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企業の社員が健康でいるために。グローバルで取り組むJ&Jの「健康経営」とは?

2021.04.15
オフィスのミカタ編集部

 近年、注目されつつある「健康経営」。日本では一般的に、経済産業省が提示しているものがメジャーであり、これが近年の「ホワイト企業」などの流れを作っている。従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することで、結果として従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化を実現し、企業の業績向上や株価向上などを目指す経営手法のことだ。

 昨年末に行われたジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル カンパニーの「健康診断・人間ドック、がん検診に関する意識調査」によると、新型コロナウイルスの影響から、健康診断の受診を「来年度控えたい」と回答した人の割合が3割を超える結果となった。
https://officenomikata.jp/news/11844/

 少子高齢化が進む日本。一人ひとりが健康で幸福で長く働くためには、継続的な健康診断の受診と、その結果をしっかりと意識して生活習慣に落とし込んでいくことが重要であり、企業側も従業員に対し、健康診断をはじめ自分の健康状態を知ることの重要性を浸透させることが「健康経営」の第一歩だ。

 企業における健康経営と、従業員が健康診断をはじめ適切な医療を受診することの重要性を、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループの統括産業医である岡原伸太郎氏に伺った。

そもそも「健康経営」が今、重要視されている理由とは?

--最初に、「健康経営」とは何か教えてください。

 日本でよく聞く「健康経営」というのは、経済産業省が提示するものが有名だと思います。従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することと定義されています。
 これまでの会社における「健康管理」は、従業員を職業病にさせない、労災=けがをさせないなど、「労働基準法」や「労働安全衛生法」などの法令に則った、コンプライアンス重視の取り組みが主流でした。もちろん、これらも会社の重要かつ基本的な責任であり、取り組みです。健康経営の中で言えば、「守り(健康を守る)」の健康経営と言えるでしょう。
 
 しかし健康経営の定義は、「攻め(健康を増進し、活かす)」の姿勢や取組が含まれるのが特徴です。責任があるから守るというだけにとどまらず、従業員のためにも、会社や社会のためにも最大化して、それによって個人の人生も、企業の価値も豊かなものできると考えられています。
 
 特に日本でこの考えが重要視されている大きな理由の一つに、日本の「少子高齢化社会」という問題があります。これから先、労働人口が減少していくことは明らかですし、今働いている人々も高齢化していきます。そのため、病気になっても働けること、健康で長く働くために健康を意識し、幸福度を高めていく取り組みが、今の日本にとって重要な課題であると考えられています。

--企業が健康経営に取り組むべき理由・意義について教えてください。

 良い製品・サービスを提供し顧客の満足につなげたり、社会をより良いものにしていくためにはまず、従業員が良い仕事をできることが重要だと考えています。そのためにも、根源である従業員の幸福度を高め、健康を守り増進させるための取り組みをするのです。従業員の健康に「投資」をすることは、従業員やその家族にとっても良いだけでなく、そこから企業価値の向上や社会の豊かさにもつながります。

 経済産業省が取得を薦めている、「健康経営銘柄」選定と「健康経営優良法人」認定というものがあります。毎年、希望する企業側からの応募を募り、会社の健康経営に関するポリシーや取り組みなどについての調査結果をもとに評価し、条件を満たした企業が選定・認定されるというものです。この選定・認定を受けることで、採用をはじめさまざまな効果が表れます。

 こうした認定制度の狙いは、優良な法人を見える化することで、従業員や求職者、関係企業などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的に評価を受けることができる環境を作ることです。

 例えば、地方の中小企業がこの認定を受けていると、地元や地方で働きたいと考えている求職者へのアピールポイントにもなります。よい環境で長く働きたいと考える求人が集まりやすくなるため、人事にかかる経費やリソースなども減りますし、何より従業員の満足度が上がるという点も、健康経営に取り組む大きな意義だと考えます。

ジョンソン・エンド・ジョンソンが掲げる、「我が信条(Our Credo)」ベースの考え方

--御社は企業理念として「我が信条(Our Credo)」を掲げ、経営層だけでなく社員一人ひとりにもあらゆる活動の指針として浸透していると伺っております。「我が信条(Our Credo)」について改めて教えてください。

 「我が信条(Our Credo、以下「クレド―」)」は、いわゆる「経営理念」や「経営哲学」だと考えていただければ想像しやすいかと思います。この「クレドー」が起草されたのは、1943年です。現在49か国語以上に翻訳され、世界中の従業員がこれをベースに仕事をしています。

