今月の人事・労務トレンドVol.6 ジョブ型雇用のメリット・デメリット
職務内容ありきで人を採用する「ジョブ型雇用」。様々な背景や課題から、関心が集まる採用手法の1つだ。時代の流れや求職者のニーズ、企業の体制に伴い、ジョブ型採用を導入しようと考える担当者もいるのではないだろうか。
今回は、ジョブ型雇用の特徴と、企業・求職者それぞれにとってのメリット・デメリットを紹介する。従来型の採用手法である「メンバーシップ型雇用」との違いを踏まえ、企業や時代に対応した採用活動に役立ててほしい。
目次
●ジョブ型雇用の特徴
●ジョブ型雇用のメリット
●ジョブ型雇用のデメリット
●まとめ
ジョブ型雇用の特徴
ジョブ型雇用とは具体的にどのような雇用スタイルを指すのだろうか。ここでは、ジョブ型雇用の概要とメンバーシップ雇用との違い、ジョブ型雇用が取り入れられつつある背景について紹介する。
ジョブ型雇用とは
ジョブ型雇用とは、「仕事に合わせて人を雇用する」採用スタイルで、職務(ジョブ)の内容や勤務地、労働時間などが限定された雇用契約を指す。企業は仕事内容や目標、必要な知識やスキル、経験、資格など、仕事に関する具体的な情報と採用条件を「ジョブディスクリプション(職務記述書)」と呼ばれる書類にまとめ、求職者はそれを見て応募する。ジョブ型雇用によって採用された社員は、アソシエイト社員、エリア社員(地域限定社員)と呼ばれることがある。
欧米では一般的な雇用システムで、働き方の多様性が求められるようになった今、注目を集めている。
メンバーシップ雇用との比較
ジョブ型雇用とよく対比される雇用形態として、メンバーシップ型雇用が挙げられる。メンバーシップ型雇用は、「人に合わせて仕事をあてる」雇用スタイルだ。「年功序列」や「終身雇用」の特徴を持ち、長期的に育成することを前提としているため、総合職として採用するケースが多い。
一方、ジョブ型雇用では職務の幅があらかじめ限定されているので、求められるスキルも専門的で、転勤や異動もない。そのため、給与はメンバーシップ型雇用では年齢や勤続年数、職務遂行力によって決定する職能給となり、年功によって昇進があるが、ジョブ型雇用ではスキルや仕事の成果によって決まる職務給となり、昇進などはない。
また、ジョブ型雇用は即戦力として採用するためOJTや研修がなく、個人のスキルは社外で身につけ、自己研鑽していくことが一般的だ。
以下に、ジョブ型雇用とメンバーシップ雇用の具体的な違いをまとめた。
ジョブ型雇用が取り入れられつつある背景
ジョブ型雇用の導入が進んでいる背景には、
・国際競争力の強化
・人手不足
・ダイバーシティの浸透
の3点が挙げられる。
第一に、第4次産業革命とも呼ばれる技術革新に伴う国際競争の激化から、最先端技術を扱うことのできるスペシャリストの需要が高まっていることだ。従来のメンバーシップ型雇用では特定の専門性を高めることが難しいため、ジョブ型雇用を取り入れてグローバルな競争力を強化することが目的としている。しかし、技術革新に伴い各企業で多くの専門技術者が求められており、今後はより多くの人手不足になると懸念されている。
次に、多様な人材を積極的に活用する「ダイバーシティ(多様性)」の考え方が浸透しつつあることだ。少子高齢化が進む日本ではいかに労働人口を確保するかが急務となっており、その解決策の一つとして時短勤務や在宅ワーク、外国人労働者や定年退職者の再雇用を取り入れ、勤務地や時間を限定しながらその人の持つスキルを活かす働き方を推進している。
このような理由から、企業においてジョブ型雇用を積極的に進める動きが見られるようになった。
ジョブ型雇用のメリット
ジョブ型雇用にはどのようなメリットがあるのだろうか。ここでは、求職者、企業それぞれにとってのメリットを紹介する。
求職者のメリット
ジョブ型雇用では、求職者に以下のようなメリットがある。
・自身の専門分野を仕事に活かせる
・スキルを高めたり知識を深めたりすることができる
・スキルや経験で報酬が決まる
・仕事のゴールが明確
・長時間労働になりにくい
・ワークライフバランスが取りやすい
・異動や転勤がない
ジョブ型雇用ではジョブディスクリプション(職務記述書)や雇用契約書において職務、勤務地、労働時間などの条件が定められている。そのため、求職者は自分の専門に特化した分野のみを仕事にできるだけでなく、自身の専門的な知識をより深めることが可能だ。スキルや経験、仕事の成果が給与に直結するため、スキルを高めて厚待遇の会社に転職することもできる。
また、契約にないジョブローテーションや残業もないため、ゴールが明確で生産性を高めやすい。長時間労働に繋がる可能性も低いので、ワークライフバランスがとりやすいと言えるだろう。
企業のメリット
企業においては、以下のようなメリットがあると言える。
・専門的なスキル・知識を持った人を採用できる
・欠員が出た際に最適な人材を探しやすい
・新鮮な考え方や経験を取り入れられる
企業はあらかじめジョブディスクリプション(職務記述書)に詳細な採用条件を明記しているため、求める人材に出会いやすくなるというメリットがある。仕事に必要な専門スキルを持った人材を採用するため、採用後は即戦力としての活躍が期待できる。
また、従業員の流動性が高いため、顔ぶれが変化することで多様な経歴や新鮮な考え方を持つ人材と出会える可能性もあるだろう。
ジョブ型雇用のデメリット
一方で、ジョブ型雇用にはデメリットもある。ここでは、求職者、企業それぞれにとってのデメリットを紹介する。
求職者のデメリット
求職者におけるジョブ型雇用のデメリットには、以下のようなものがある。
・新卒は仕事を得づらい
・社内でのキャリアアップが難しい
・研修制度がない
・雇用が不安定になりやすい
ジョブ型雇用で求められる人材は職務を遂行できる専門的な知識や能力を備えた人であるため、新卒者にとってはハードルが高い。専門スキルを持っていることが前提となるため一般的に社内研修がなく、従業員は常に自己研鑽を続ける必要がある。
また、ジョブディスクリプション(職務記述書)によって行う仕事が決まっているため、社内でのキャリアアップが難しく、勤続年数で給与が上がらないというという特徴もある。景気や企業の都合などで専門とする職務がなくなった際はジョブローテーションや職種転換という選択肢がなく、解雇や退職のリスクがあるとも言えるだろう。
企業のデメリット
企業においては、以下のようなデメリットがある。
・契約外の仕事を依頼できない
・雇用が不安定になりやすい
・チームワークを作りづらい
ジョブ型雇用では職務や勤務地などに制限があるため、急な欠員への対応やキャリアアップのための異動などが行えない。従業員の急病や急な退職などで欠員が出た場合は、代替要員を確保できるまで仕事が止まってしまう可能性がある。
また、従業員がスキルアップや厚待遇を求めて他社に転職する可能性もあり、雇用が不安定になりやすいとも言える。人員の入れ替わりが多いため、チームワークを作りづらいという点も挙げられるだろう。
まとめ
働き方改革の施行やダイバーシティ経営の観点などから、雇用形態が多様化している。また、生産年齢人口が減少する社会において、働く人のニーズを踏まえた採用方法の選択は、企業経営を存続させる上でも重要になるだろう。それぞれの採用手法のメリットとデメリットを踏まえつつ、人事・採用のシステムを見直してみてはいかがだろうか。