100時間以上の時間外労働などについては働き方改革法案である程度 制限されるものの、今までは多くの企業で常態化していた。そのため、日本の長時間労働の現状は精神及び肉体を酷使したうえで、月平均の時間外労働が80~100の間で推移しており、実際にその環境に置かれている人々は多いと言える。

長時間労働の原因はどこにあるのか
 経済産業省のデータによると、企業内の管理職の意識やマネジメントの不足、業務過多、職場の風土などに問題があることが分かっている。特に、慢性的な人手不足に加えて管理職の意識の欠如が顕著であり、問題をより悪化させていると言えるだろう。

 また、企業内においては業務に目的が設定してあり、ある程度進め方に裁量があるものは労働時間が短くなるという調査結果が出ている。その上で、現状の把握を行っているにも関わらず、残業のあり方を改善しない、業務の負担を考慮しないなどといった管理側の問題は非常に大きい。

 例えば、管理職による意識やマネジメントの不足について見てみると上司の支持や態度によって労働時間が変化することが予想できる。以下のような場合はすぐに改善が必要だ。

1.仕事の指示に具体性がない
 具体性のない仕事は、必要以上に労働時間を長くすることがある。資料の作成や残業前提とした指示なども具体性に欠けると言えるだろう。

 上司と部下という関係性であれば、部下の残業時間は上司が管理する必要がある。仕事の内容に関しても具体的で的確な指示がなければ、業務時間は長時間となりやすい。

2.残業をよしとする空気感
 個人だけでなく、企業の風土も関係してくるものであり、残業に対して抵抗感がなく、業務の偏りなども残業によって消化するといった悪循環に陥っているパターンが当てはまる。

 通常の勤務時間においても、具体的な指示や業務内容の効率化によって生産性を上げることができることから、企業としての姿勢が疑われるため、社員のモチベーションは著しく低下する。また、場合によっては調査結果に反映されないサービス残業を強いる場合もあるため、そういった企業には雇用者として注意が必要だ。

 また、管理職や上司の能力を超えた業務だけでなく企業や職場に問題があるパターンも多い。例えば、上司が帰るまで部下も帰れない、他の人が働いてる状況で自分は帰れないといった意識は、企業や職場の風土がもたらすものだ。

 さらに言えば、そういった状況を管理職が把握していても管理及び改善を行わないという悪循環に陥っていることも多く、労働者のみでは改善できないため、離職につながることも多い。

 人手不足であることをわかっていても企業として人員を増加させない場合、長時間労働が蔓延化するだけでなく、業務を任せている従業員に不満や疲労が蓄積されていくことから次第に業務そのものを行うことが不可能な状況に陥ることが考えられるだろう。

長時間労働によって引き起こされるもの

 長時間労働は、心身を蝕むものであり、健全な精神や肉体を保つことが難しくなるといった問題がある。また、個人の問題だけでなく企業全体の問題となることもあり、人材の消失や生産性の低下重大な損失につながる可能性も否定できない。

 では、長時間労働で引き起こされる問題についてみていこう。

1.心身の疲弊と不調
 人手不足や上司のマネジメント不足を加味した上で、長時間労働を行うことによって心身の不調を来たす可能性が高くなる。

 また、不調をきたすだけでなく休暇などで回復することが不可能となるため、生産性の低下や業務の効率がさらに低下するだろう。人の集中力や慣れには限度があり、限度を超えた業務は肉体だけでなく、精神まで摩耗することが予想されるため、人材の消失につながる。

2.過労死
 文字通り働き過ぎによって、心身に不調をきたし、病気を発症し死に至ることが予想できる。また、パターンとしては、病気だけでなく自殺につながることも多い。

 上司による管理が行き届かないのであれば、企業として規則を定めるしか方法はない。仮に過労死が多発するような企業であれば、顧客に対する信頼性なども失うことになることから早急な対策が必要となる。

 長時間労働の実態にふれたうえで原因と起こり得る問題を見てきた。企業が組織単位で運営されていることから、個人で改善できるものは非常に少なく、管理職や企業体としての意識改善がなければ長時間労働は解消することができない。

 そのため、自社の状態を詳細に把握した上で労働時間を管理する必要がある。働き方改革法案を守るためにもそういった取り組みが重要だと言えるだろう。

 長時間労働への対策は、単純に時間を削るだけでは不十分だ。企業体としての意識や考え方の教育・研修、業務フローの効率化など企業全体としての取り組みが必要となる。では、具体的な長時間労働の対策を見て行こう。

1.業務のあり方を変える
 テレワークの導入やITシステムの導入などによって業務を効率化することが考えられる。例えば、コストをかけて自社の IT システムの更新を定期的に行うよりも、外部のシステムを使った方が効率的な場合も多い。

 また、勤怠管理や労働時間の管理などにおいても企業体として最低限の用意をするだけでシステムによって管理することも可能だ。そうした場合、自社の人員に掛かる負担を軽減することになる。そのため、企業体として全体的な負担を分散することで、労働時間の削減が可能となるだろう。

2.評価のあり方を変える
 年功序列式の考え方は日本の企業に非常に多い。資格が必要な専門的な分野であれば、給料の差や人事の評価に納得がいくものもある。しかし、他に代わりの居ない業務だとしても年功序列式であれば、賃金や人事評価には変化がない。

 評価の在り方を成果や個人の能力、社内の立ち位置などを加味した総合的なものに変えるといった手段が考えられる。総合的な評価であれば、社員のモチベーションに大きくプラスとなる変化を与えたうえで長時間労働の削減につながると言える。

3.年次有給休暇の取得促進
 働き方改革関連法案にも定義されている年次有給休暇を従業員に取得させることは、長時間労働削減の有効な対策だ。

 長時間労働を行う際の意識として、代替不可能な業務が1人の従業員に多く配分されているパターンが考えられる。有給休暇を取得させるということは、個人の業務の代替が可能な状況を企業体がつくる必要があるということだ。従業員が満足な休暇の取得が出来る状態であれば、企業体としても長時間労働がしにくい状況が出来上がっていると言えるだろう。

 長時間労働の削減は、従業員の意識だけでは改善できない。企業体として労働時間を管理し、効率的な業務を行っていく体制づくりが必要だ。また、長時間労働に関しては、働き方改革法案に抵触するため、教育や研修などを通して早急な対策を行うとともに自社の問題を把握したうえで新しいルール作りも徹底して行っていこう。

まとめ

 長時間労働は深刻な問題であり、人材だけでなく企業体にも悪影響を及ぼしている。場合によっては、長時間労働で人材の命が失われるパターンもあり得るだろう。長時間労働が解消できた場合には、生産性の向上や社内の雰囲気の改善、業績アップにつながることから、企業体として削減に取り組んでいく必要がある。

 また、働き方改革法案に対して順守する必要があることから、社内の労務環境の把握を行うとともに早めに規則や評価の在り方など問題点に対して改善を行っていこう。