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おさえておきたい!人事・労務の基礎知識Vol.6 年5日の取得が義務化された有給休暇 付与日数や計画有給制度の活用方法を詳しく解説

2020.06.23

 従業員の心身のリフレッシュを目的とした「有給休暇」。日本では取得率が低調な状態が続いており、2019年4月には企業による有給休暇の付与が義務付けられた。そのような状況下で、有給休暇の取得促進や制度の正しい運用が課題となっている担当者もいるのではないだろうか。
 
 今回は、有給休暇の概要や働き方改革関連法によって課せられた企業への有給休暇取得義務の内容、有給休暇の取得率を向上させるための活用例等を紹介する。担当者として必要な知識を身につけ、適切な運用を行おう。

目次

●有給休暇とは
●付与のタイミングや日数
●年5日の有給休暇の取得が義務化
●有給休暇の「計画的付与制度」の活用
●まとめ

有給休暇とは

 有給休暇とは、賃金が支払われる休暇日を指す。まずは、有給休暇の概要と付与される要件を確認しておこう。

有給休暇の概要
 有給休暇は正式名称を「年次有給休暇」と言い、「有給」や「年休」、「年次休暇」等と呼ばれることもある。有給休暇の付与は労働基準法第39条によって企業に義務付けられており、企業は要件を満たした全ての従業員に対し、労働者の雇用形態、状況、勤続年数に応じた1年あたりの有給休暇日を付与しなければならない。

 なお、1年で消化されなかった有給休暇は翌年に繰り越されるが、2年間の有効期限を超えた場合は繰り越せずに消滅する。

有給休暇が付与される要件
 企業は、以下の要件を満たす全従業員に対し、有給休暇を付与しなければならない。

・雇入れの日から6か月継続勤務していること
・全労働日の8割以上出勤していること

 全従業員には、正社員の他、契約社員、パートタイマー、アルバイトといったすべての雇用形態が含まれる。また「継続勤務」は企業における在籍期間を意味し、勤務の実態に即して実質的に判断される。例えば、期間に定めのある従業員と引き続き雇用契約を結んだ場合や、定年退職した従業員を嘱託社員として再雇用した場合等も継続勤務として扱う必要がある。

有給休暇が付与されるタイミングや日数

 有給休暇はどのように算定され、付与されるのだろうか。ここでは、有給休暇が付与されるタイミングや日数、休暇の単位や付与する際の留意点を紹介する。

通常のタイミングと日数

 通常の有給休暇は、入社から6か月が経過した日に10日付与される。付与された日を「基準日」とし、その後も付与される要件を満たしていれば、基準日から1年後に11日付与される。その後は1年経過するごとに継続勤務年数に応じた日数が付与されることになる。

 表の付与日数は労働基準法で定められた最低値のため、企業独自に日数を多く付与したり、入社当初から付与したりする等の対応も可能だ。

パートタイマー、アルバイトの有給休暇日数

 パートタイマーやアルバイト等、出勤日・出勤時間が少ない労働者の有給休暇は、所定労働日数に応じて比例付与される。つまり、週の出勤日数が多い従業員ほど、付与される有給休暇が増えていくことになる。対象となるのは、通常の要件に加え、以下に該当する従業員だ。

・所定労働時間が週30時間未満
・週所定労働日数が4日以下、または年間の所定労働日数が216日以下

出勤率算定の留意点
 出勤率算定の際、育児休業や介護休業を取得した期間、業務上の怪我や病気で休んでいる期間等は、出勤したものとみなして取り扱う必要がある。一方、会社都合の休業期間は、原則として全労働日から除外しなければならないので注意しよう。

半日休暇、時間休暇
 有給休暇の取得は、基本的に「1日単位」とされている。ただし、企業と労働者の間で合意がなされていれば「半日単位」の取得が可能だ。また、労使協定が締結されていれば、1年で5日分までを上限として「1時間単位」の取得も認められている。

付与の注意点
 従業員が有給休暇の取得を請求した場合、企業が次のような取扱いをすることは禁止されているので注意が必要だ。

・有給休暇の利用目的によって取得を制限すること
・有給休暇の取得を拒否すること
・請求された日数の有給休暇を与えないこと
・買い上げの予約を行い、有給休暇の日数を減らすこと
・有給休暇を取得したことによって、従業員に不利益な取り扱いをすること

 従業員が有給休暇を請求した時季に休暇を与えることで事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季に取得時季を変更することができる(時季変更権)。ただし、時季変更権の行使は、同一期間に多数の労働者が休暇を希望した場合等には適応されるが、単に業務多忙だからという理由では認められないので注意しよう。

また、「不利益な取り扱い」とは、賃金を減額する、皆勤手当や賞与の算定に際し欠勤として扱う等、有給休暇の取得を抑制するような全ての抑制が含まれる。

年5日の有給休暇の取得が義務化

 2019年4月から、全ての企業に対し「年に10日以上の有給休暇がある人を対象とした、年5日の有給休暇の確実な取得」が義務付けられた。ここでは、取得義務化に至った背景や義務化を定めた法律の内容、同法に応じた対応の留意点を紹介する。