 「我が信条(Our Credo)」は、顧客、社員、地域社会、そして、株主という四つのステークホルダー(利害関係者)に対する責任を具体的に明示したものです。ジョンソン・エンド・ジョンソンは、経営者をはじめすべての従業員がこれを把握し、理解しています。

 仕事をしていく中で様々な判断や物事を進めていく際に、「クレドー」を指針として何が最適かを考えています。ここに、正解が書いてあるわけではありません。しかしこの「クレドー」という枠組みの中で考えていくことで、日々いろいろな意見や議論が飛び交うなかでも何が最適なのかを導くことができます。

---御社は経営戦略の一環として健康経営を推進していると伺っております。御社が健康経営に取り組む背景や理由について教えてください。

 健康経営という考え方は、2010年あたりから日本でも活発になってきました。欧米をはじめ世界でも類似の考え方は存在しており、アメリカでは1990年代から「ヘルシーカンパニー」という考え方が重要視されてきました。しかしジョンソン・エンド・ジョンソンはもっと昔、1886年の創業後、初期から休養室やスポーツクラブやジムを社内に設けており、このころから健康経営に通じるものに取り組んできたと考えています。

 その後1943年に先ほど説明した「我が信条(Our Credo)」が起草され、そこに記されている四つの責任のうち、第二の責任として「従業員への責任として、衛生的で安全な労働環境で働いてもらい、従業員の健康と幸福を支援する」という内容が盛り込まれています。この頃から、今でいう社会的責任(CSR)のような考え方も持っていましたし、従業員の健康や幸福への支援も大切にして、様々な方法で行ってきたという背景があり、今につながっています。

 つまり、「我が信条(Our Credo)」による経営をしていくことの一部が、「健康経営」にもつながっているのです。

 ジョンソン・エンド・ジョンソンが健康経営に取り組む理由ですが、まず、仕事だけでなく普段の生活においても従業員が健康でより幸せな生活を送ることが出来れば、ビジネスは健全で健康的となり、より発展的になり、社業を通じて社会に貢献していけると考えているからです。

--健康経営の具体的な施策として、Energy for Performance(E4P)に取り組んでいると伺っております。Energy for Performance(E4P)について教えてください。

 「Energy for Performance(E4P)」というのは、「クレドー」に基づいて、仕事を含む人生におけるパフォーマンスを最大にすることを目標としたプログラムです。直近では、2015~2020年までの5年間の計画の中で、現在約13万人の従業員のうち約10万人の受講を目指して計画を立てました。

 内容としては、科学的な研究データに基づいて作られています。プロスポーツ選手やビジネスパーソンが最高のパフォーマンスを発揮するためにメンタル面やフィジカル面、マインドなどを最大値にするための知見に基づいたプログラムです。パフォーマンスを最適にするための適切なエネルギー管理の手法について運動や食事をはじめ、効果的・効率的に仕事に取り組むための心身の活かし方などもプログラムに含まれます。

 このプログラムをフルコースで受講すると丸2日を要しますが、その期間は業務を離れることになります。しかしこれを会社としてとても大事なものとして位置付けているため、上司やチームのメンバーなどが配慮し、時間を確保して積極的に受けてもらうようにしています。

 参加することで、自分の人生にとっての主役は「自分」であるという意識が生まれ、最高の状態を作るためにはどうしたらよいのか、なども発見することができますし、人生観が変わったなどという声も聞かれます。

 このトレーニングが終わっても仕事や人生に落とし込んでもらうため、社員には自社で開発した専用の健康管理アプリのダウンロードを推奨しています。例えば、このアプリ上に歩数や食事などを記録することでポイントがたまり、このポイントを使ってギフトカードの懸賞に応募ができるなど、楽しみながら健康管理を身近に感じてもらうことができるよう設計しています。

--J&Jグループは「健康経営の企業価値」への寄与に関する調査をグローバルで行っていると伺っております。 調査で分かった主な効果などについて教えてください。

 先ほどご説明させていただきました通り、従業員にいろいろなプログラムを実施したり、健康管理アプリの提供などに注力しています。これらは健康経営の投資の一環です。プログラムは、参加している人としていない人の健康状態やパフォーマンス等への影響を確認し評価しながら、日々取り組みをアップデートしています。社員を対象とした調査をしたところ、従業員の健康に1ドルの投資をすると、3ドルのリターンがあるという結果が得られました。また最近ですと、1ドルの投資は6ドルの効果があるという結果も検証されているところです。

