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今月の人事・労務トレンドVol.10 フリーアドレスのメリット・デメリット

2020.10.19

 新しい働き方の1つとして、「フリーアドレス」というオフィススタイルが注目されている。フリーアドレスとはどのような働き方で、企業や従業員にとってどのような利点があるのだろうか。

 今回は、フリーアドレスの概要や導入の背景、フリーアドレスのメリットとデメリットを紹介する。企業における新しい働き方の選択肢の1つとして、それぞれのポイントを把握した上で導入を検討してほしい。

目次

●フリーアドレスとは
●フリーアドレス導入の背景
●フリーアドレスのメリット
●フリーアドレスのデメリット
●まとめ

フリーアドレスとは

 フリーアドレスとは、従業員が特定の自席を持たず、働く席を業務内容に合わせて自由に選択できるオフィススタイルを指す。ここではフリーアドレスの概要や、比較されることの多いABWとの違いを解説する。

フリーアドレスの概要
 フリーアドレスは文字通り、フリー(=自由)なアドレス(=所在)を指す。決められた位置に1人1台のデスクを配置する従来のオフィススタイルとは大きく異なり、空いている席や自由な場所で働くことのできるオフィスレイアウトの一種だ。IT企業やベンチャー企業などの比較的自由度が高いクリエイティブな企業や、モバイルワークをメインとした企業を中心として導入が進んでいる。

 大きなテーブルに椅子を設置する、ソファ席を設けるなど、オフィス空間のデザインの仕方は企業によって異なるが、従業員はノートパソコンもしくはタブレット端末などを使用して業務を行い、従業員固有のデスクは置かず、書類や文房具などは個人用のキャビネットやロッカーに収納することが一般的だ。

 緩やかなフリーアドレスの導入として、部署ごとにエリアを決めエリア内でフリーアドレスを取り入れる「グループアドレス」を採用している企業もある。

ABWとの違い
 ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)は、業務の内容に合わせて最適な作業環境を選択する働き方だ。「集中して作業を行いたい場合は静かな個室」「自由なアイデアを生み出したい場合はソファー席」「ミーティングで活発な意見交換をしたい場合はオープンスペース」など、自らが置かれている状況や抱えている業務によって作業場所を選ぶことを指す。

 フリーアドレスとは特定の席を設けないという共通点があるが、フリーアドレスはスペースや座席などの物理的な場所を選択しているのに対し、ABWは目的に応じて働き方や行動、パフォーマンスに重きを置いていることが特徴だ。従業員が自由に環境を選択することで満足度が高まり、生産性の向上やワークライフバランスの実現が期待されている。物理的な環境を含めて業務のベストパフォーマンスを目指すABWは、フリーアドレスの進化形と言えるだろう。

フリーアドレス導入の背景

 フリーアドレスとはどのような目的で企業に導入されるようになったのであろうか。ここでは、フリーアドレスが企業に導入された背景を解説する。

多様な働き方の浸透による意識の変化
 フリーアドレスが最初に導入されたのは、日本の清水建設技術研究所が1987年に行った試みだと言われている。当初はデスクを共有したり営業担当者の空席の回転率を上げたりすることによる、コストの削減を目的としていた。

 また、働き方改革によって新しい働き方の意識が生まれたことで、従来の働き方を見直す動きが出てきた。テレワークなどの新しい働き方が浸透したことにより、新たなオフィススタイルであるフリーアドレスに注目が集まっている。

デジタル技術の進歩によるオフィス環境の物理的な変化
 情報通信技術(ICT)の進化により、企業におけるモバイル化やクラウド化が進んだことも大きい。従来のオフィスではデスクにさまざまな備品や書類が置かれていることによってフリーアドレスを行うことが困難であった。しかし、固定電話のモバイルフォン化、デスクトップパソコンのノート化・タブレット化、保管文書の電子化・ペーパーレス化などにより物理的な障害が減ったことで、フリーアドレスを実現しやすくなったと言える。