有給休暇の取得義務化の背景
 厚生労働省の資料によると、日本の有給休暇の取得率は2019年で約53%となっている。日本の有給休暇取得率は世界19か国で3年連続最下位というデータもあり、世界的に見て低水準であることが課題だ。本来有給休暇の取得は従業員に与えられた権利であるにも関わらず、同僚への気兼ねや請求することへのためらい等の理由から、なかなか取得に至らなかったとされる。また2019年3月までは企業に対しても有給休暇の取得日数について義務が課せられていなかったため、取得率が伸び悩んでいた。
 
 これらの課題を解決し有給休暇の取得率を向上させることを目的のひとつとして、働き方改革関連法の施行に至った。
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「図4 年次有給休暇の付与日数・取得日数・取得率 1984年~2019年」 )

有給取得を義務付けた同法の内容
 「働き方改革関連法」により、2019年4月から企業に対して「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が義務付けられた。同法によると、企業は年10日以上の有給休暇が付与される従業員に対し、有給休暇を付与した日から1年以内に、5日の有給休暇を取得の時季を指定して取得させなければならないとされる。正社員に限らず、年10日以上の有給休暇が付与される場合はパートタイマーやアルバイトも適用の対象だ。企業が時季を指定して有給休暇を付与するため、従業員は罪悪感を感じずに有給休暇を取得することができるようになった。

有給取得義務の注意点
 企業は有給休暇の時季指定をする際、労働者の意見を聴取し、できる限り希望に沿うよう努めよう。また時間休暇や企業が独自に設けている特別休暇は、取得が義務付けられた年5日の対象にならないので注意が必要だ。なお、従業員が既に5日以上の有給休暇を請求・取得している場合は、時季指定をする必要がなく、することもできないとされている。

 また、企業は従業員ごとに時季、日数、基準日を明らかにした「有給休暇管理簿」を作成し、3年間の保存が求められる。この有給休暇管理簿は労働者名簿や賃金台帳とあわせて作成することができ、システム上での管理も可能とされている。

 休暇に関する事項は就業規則の「絶対的必要記載事項」にあたる。時季を指定する場合は対象となる労働者の範囲、時季指定の方法について就業規則に記載しなければならないことにも注意しよう。

 従業員に年5日の有給休暇を取得させなかった場合や、就業規則に記載していない場合は罰則が課せられることがあるため、十分な配慮と対応が必要だ。

有給休暇の「計画的付与制度」の活用

 「計画的付与制度」とは、有給休暇のうち5日を超える分について、企業が計画的に割り振りできる制度を指す。計画的付与制度の概要と活用例を押さえ、従業員の有給休暇の取得促進に有効活用しよう。

計画的付与制度の概要
 「計画的付与制度」は、企業が有給休暇を計画的に割り振ることにより、従業員の有給取得率を向上させることを目的としている。企業は労務管理がしやすく計画的な業務運営ができ、従業員はためらいを感じずに有給を取得できるという点で、双方にメリットがある。この制度を用いるためには、以下の3つの要件を満たしていることが必要だ。

・就業規則による規定があること
・労使協定が結ばれていること
・有給休暇のうち、5日を超える分であること

 有給休暇のうち5日は、個人が自由に取得できる日数として必ず残しておかなければならないので注意が必要だ。例えば、付与日数が10日の従業員の場合は5日、20日の従業員の場合は15日が計画的付与の対象となる。なお、前年度取得されずに次年度に繰り越された日数がある場合は、繰り越された日数を含めて5日を超える部分を計画的付与の対象とすることができる。
 
計画的付与制度による付与方法
 計画的付与制度では、以下のようにいくつかの方法で有給休暇を付与することができる。

・企業もしくは事業場全体の休業による一斉付与方法
・班・グループ別の交替制付与方法
・年次有給休暇付与計画表による個人別付与方法

 企業、事業場の実態に応じた方法を選択することで、業務の効率化、生産性の向上に繋がると考えられる。それぞれの方法の具体例が厚生労働省のホームページに記載されているので、参考にするとよいだろう。
 ( 参考:厚生労働省「年次有給休暇の計画的付与制度」 )

計画的付与制度の活用例
 計画的付与制度の活用例を紹介する。

①夏季、年末年始に計画的に付与し、大型連休とする
 日本では盆(8月)と年末年始に休暇を設けることが多いため、これらの休暇に計画的付与の有給休暇を組み合わせることで、大型連休にすることができる。
 
②ブリッジホリデーとして3連休・4連休を設ける
 暦の関係で休日が飛び石となっている場合に、休日の橋渡し(ブリッジ)として計画的付与制度を活用すると、連休とすることができる。例えばGWに計画付与を行うと、10日前後の連続休暇を実現できる。

 厚生労働省の資料によると、計画的付与制度を導入している企業は、導入していない企業に比べ有給休暇の平均取得率が8.6%高いとのデータがある。当該制度は企業があらかじめ休暇取得日を割り振るため、労働者がためらいを感じることなく取得できること、事前に休暇日が把握できるため予定が立てやすいことが理由のようだ。

まとめ

 働き改革が推進され、様々な生活スタイルも確立している昨今。企業は従業員により多くの有給休暇を取得させ、心身の疲労回復や業務効率の向上につなげていくことが大切だ。有給休暇の計画的な運用を行い、スムーズな取得のための環境整備に努めよう。
参考:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」

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