健診・検診や適切な医療受診には、企業側の社員に対する適切な働きかけが大切

--御社が昨年行った調査で「健康診断」「がん検診」の受診回避意向は「来年度控えたい」が3割以上という結果だったと伺っております。「健康経営」の中で従業員に適切な健康診断を受けていただく意義について教えてください。

 健康診断というものは、「労働安全衛生法」という法律に基づいて、会社は従業員に対して1年に1回以上、健康診断を受診させる義務があります。従業員の健康状態を会社が把握し、過重労働などが起きないよう働き方を見直す指標にするため、「やらなければいけないこと」と定義づけられています。また反対に、従業員も提供された健康診断を受診する義務があります。健康診断は、自分の健康状態を経年的に見ることができる機会でもありますので、自分自身の健康状態を把握し、生活や働き方を見直すためにも役立てていただきたいです。

 最近では通常の検査項目に加え、がん検診などのオプションがつけられるようにもなっています。特にがんというものは、とにかく早く見つけ治療をすることが生存率を上げること、後遺症のリスクを下げることに直結します。健診を受けることで、がんをはじめ重大な病気の元となる糖尿病や高血圧などの問題点を早期発見することができたり、予防をしていくことができます。

 法定の健康診断の結果は、企業側も把握し保管する義務があります。また、健康診断の結果に異常があった従業員には、医師や保健師による保健指導を提供するよう努めることが法令で求められています。また、従業員の健康診断結果を集団として分析し、「高血圧の人が多い」などの傾向をとらえ、健康経営に取り組む施策などを考える際に役立てることも可能です。

--従業員の適切な健康診断受診を後押しし、健康経営に取り組むために、企業側はどういった働きかけが出来るのでしょうか。

 まずは、浸透させることです。従業員一人ひとりが尊重され、大事にされていると感じられるような方法で、健康診断は受けたほうが良いものだという共通認識がいきわたることが重要です。「なぜ受けるのか」という問いに対して「法律だから」ということだけではなく一歩踏み込んで、なぜあなたに必要なのか、そして会社としてなぜ受診してもらうことが必要なのか。これを何らかのプログラムや説明の場を通してしっかり伝え、自発的に受診してもらえるよう促していくことが大事です。

 もう一つポイントなのが、集団心理を理解することです。当社の行ったアンケート結果からもわかるように、新型コロナウイルスの流行に伴い、健康診断のために病院に行くのが怖いという方が多くいます。こういった不安は、科学的根拠はもちろんですが、影響力のある人が率先して健康診断やがん検診を受け、この情報を発信していくことで世の中の不安をある程度取り除くことができます。

 この例と同じように健康経営にはリーダーシップというものが大事で、まずは影響力のある人が率先して受けることで安心感が伝わります。経営層・上司など健康診断を受診しましょうと発信している本人たちが受診していないとなると、やはり不信感だけが残り、「健康診断に行かない」という結果を招いてしまいます。

 会社側は説明をすると同時に、発信する立場の人間が率先して受診し、医療機関についても安心できる病院の情報などを集めて従業員に提供することが安心につながると考えています。

ジョンソン・エンド・ジョンソンが取り組む、これからの健康経営と社会貢献

--J&Jグループのこれからの健康経営の取り組みについて教えてください。

 2015年から2020年にかけて行ってきた5か年計画のプログラムが終わり、次の戦略と目標を設定している段階です。この計画の中で何をやっていくのかは5年ごとに変わりますが、やはり根源にあるのは「クレドー」の実現です。また、従業員の健康が会社の経営においてとても重要であるということは今後も変わりません。

--健康経営を考える経営層・担当者へメッセージがあればお願いします。

 100年以上にわたって健康経営を続けてきたジョンソン・エンド・ジョンソンだからこそ言えるのが、健康経営をすることで大きく成長し社会に貢献してこられたということです。健康経営がいかに大事かということの裏付けになると思います。

 今、新型コロナウイルスの流行によって、医療機関の受診をリスクと感じる人が増え、会社の健康経営はとても難しい局面に来ていると感じます。

 当社の調査結果や、安心して必要な医療を受けるために、我々をはじめ皆様が気を付けるべきポイントや政府の指針、専門家からのメッセージなどを、当社公式サイト内の特設ウェブサイト「今だから知っておきたい ウィズコロナ時代の医療受診」として公開しています。
https://www.jnj.co.jp/jjmkk/healthcare-of-new-normal

 本サイトが健康診断をはじめ、病院に行くことをためらっている方々や、社員への健康診断の重要性をどう浸透させるのか悩んでいる方々の参考となれば幸いです。