新型コロナウイルス感染症の影響
 新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、オフィススタイルをまた違った観点でとらえる必要が出てきた。まず、ソーシャルディスタンスを保つためにオフィスレイアウトの見直しが必要になったことが挙げられる。また、テレワークの推進によって出社する従業員数が減り、オフィスのスペースが余るようになったことから「スペースの有効活用」といった観点からも改めて注目を集めている。

フリーアドレスのメリット

 フリーアドレスを導入することによって、企業や従業員にはどのような利点があるのだろうか。ここでは、フリーアドレスのメリットを紹介する。

コミュニケーションの活性化・コラボレーションの促進
 フリーアドレスは部署などにこだわらず自由に席を選択できるため、必然的にさまざまなメンバーと関わる機会が生まれる。他部署のメンバーやこれまで関わることの少なかった人とコミュニケーションをとることで、横の繋がりが広がるだけでなく、新しいアイデアの創出や多様なコラボレーションの促進が期待されている。

チーム編成が容易
 目的や状況に合わせて自由に席を選択できる特徴には、プロジェクトごとのチーム編成がしやすいというメリットもある。チームのコミュニケーションやグループワーク、情報共有や決断などがスムーズに行えるため、業務の効率化や生産性の向上に繋がると考えられている。

クリーンデスク意識の向上、社内美化
 フリーアドレスでは自席を有さずオフィス全体が共有スペースになるため、私物が置かれないことでオフィスが整理整頓されやすくなる。個々が抱える書類の電子化・ペーパーレス化も相まって、必然的に社内の環境美化が促進されるだろう。

スペースコストの削減
 全従業員分の座席数から在席率に沿った座席数に数を絞ることで、オフィスの省スペース化やオフィス賃料の削減を行うことも可能だ。空いたスペースをコミュニケーションエリアなどに活用すれば、従業員が多様な選択肢を持ってフリーアドレスを実践することができるだろう。

フリーアドレスのデメリット

 さまざまなメリットがあるフリーアドレスだが、企業や運営の方法などによって向き不向きや課題点があることも事実だ。ここでは、フリーアドレスのデメリットを紹介する。

集中しにくい
 フリーアドレスはオープンな作業空間と日々のメンバーの入れ替わりがスタンダードであるため、個々のパーソナリティによっては集中して業務が行いづらいことや、他者の会話、周囲との近すぎる距離感にストレスを感じるなどのデメリットが考えられる。企業は集中できる空間を設けるなどのオフィスレイアウトの工夫、ミーティングや電話時のルール設定などを行う必要がありそうだ。

マネジメントがしにくい、所属意識が低下しがち
 座席を自由に選択できることにより、どの従業員がどこにいるのかを把握しにくい、業務の進捗がわからずチーム全体のマネジメントがしにくいという課題も挙げられる。また、物理的な距離によって共有や報告などの機会が減ることで、従業員のチームや企業への所属意識が低下することが懸念されている。

導入コストがかかる
 フリーアドレスを行う場合、Wi-Fiなどの通信環境や電子機器の整備、オフィスレイアウトの変更に伴うテーブルや収納などの設備導入などによって初期投資が必須となる。目的に応じた規模や費用を確認し、対費用効果を考慮した上で導入計画を行わないと、導入コストがかさむだけでなく、導入後も作業環境の不備で席が固定化される可能性があるだろう。

セキュリティ面に不安がある
 経理や人事などの専門的かつ少人数で重要データを取り扱っている部門では、高いセキュリティが求められるためフリーアドレスには不向きだと言えるだろう。また、規模の大きい企業や広いオープンスペースでは社内外の人間の識別が困難になる可能性もあるため、入退室の管理システムや身分証の携帯など、セキュリティ面を強化することが課題となる。

まとめ

 フリーアドレスにはオフィスのコスト削減や従業員の意識改革、コラボレーション創造などのメリットがある一方で、さまざまな課題点があることを紹介した。多様な働き方や新しい生活様式が浸透し始めている現在、オフィスの在り方が改めて模索されているのかもしれない。企業や従業員にとって最適なオフィスデザインや働き方を検討してみてはいかがだろうか。

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